二次創作小説(紙ほか)

Act6:九尾と憎悪 ( No.21 )
日時: 2014/06/08 08:39
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ***

 廃ビルを飛び出したヒナタは、そのまま三区へ駆け出した。街で何か異変が起こっていないか、だ。
 起こっているのならば、その辺りに白陽がいるのだろうし、そうでなければ別を探すまでだ。
 だが、起こらないわけがない、とヒナタは思っていた。
 奴は凶暴化した所為で人間への憎悪が増している。
 ゆえに人間や街を襲っていてもおかしくはない。
 まして、あれほどの力を持つクリーチャーだ。人間1人単位を襲うなどと言ったちまちました真似はまずしないであろう。
 だから、街を直接襲うはずである。
 だが、結局は憶測の域を出ない上に当ては無い。

「くそっ、こんなだったらクレセントを連れて行くべきだった」

 だが、倒れたままのノゾムをほうっておくわけにもいかない。
 だから苦渋の決断だったのだ。
 敵を追うことに固執しすぎて、仲間を蔑ろにすることがあってはならない。それが彼の信念だからだ。
 ---------------それに、クナイに負けたこのデッキじゃ、奴には勝てない。
 アーマード・ドラゴンで固められた自分のデッキを見て溜息をつくヒナタ。
 クナイの火責めに対し、結局敗れたこのデッキでは、どうしても使うのを躊躇ってしまう。
 まして、奴はドラゴンとドラグナーを止める能力を持っている。簡単に勝てるわけが無い。
 だが、この緊急事態にコンビニで新エキスパンションの”龍解ガイギンガ”を買っている場合ではないことは分かっている。

(《ガイムソウ》を使っても、出したところで止められて能力が無駄になっちまうから駄目だ、アウトレイジを使っても良いが、あれは家に置いて来ちまったし----------)

 まして今はドラポンがいない。ドラポンがいれば、百人引きだったのだが。
 仕方が無く、デッキをしまうヒナタ。
 事態を優先すべきか、デッキを優先すべきか。
 とにかく、夜でもビルが立ち並び、人気の在る三区ならば何か起こるかもしれないと思って、足を踏み出した。

 ***

 憎い。自分を弄んだ人間が憎い。
 最初の人間は、自分を手に入れて喜んでいた。喜んでいたが、次第に飽きたのか、デッキに入れなくなった。
 はっきり言って腹が立った。自分は必要とされていないのか、と。
 何のためにこの世界に来たのかは分からなかった。
 だが、こんな奴の元にいれば永遠に何も出来ないだろう、と。
 そう思っていた矢先、あのローブの男が現われた。
 経緯は分からなかった。だが男は自分を所持していた少年を背後の龍で骨身も残らないほど焼き尽すと、火文明の力故か決して燃えなかった自分を取り出すと、卑しい笑みを浮かべて自分のデッキに入れた。
 だが、その後からか、言い知れない憎悪が自分の中にみなぎるようになった。
 同時に、こいつに従わなければならないという脅迫的な概念が現われた。
 憎かった。
 自分も、他のすべても。
 だから今こそ焼いてくれようぞ。
 大蛇(オロチ)も恐れる地獄の幻を前にして、逃げ惑うが良い--------------

 ***

「結局買ってしまった……」

 三区のコンビニを出ると、ヒナタは呟いた。結局、何事も無かったからである。街のどこを見ても、何かが起こった様子は無い。
 仕方が無いので、コンビニで”龍解ガイギンガ”を5パックと食えなかった分の夕食を補うためのカロリーメイトを買った。

(今はまだ慌てなくても良いってことか?)

 だけど、とその思考を振り払った。
 問題は相手が人間ではなくクリーチャーであるということ。
 何をしてくるか分からないのである。
 そういえば、と思い出した。買ったパックをまだ開けてはいなかった。
 1パック、2パック、3パック……と包装を破って近くのゴミ箱に捨てていく。そして中のカードだけを確認した。
 はっきり言って、めぼしいカードなどというものはそう簡単に当たるものではない。まして、ビクトリーレアのドラグハートも。事実、当たったのは《不死身のフッシッシ》など、
 いや、待て。
 5パック目から出てきたホイルで輝くカードを見て、ヒナタは一瞬自分の思考を停止させた。

「こいつだ、こいつを使えば-------------!!」

 それは、ドラグハートでも英雄でもなかった。だが、十分に今のヒナタのデッキを強化させるものだった。
 あとは、持っている改造用のカードと、今当たったカード他のカードを組み合わせるだけだ。
 と、そのときだった。

『ぎゃああああああああああ!!』

 悲鳴だ。それも、1人単位のものではなく、複数人、否数十人のものだ。
 勢い良くヒナタは駆け出した。
 しまった。
 奴がいよいよ行動を開始したのだ。
 街に出て、悲鳴を辿ってみれば、大通りの中何人もの人が無傷で倒れており、乱れた髪やぐしゃぐしゃの服を見ると、相当パニックになったことが分かる。
 幻炎だ。
 本当は燃えていないのに、燃えていると錯覚してしまう幻の炎。
 それで、自分が焼け死んだと”勘違い”しているのだ。
 いや、それだけではすまないはずだ。

「うわああああ、火事だああああ!!」

 今度は、何人もの人がビルから飛び出してきた。あたかもビルで火災が起こったかのように仕向けられたのだろう。
 パニックになって大通りを出て行く人々。
 こういう場合、普通避難訓練などを心得ているはずだが、やはり突然目の前から、そしてありえない場所から出火したのだとすれば、パニックになって当然か。
 
「オ、マエ……ニハ見エナイノカ?」

 声がした。それは、耳を通じているものではない。だが、はっきりと声はヒナタの思考回路に接続された。
 何者か----------いや、白陽が直接、脳に語りかけているのである。

「見えないな。俺はもう、幻なんかには騙されない!」
「安イ手ハ通用シナイトイウワケカ……イイダロウ、ナラバキサマハコノワタシガ直接始末セネバナランラシイナ-----------!!」

 刹那----------熱風がヒナタの学生服を靡かせた。振り向けば、そこには獰猛な野獣の眼をした九尾の姿が既にあった。
 だが、やはりというべきか、その姿は直立二足歩行で陰陽師の格好をしていた。胴には二つの首の蛇が鋭い眼で睨んでいる。

「直接? 随分優しいじゃねえか。生憎俺はこっちの方が本業なんでな」
「面白イ。デハ最期マデゾンブンに戦オウデハナイカ……」

 ギラ付く眼をカッと開き、白陽は黒い霧を全身から噴出した。
 ヒナタにしか見えていないが、それは辺りを包み込む。
 そして、決闘のために異次元のバトルフィールドが今日再び、開かれようとしているのだった-----------------------