二次創作小説(紙ほか)

Act2:開幕 ( No.215 )
日時: 2016/01/02 00:09
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

「——今年の鎧龍サマートーナメントのチームは、前期の1〜3年生までの5人に加え、優秀な成績を持つ後期生1人のリトルコーチが付きマス」

 淡々と原稿を読み上げる外国人とハーフの老校長・瓜生崎は続ける。
 七時間目。科目・全校集会。
 この時間には、今年の夏休み前の大イベント、鎧龍サマートーナメントのルール発表が毎年行われる。
 が、しかし。
 場にはピリピリとした雰囲気が漂っていた。
 今回の鎧龍サマートーナメントは只事ではない、と上級生の多くも解していたのだ。
 


「そして、今回の鎧龍サマートーナメントで優勝したチームは、D・ステラ——即ち世界デュエリスト養成学校連盟合同大会の日本予選で我が校の代表として出場することになるのデス」



 次の瞬間、歓声が上がる。
 世界大会。
 その言葉に、全生徒が沸いていた。
 「世界だって!?」「D・ステラってうちの学校も出場するのか!?」という声が上がる。
 しかし、それだけではなかった。

「よって、今年のサマートーナメントは例年のそれとは違い、所謂D・ステラの校内予選となり、出場する生徒は限られているのでご了承くだサイ——というのも既に、出場する生徒は決定しているのデス。選手団、入場——」

 ばっ、とアリーナの後ろの扉が空気を吐き出すように開いた。
 そこから後期生、即ち普通の学校で言えば高校生に相当する生徒を先頭に、前期生、即ち中学生に相当する生徒5人のチームが順に規則正しい行進で現れた。
 そして、その中に——満面と愉悦に満ちた顔を浮かべた武闘フジと、暁ヒナタ達の姿もあったのだった——
 ——何でこうなったんだぁぁぁぁーっ!?
 ——思ったよりも、いや此処まで大事とは……。
 ——もうやるっきゃないんじゃないの……。
 ——世界か……オレなんかで大丈夫なのか?
 ——卒倒しそうです……。
 ——良き哉、良き哉、ガキ共め良い表情(カオ)してやがるぜ……だから覚悟しとけと言ったのさ!
 時は遡る。
 それは、数時間前——


 ***



 何故、朝っぱらから呼び出されねばならないのだろうか。学校の会議室に。
 しかも、この厄介なトラブルメーカーの先輩に。
 いや、問題はそれだけではない。
 呼び出されたのが自分だけではないということだ、と暁ヒナタは改めて辺りを見回す。黒鳥レン。如月コトハ。
 そして——


「お、遅れてすいません!!」

 
 その後輩である十六夜ノゾムに淡島ホタルも呼び出されていたのだった。
 
「す、少し寝坊してしまって……」
「ノゾムにしては珍しいじゃねえか」
「い、いや、あははは……」
「2分遅れだ、あまり問題ねぇよ。”あまり”な」

 呆れたように言ったフジは、一度咳払いをした。
 あまり気にしていないようだったので、ノゾムは思わず安堵の息をついたのだった。
 部屋の空気はぴりぴり、としていた。
 流石理事長の息子、こうして相対すると圧倒的な威圧感を感じる。
 いや、約半分はこのヤンキーのような風体のせいでもあるのだが。

「さて、全員そろったところで、てめぇらに一言言っておく」

 来た、と全員は感じた。
 この男は、いつも重要なことを言うときは、この嫌な笑みを浮かべるのだ。



「世界に、行きたくないか?」



 しばらく、沈黙がその場を包んだ。
 当然といえば当然であった。
 
「いやさ、先輩。いったい何を……」
「順を追えば、だ。今年の鎧龍サマートーナメントのルール。先に説明しておく必要があるな」

 どさっ、と何処から取り出したかプリントの山を、彼は乱雑に置く。
 「上から1人3枚だ、さっさと取れ」と命令し、プリントが行き渡ったのを見ると彼はつづけた。

「前年は、前期生生徒3人、リトルコーチ1人という編成だったが——今年は前期生徒5人、リトルコーチが1人というチーム編成なのさ」
「リトルコーチって何です?」

 去年はまだ入学していなかったノゾムが真っ先にそれを問うたが、ヒナタが「後期生が前期生のチームの指導役になるんだ」と説明する。
 こくり、とフジもそれに頷いた。



「そしてこの編成は——D・ステラのものと同じだ。”どういう意味か分かるな”」



 ビキン、と頭に電気が走った。
 全員に。

「でぃ、D・ステラって——」
「世界デュエリスト養成学校連盟合同大会。そして、デュエル運営機構、DASHのDから取って、D・ステラだ。要は世界大会だな」
「え!?」

 全員が衝撃に襲われた。
 そして、いよいよ自分たちが何のために呼ばれたのかを察し始めたのである。
 特に、キイチからその言葉を聞いていたヒナタとノゾムは、いよいよそれが間近に迫っていることに気付き始めていた。
 実感の無かった世界という領域。
 そこに、フジが引き込ませようとしているのだ。

「鎧龍は前回の大会には参加していないというか、そもそもまだ学校が出来る前だったからな。前の大会は——5年前だったか。あの時はまだ、そこまで大規模な大会ではなかったからな。しかし——この5年間でデュエル・マスターズを取り巻く世界事情は大きく変動した」

 デュエルの大幅な国際化。
 つまり、多くの国でデュエリスト養成学校が開校したり、また大幅な教育プログラムの改正を行ったりとテコ入れが行われたのだ。

「D・ステラ……そういう大会があったのは知っていたが、あまり騒ぎにならなかったのはそのためか」
「確かにそうね。鎧龍が出来たのはかなり最近で、当時のあたしたちには縁のない話だったし……」
「丁度5年前。前期生、後期生両方の生徒を集い始めたのがそのころだ。前の大会から同じ年なのさ」

 さて、と彼は続けた。

「今回のサマートーナメントは、選ばれた後期生のみチームの編成が可能だ。成績優秀者、だな。俺様を含み」
「自分で言いますかそれ」
「事実だバカ」

 色々危ないものを持ち込んで、周りを容赦なくトラブルに巻き込み、何事も無かったかのように責任を丸投げする人を選んで大丈夫なのかと全員は戦慄する。いや、理事長の息子なのもあるだろうが。
 
「そして俺様は、テメェら5人を世界に送り込んでやろうと思ってチームを編成した。文句あっか」

 堂々とした言い方に、反論ができない。
 いや、言いたいことは山ほどある。なぜ、直前になって言い出したのだろうか、だとか。
 幾らなんでも急すぎやしないか、とか。

「そ、そんな——だって、私に至ってはまだ1年生で——そこまでD・リーグの戦績が良いわけでもないし——」
「そ、そうです! 幾らなんでも——」
「黙れやコラ。何の考えもなしに言ってるんじゃねえ。テメェらじゃねえといけない理由があるんだ」

 どこか真剣さを含んだ物言いに、今度こそコトハもホタルも黙らざるを得なかった。
 それだけ、今回のフジの語り草は強烈で静かな風格を漂わせていたのだ。

「——お前ら5人に通じることは何だ?」
「お、俺達5人——?」

 ピキン、とこの瞬間。全員の顔が引き攣った。

「ま、まさか先輩……」
「僕たちが英雄の所持者という理由でチョイスしたんですか、世界大会のメンツまで!?」
「こ、ここまでハチャメチャとは……」
「ええい、うるさい!! 最後まで聞け!!」

 そのまま、流れるようにフジは続けた。



「お前たちには、才能が間違いなくある!! 何故ならば、お前たちが英雄に選ばれた人間だからだ!!」



 びしぃ、と言い放つフジ。
 さらに、反論の余裕を与える間もなく、彼は続けた。

「クリーチャーは必ず、才能の眠る者しか選ばない。無意識だろうが意図的だろうが関係なく、な」
「で、でも先輩が何故あたしたちに拘るのか……」
「そもそも、先輩が俺達を世界に連れて行ってどうするつもりなんです?」
「あれ? お前ら世界に行けるのが嬉しくないの?」

 ——”あんたの場合、絶対ウラがあるでしょ……”
 個性的なメンツではあるが、このときばかりは思考が一致したのだった。

「ならば仕方ない。教えてやろう。俺は、武闘財閥の次期社長としての目的がある。だが、それはお前らにも関わりのあること」

 別に頼んではいないが、このままでは納得もいかないので全員は黙って聞いていることにしたのだった。
 そのまま、フジは指を突き上げて高々と叫ぶ。
 



「デュエマ革命、そして邪悪龍だ——」