二次創作小説(紙ほか)

Act2:開幕 ( No.217 )
日時: 2016/01/04 20:17
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

「邪悪龍……デュエマ革命?」
「ああ」

 邪悪龍。それは今や、武闘財閥の中で例のドラグハート・クリーチャー達の総称として使われていた。
 ソウルフェザーも例外ではないので、それについてはヒナタ達も異論は無かった。
 しかし、もう1つのデュエマ革命、という単語については全く意図が読めなかった。

「まずはデュエマ革命の件だ。今、デュエル・マスターズというカードゲームは極めてヤベーことになっている」
「と、言いますと?」
「”侵略者”。ビートダウン・速攻に特化したこの種族のデータが流れ、とうとう世界中に出回ることになっちまったのさ」
「——え!?」

 そうなれば、どうなるのかはヒナタ達にも分かった。
 十分な前段階を置かぬまま、完全に新規のカードが現れたことにより、環境は大混乱。
 ゲームバランスが非常に難しいことになっているのだという。

「まあ、このままじゃあ世界の環境は侵略される。文字通りな」
「で、でも一体、何故そんなことが……」
「ああ」

 レンの問いに、努めてフジは簡潔に答える。




「”盗まれた”んだよ。DASHでさえ本実装を躊躇したほどの凶悪な侵略カードの”原版”がな」




 全員に衝撃が走った。
 しかも、それだけではない。
 フジ曰く、犯人は”生きたカード”の使い手であり、強引に警備を突破していったのだという。

「だからといって本実装しちまったDASHの意向も正直理解しかねる。今、世界で、デュエマを司る中枢のDASHがどうなっているのか……それも、よりによってD・ステラの開催前にこんなことが起こりやがったからな」
「ま、待ってください! となると……既存のカードでは、侵略者のカードには対抗するのが難しいんじゃ……」
「手は既に打ってある」

 にやり、とフジは嫌な笑みを浮かべた。

「特に、黒鳥レン。淡島ホタル。暁ヒナタ。闇、光、……”一応”火の適合者のおめーらには耳よりな情報だぜ」
「え? 何か今俺すっげー微妙な言われ方されたんだけど」

 そんなヒナタの言葉をガン無視し、フジは続ける。
 机の下から取り出したのはジュラルミンケースだ。




「侵略カードに対抗するにはな、この”革命”カードが必要だ。お前らには、D・ステラという場で武闘財閥の作った革命カードの力を世界に知らしめて欲しい!! じゃねーとゲームバランスは恐らく崩壊する。多分崩壊する」



 
 つまり。
 このままでは世界のデュエマは侵略に食われてしまう。
 そのため、崩れかけているゲームバランスを元に戻すために、ヒナタ達に革命カードの力を証明してもらいたい、というのがフジの目的だった。
 そして、何故彼らなのか、というのもやはり、ヒナタ達が英雄に選ばれた才能を持つデュエリストだからだろう。

「でも……良いんですか? D・ステラとかに出て目立ってしまっても」
「そうです。仮にも僕たちは今、邪悪龍の使い手と敵対している最中ですから」
「まあ、危険は免れねぇよな、それ」
「説明を願いましょう、武闘先輩。先ほども邪悪龍と言っていましたが」

 口々に言い出す年長組。
 今、自分たちが敵対する敵の強大さが分かっているからこその言いぶりだった。
 特にレンは、自分が連れ去られたことから、この件に関しては慎重にならざるを得なかったのだ。

「ほーう、逆に問おう。お前らは、”奴ら”との戦いに人を巻き込みたいと思うのか? どうなんだ?」
「……え? それは一体どういう……」
「例えば。このまま俺たちが日本に留まっていたとしよう。仮に、こそこそ隠れることになったとしよう。俺達を目の敵にしている連中はどうやってお前たちを探し出すと思う? こないだアンカが何をやったのか、もう覚えていないとは言わせねぇぜ」
「……あっ」

 以前。白陽による囮作戦のあと、アンカは、ヒナタ達への報復と言わんばかりに、大量のドラゴンを街に解き放とうとした。
 もしもあのとき、早く手を打たねばどうなっていたのかは想像に容易い。
 関係のない人々が。
 何も知らない人々が傷ついて、最悪犠牲者も多数出たかもしれないのだ。

「D・ステラに出ることはリスクばかりじゃねえ。お前らが表前に出ることで敵の目を完全に引き付けることができる。それに、お前らには何のために英雄がいると思ってるんだ」

 ——!
 全員は自分のデッキケースから飛び出してきたカードに目をやった。 
 それぞれが、それぞれの主の眼前に現れる。

『黒鳥レン。ボクは君の刃だ。絶対に君を、あんな奴らの手に掛けさせはしない』
『コトハ様は、僕が守りますにゃ! もう、とっくに決めてますにゃ!』
『もう儂は自分を見失わん。そしてヌシのこともな。ホタル』
『ノゾムにはあたしが付いてるよ!』

 ところが、白陽だけがヒナタのデッキケースから出てくる様子が無い。
 疑問に思ったノゾムが彼に問う。

「あれ、先輩。白陽は?」
「あー、最近色々忙しかったからなぁ……大抵日中は寝てるか本読んでんのさ。今はカードの中で寝てるぜ」
『白陽ったらー、最近全然デートにも付き合ってくれないんだよっ! 倦怠期ってやつなの?』
「多分、それはぜってーちげーと思うぞ」

 さて、とフジは言った。
 最後に念押しするように、全員に問うために。



「最後に聞きたい。D・ステラに、そして俺様のチームで戦ってくれるか?
これはある意味、お前らの戦いだ。そして、これは表と裏、デュエマの両面が掛かった戦いだと俺は思っている。よく考えて決めて欲しい」



 しかし。
 此処まで来れば、全員の意思は固まっていた。

「世界……まだ実感は無いが、やるしかないようだ。僕は参加します」
「そうね。あたしもレンに同感だわ。まあ、こうなることは薄々感付いていたわけだし」
「私も……今度こそ、皆さんの力になりたい!」
「オレだって! 鎧龍に入って、本当に良かったと思ってるぜ! だって、いきなり世界が相手なんてよ!」
「——ま、絶対に負けられねえってこったな」

 にやり、とフジは笑みを浮かべる。




「その言葉、YESと受け取らせて貰うぜ!!」




 こうして。
 そろそろ授業が始まるので、この場は此処で解散になった。
 部屋を出ようとするヒナタは1人、考えに耽っていた。
 ——世界大会……何か裏があるように俺には思える……何が何でも、勝たねぇと——




『私はお前を信じているぞ。ヒナタ。私は私の使命を全うするまでだ』




 一瞬、そんな言葉が流れたような気がした。
 デッキケースに目をやれば、もう寝息が聞こえてくる。
 わざとらしいほどに大きい寝息が。
 
「ったく、素直じゃねーな。本当」

 笑みを浮かべ、彼は駆け出した。
 こうして。
 世界への第一歩が踏み込まれたのだった——