二次創作小説(紙ほか)

Act1:鎧龍サマートーナメント ( No.209 )
日時: 2015/10/19 22:33
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: 7hpoDWCB)

『黒鳥レン』
「……何でもないぞ」

 アヴィオールはカードの中から、彼の小さな異変を見つけていた。それは正しく図星である。
 彼の挙動は、少しそわそわしていたのだ。
 はぁ、と息を吐いた彼は、言った。

「貴様には敵わんな……嬉しいのさ。単純にな」
『ほう』
「あの日、僕は鎧龍サマートーナメントに出られなかった」

 1年前。武闘ビルがオラクルに強襲を受けた。
 隠されたアイテム、0・メモリーをとうとうオラクルの幹部・イズモが見つけてしまったからである。
 それを止めるため、ヒナタ達はそこで、オラクル達を迎撃することになった。
 が、しかし。
 その戦いに敗れたレンは、オラクルに連れ去られることになってしまったのだった。
 理由は、彼が魂のみのオラクルの教祖・ヨミの器となるに相応しい人物だったからだ。
 彼は意識を失い、長い間眠っていた。
 目が覚めたら、トーナメントに乱入したオラクルは全てヒナタ達によって撃滅されて、自分もまた、助けられていたところだったのだ。

「僕には、ゼロの因子というものが眠っていたらしい。思えば、あれは適合者のような、特定のクリーチャーを引き寄せる才能だったのだろうな」
『しかし貴方の中に眠る力は、今は漆黒に染まっている。どういうことでしょうね』
「知らん」

 そんなことはレンにとってはどうでも良かった。
 唯一つ、言える事は。



「僕は仲間と戦えて嬉しい。それだけだ」



 それなら良いんですよ、とアヴィオールは言った。
 主の彼が幸せそうならば、それで十分なのだ。



 
 ***




 ——武闘ビル。海戸最高を誇る高さの、この建物の一室に、剣呑な雰囲気が漂っていた。
 プレジデントチェアーに座り、コートを着用したスマートな中年男性。
 対するは、銀髪を逆立たせた、如何にもこの場に不釣合いな少年だった。

「——あのカードが外部に流出してまもなく、日本以外の殆どの国に奴らが環境トップに侵出している」
「——由々しい事態であることは確か、ですか」
「——よもや、D・ステラ前にこんなことが起こるとは思わなかった」

 事の始まりは、数日前に米国のインベイト社からのDASH本部への通達だった。
 デュエル・マスターズは、最高運営販売元の組織・DASHの指揮の下、競売という形で複数の会社がエキスパンションを作成していた。
 特に、決闘先端都市と呼ばれる、所謂”デュエリスト養成学校”の存在する都市では、他の地域よりも2年先のカードを試製品として先行販売するのが常識である。
 海戸ニュータウンでもそれは例外ではない。
 現在、ドラゴンを初めとした大型種族を扱ってきた武闘財閥は、2つの種類の火のドラゴンを世に送り出した。
 正統なるこれまでの種族の発展系である熱血の龍、ガイアール・コマンド・ドラゴン。
 特定の力への対抗能力を持つ反抗の龍、メガ・コマンド・ドラゴン。
 これらが現在、海戸での環境を熱くしていた。
 しかし。米国のインベイト社は、まるでこれに対抗するかのように、ビートダウンに特化した種族を作り出した。
 それが——



「——侵略者」



 既存のクリーチャーの常識と常軌を逸した速さ、そしてそれに見合わない強さを誇るそれらは、各国で環境入りしていった。
 当初、DASH本部は侵略者を世に出すことを拒んだ。
 そのため、計画は取り下げられ、試製生産されていたカードも、環境のインフレに追いつくまでは封印される予定だった。
 しかし。

「——この世界とパラレルワールドの関係にある超獣界にも、同時期に侵略者と呼ばれるクリーチャーが現れた」
「——そして、全ての反抗を押し切るように、あの事件が起こったわけですか」

 ある日。保管されていた侵略者のカードが、全て盗難された。さらに何者かが侵略者のカードの詳細を全企業に漏らした。恐らくは同一人物かと思われている。
 犯人の詳細は未だに明かされていない。
 いや、それどころでは事態はすまなかった。
 何を思ったか、とうとうインベイト社は侵略者を日本以外の世界各国に販売を開始してしまった。
 そして、DASHもそれを認可してしまったのだ。
 さらに、日本にも侵略者のエキスパンションが発売されることが決定している。
 このままでは、環境の高速化は免れず、ゲームの破綻を生みかねなかった。
 特に、D・ステラでは侵略者を使ったデッキを海外チームが使うことは目に見えており、今の日本のカードでは対抗が難しい。
 武闘財閥は、これらに対抗する手段を開発せざるを得なかったのである。
 
「——そんなことを今更おさらいするために、俺を呼んだのではないでしょう。父上」
「——ああ。お前に託したいものがあるのだ」

 彼が取り出したのは、1つのジュラルミンケースだった。

「——この中には、デュエル・マスターズを革命する力が眠っている」
「——革命軍、ですか……しかし、奴らの力では」
「——お前たちが今まで見てきたのは、革命軍の力の一部に過ぎない」

 逆境を真に乗り越える力、それが革命だと彼は付け足した。
 


「1つ。それは、時さえも越えて、逆境を好機に変える奇跡の力」
「奇跡、ですか」
「ああ。しかし、ただ請うだけでは奇跡は訪れない。最後まで戦い続ける者にそれは答える」



 奇跡。最後までそれが起こることを願い、あきらめない不屈の力。それに初めて、それは革命を起こす。




「2つ。それは、障壁となる全てを深淵に沈めて失わせる殺戮の力」
「殺戮……即ち死」
「そうだ。しかし、彼の者は命を操る。盤面を180度ひっくり返すなら、このカード程の適任はいない」



 殺戮。敵を容赦なく、全て葬る悪魔の力。しかし、無闇な殺戮は悲劇しか呼ばない。故に、彼の者はそれを克服するため、命に革命を起こした。



「最後に——全ての炎を、既存の常識を全て覆す、龍を超えた龍の力」
「龍を超えた、龍?」



 最後の言葉には、ただならぬ気迫を感じた。



「革命……この言葉を、このクリーチャーに全て詰め込んだつもりだ。このカードはいわば、鎧龍の希望なのだ」



 男は、少年に託した。
 革命の希望を。
 彼は受け取るのに、少し躊躇した。
 しかし。これが今の状況を打破する力になりえるならば。
 彼はもう迷わなかった。



「——侵略者だけではない。邪悪龍攻略の糸口になりえるカードだ。何が何でも、これを相応しい者に掴み取らせろ——フジ」
「はい。武闘財閥の名に賭けて。そしてデュエルマスターズの革命に賭けて——」