二次創作小説(紙ほか)
- Act12:真相 ( No.198 )
- 日時: 2015/10/13 22:35
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
***
あの日、友を、理解者を失ったあの日から。
意識しなくとも、彼の心には復讐心が宿っていた。
自分の大切な者をこんな目に遭わせた世界を許さない。
そして、彼女達を守れなかった自分も絶対に許さない。
自責こそが罰だった。
自分に課せられる唯一の罰だった。
責めて、責めて、自分を限界まで追い詰めて。
何時の間にか、仲間のことも忘れていた。
だが、そんな暗い夜は終わった。
また、少年の心に新しい太陽が昇る——
***
ぱきん、ぱきん、と小気味の良い音が鳴り、罪の鎖は砕け散った。
起き上がるコトハ達は、この時点で確信していた。
デュエルが終わった——と。
次の瞬間、黒い靄が現れる。
そこから現れたのは——レンを肩に抱えたヒナタの姿だった。
心配で一杯だったコトハの顔に安堵の表情が戻る。
ふらり、と倒れそうになる彼を、すぐにフジが受け止めた。
「よくやった、ヒナタ」
「ヒナタ! 勝ったんだね! レンを……助けられたのね!」
「ああ……本当、ギリギリだったけどな」
息も絶え絶えのヒナタは、無理して笑顔を作って見せた。
それは、仲間に心配を掛けさせないための笑顔だった。
もぞもぞ、今まで意識を失っていたレンが動く。
「……僕は」
そして、全てを思い出し、彼は悔しそうな顔を浮かべる。
墜ちてしまった自分に、仲間に理不尽な怒りを向けていた自分に憤りすら感じる。
どうして、こんなことをしてしまったのだろう、と後悔の念が浮かんでは消えて、浮かんでは消えてを繰り返す。
だが、この言葉を言わないからには始まらない気がした。
「本当に、すまなかった」
謝罪の言葉が、彼の口から紡がれる。
「もう、良いんだ」とヒナタが返した。
「僕は、いつの間にか貴様を恨んでいたんだ、ヒナタ。あの日、貴様に出会っていなければ、僕は平穏に暮らせていたかもしれないと」
だが、それは違うことに彼は気付いていた。
ゼロの因子を持っていた自分は遅かれ早かれオラクルに狙われていただろうし、むしろヒナタ達に出会っていなければ、自分は誰にも助けて貰えなかっただろうということに。
「僕はシオを、スミスを失ったショックを未だに引きずっていたんだろう」
「誰かを失った穴なんざ、簡単に埋まりはしねーよ」
言っただろ、とヒナタは返した。
「皆、引きずりながら生きているんだ。俺も、お前と同じで大切な人を失ったことがあるから」
「……ヒナタ、お前が……?」
だけど、と彼は言った。
自分の幼馴染はもう、この世には居ない。
だが、レンの場合は違う。
「シオにはいつか、絶対にまた会える! そんときは、意地でもあいつの記憶を元に戻すために、俺達でまた頑張ろうぜ!」
「そうね。シオちゃんの鎧龍での思い出を無かったことになんか、させないわ」
「だから、諦めるな。絶対に、な」
そうだな、と彼は返した。
いつか、また会える。
そのいつかが何年後、何十年後だとしても。
「スミスは——」
ヒナタは、そこで口を閉じてしまった。
それでも、相棒にはもう会えない。
あの、無法の男には、二度と会えない。
だが、それも彼の中では既に決着がついていた。
「大丈夫だ。あいつは僕に、遺してくれたよ。僕が強くなる理由を」
その言葉を聞いて、彼は安堵した。
どうやら、もう大丈夫そうだ、と。
「でも、1人でもう抱え込むなよ?」
「分かっている。悪かったな」
「あたし達は仲間なんだから」
「ああ」
空を仰ぎ、彼は思った。
自分には、仲間が居たことをやはり忘れてしまっていたのだ、と。
そして今日、改めてそれを思い出すことができた。
もう二度と、忘れることは無いだろう——
「全くよぉぉぉ〜!! このクソゴミカス共がぁぁぁ〜!! 尽くオレサマの邪魔をしやがってぇぇぇーっ!!」
刹那。声が轟いた。
とても、邪悪な声だ。
カードがレンのデッキから飛び出していく。
そして、虚空に実体化した。
それは、ぬいぐるみだった。それも、3頭身のデフォルメされたDJのような姿で、頭からはグロテスクに脳みそが飛び出ている。目は、ボタンで出来ているが、片方は外れていた。口は深い深い深淵のように、底が見えない。
「クリーチャー!? 一体、あれは——!?」
「恐らく、アヴィオールのステラアームド・クリーチャーだな」
「フジ先輩!?」
タブレットで目の前の化物の正体を調べた彼は断言した。
「ニャンクスの時もそうだったが——恐らく、奴がここらの騒動の元凶と言っても良い」
彼は述べる。
クリーチャーは表裏一体の存在だと。
呼び出す側のクリーチャーの影となるのが、ステラアームド・クリーチャーだ、と。
しかし。それでも呼び出す側に成り代わろうとしてくる。それが邪悪なものならば尚更だ。
レンはこの瞬間、全てに気付いた。
——あの脳裏に映った映像は——!!
鎖で縛られた黒い龍。
まさか、あれが——
そう確信したとたんに、彼は踏み込んで叫んでいた。
「アヴィオールもまた、奴に捕らえられていたってことか!!」
「その通り〜!! 俺の名は《悪夢喰種 アルゴリズム》!! ”死神博士”の命を受け継ぎ、オレサマがアヴィオールに成り代わり、全てを支配するため!! オレサマは復活したこいつの身体をゾンビにして乗り移ったのさぁぁぁーっ!!」
考えてみれば、前世で死んだニャンクスやハーシェルも、この世界に復活したときは生身の肉体を得ていたにも関わらず、アヴィオールのみが骨と腐肉で出来たゾンビの姿になっていた。
つまり、これはあのクリーチャーがアヴィオールに細工をしたからだということは、最早目に見えて明らかだった。
”死神博士”という人物の詳細が気になるところではあるが、もうこの世にいない人物であることは察せられた。恐らくはその人物クリーチャーなのだろう。それも、相当あくどい部類のクリーチャーなのであろう。
「いーひっひっひぃーっ!! 死神博士は死ぬ前にオレサマにアヴィオールを頼むと伝えてくれたのさぁぁぁーっ!! オレサマが支配してやる、アヴィオールの身体で全ての世界をなぁぁぁーっ!!」
「最高に汚い”悪”とは!!」
んあ? とクリーチャーが振り返る。
そこには、凄まじい形相で立ったレンの姿があった。
「貴様のことだアルゴリズム!! 何も知らない、関係の無い者を巻き込み、それを容易く踏みにじる行為!! そして、貴様の最大の罪はアヴィオールの名誉と尊厳を傷つけた挙句、関係の無いものの人生を狂わせたことだ!! ”死神博士”とやらが誰なのか、そして貴様が何者なのか僕は知らないが、死者の肉体を自分のために弄ぶなど闇文明の風上におけない外道の所業。僕は今、激しく怒っている!! 貴様のような、最高に醜い悪を見て、吐き気すら催しているのだ!!」
怒り。
そこには、ただひたすら、目の前の外道への憤怒が込められていた。
一時の激情に身を任せることは許されない罪。
しかし。レンは怒らずにはいられなかった。
目の前の醜い悪に。
踏み込んだ彼の手には、デッキが握られていた。
先程とは別のデッキ。
黒く、完全なる黒で染められた、彼の美学の結晶のデッキだ。
「ヒナタ、僕は見たんだ。牢獄に囚われた黒き龍の姿を」
「そ、そうなのか!?」
「ああ。貴様にダイレクトアタックをされる直前に、そんなビジョンが流れ込んできた」
「い、一体、なんでそんなことが」
若干困惑しながら答えるヒナタだが、レンは断言してみせる。
「間違いない」と。
そして1歩、足を進めた。
「そして僕にはまだ、やり残したことがある」
「レ、レン、戦うってのか!? 無茶するな!! 今のお前は——」
「頼む。今度こそ、僕を信じてくれ。奴はいずれにしても倒さねばならない」
仲間の方を振り向かず、彼は言った。
「これだけは、僕にやらせてほしい。僕が、この因縁に決着をつけるんだ!!」
叫んだ彼の周りから、黒い靄が現れる。
決闘空間が開かれた——!!
「レン!!」
自分を呼ぶ声が聞こえる。
「負けんじゃねえぞ、あんな奴に!!」
「あたし達は、信じているから!!」
仲間が、背中を押してくれる。
彼は改めて、「仲間などいらない」と言ったことを後悔した。
——僕は大馬鹿者だな。本当に——
「——ああ」
そう返して、彼は決戦の場に赴いた——