二次創作小説(紙ほか)
- Act0:侵攻する略奪者 ( No.207 )
- 日時: 2015/10/18 17:37
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)
「ちっ、面倒な……」
赤いパーカー、首にはめたヘッドフォン、威圧するような赤眼。
まるで、戦士のような、それでも気だるさを持った眼光は、キッ、と一瞬だけ細くなった。
それらを持つのは赤毛の少女だった。まだ幼さを残すというか、紛うことなき幼い少女である。
背も低く、体型も女性のそれとは程遠い子供っぽいものだった。
しかし。1つだけ異質だったのは、やはり普通の少女は持ち得ない気迫だった。
彼女は目の前に立ち塞がる男達が犯罪者に見える程度には幼い。
しかし、その上で彼女は舌打ちした。
明らかに面倒ではすまないこの状況に。
敢えてこう言ってみせた。
「つまらん」と。
「それを返してもらおうか」
「それは危険な代物だ」
「ついでに貴様の身柄も拘束させてもらう」
黒いスーツに奥が見えない程黒いサングラス、とにかく黒が印象的な男達は銃を掲げた。
しかし。それに臆した様子は彼女は見せない。どころか、そのまま突っ切って歩いていく。
「止まれ! 撃つぞ!」
拳銃を向ける男達。
だが、気にも求めず、彼女はそのまま歩みを止めない。
「くっ、警告はしたぞっ!!」
男の声が狭い通路に響いた。
同時に、引き金が弾かれて鉛の弾が彼女の足をめがけて放たれた。甲高い着弾音が空気を裂く。
しかし。
次の瞬間、鉛の弾は彼女の肌に到達する前に、”爆ぜた”。
「はっ……!?」
男達は困惑を隠せない。
何が起こったのか全くわからなかったのだ。
そのまま、何発も銃弾が撃ち込まれていくが、無機質な音と共にいずれも何かに阻まれて消滅した。
「こうなったら、力づくで——!」
男3人は、実力行使に出たか、そのまま文字通り、腕づくで少女を押さえ込もうとする。
しかし。
彼女は身構えもしなければ、逃げもしなかった。
それどころか、何かぶつぶつ呟いている。
「イグニッション、オーバードライブ——」
刹那。
最初に飛び掛った男の顔が——
「——ブースト、”レッドゾーン”」
——次の瞬間、思いっきりへしゃげて、そのまま通路の奥に、その頑強かつ巨大な身体を叩き付けて動かなくなった。
さらに、2人目、3人目も同様にして通路の奥へ叩き込まれる。
凄まじい速さだった。
まるで、何者かに高速で殴られたかのようだった。
しかし、彼女は指一本動かしていない。
ただただ、歩みを止めずに前へ進んでいるだけだった。
倒れた男達を尻目に、彼女は名を呼ぶ。
自らがもっとも信頼する者の名前を。
「”アマツカゼ”」
その声に反応し、彼女のデッキから甲高い声が響いた。
「はいはーい! やっと、手に入れたんだね、そのカード!」
「違法クラスのスピードを持つクリーチャー……世に出すことも憚られ、中止になったカード……これが……」
「ぼくも早く、侵略したいんだよねー! ねー、ねー! この”身体”になってから、侵略への欲求が止まらないの! それに、さっきの銃弾、代わりに僕が直接食らってあげられたら——」
「うるさい」
「それにさー、ぼくは会いたい人がいるって言ってるじゃん? ぼくが一番侵略したいのは、その人の心なんだから」
「うざい。黙れ。私が聞きたいのはそういうことではない」
彼女が思いっきりカードを指と指で捻り、ぐぎぎぎ、とカードにあるまじき音が鳴るが、アマツカゼと呼ばれたクリーチャーは愉悦に浸ったような声を上げた。
「ああん! もっといじめてぇぇぇん! 痛くしてよ、コロナー! アァーッ!」
びくん、びくん、とカードが妙に震えた。
どうやら、完全にイってしまっているようである。このクリーチャーの頭も、身体も。
「痛いのは貴様の性癖だ、好い加減に理解しろ。燃すぞ。八つ裂きにするぞ」
「ああ、そんなんじゃ感じられないってばぁ」
「黙れ。どうしてお前はこうも気持ちが悪い」
「あの日……あの人に首を裂かれた日から、ぼくは覚醒したんだ。これって至って普通のことじゃない?」
「言っていることは異常そのものだ、死んだと同時にドマゾに覚醒した貴様は、全てのクリーチャーから見ても常軌と常識を逸している」
「ああ、幸せ……もうあの身体は戻ってこないけど、代わりにちょっとやそっとの痛みじゃ死ねないこの身体……湧き上がる侵略の力……良かった……マゾに生まれて」
「話聞いてたかコイツ」
「それはともかく」
ふふん、と得意げにアマツカゼは言った。
「ぼくの力があれば、君はそのカードで世界を侵略することができる……そして、君を助けるのがぼくの役目だ……! 一刻も速く、彼を探し出すんだ……! 僕の真の力は、彼がいなければ発動できないからね……!」
分かっている、と彼女は言った。
「ギブアンドテイク……貴様に教えて貰った精神だからな」
次の瞬間、ビルの壁に大穴が開く。そこから先は、地面などない。
摩天楼に連なるビルの最上階に位置するここは、飛び降りれば人間が助かる高さではない。
しかし。
それさえも臆すことなく、彼女は足を踏み出した。
「——この腐った世界を壊すぞ、”アマツカゼ”——」
「——そうだね——」
アマツカゼが微笑んだ。
「——”火文明の適合者”、コロナ……! 君を選んで正解だったよ……!」
「——私は略奪してやる。かつて、私から全てを奪ったこの世界を——」