二次創作小説(紙ほか)
- Act3:特訓 ( No.220 )
- 日時: 2016/01/06 12:17
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)
***
「——何だ? 早速始めるのか?」
中に入ったレンは、そんな風に呟いた。
物々しい中身で、奥行きのある画面。
そして、無機質な声が響き渡った。
『”トレーニングモード”を開始します。虹彩認証・黒鳥レン』
ちょっと待て、虹彩写真なんて撮った覚えが無い——と言わぬ間に、暗かった画面が一気に明るくなる。
そして、360度のデュエルフィールドが展開された。
更に、目の前のテーブルのようなものにカードらしきものが浮かび上がってくる。
——自分のデッキを使うわけではないのか。面白い!! しかも、早速対戦とは話が速い!!
カードが5枚、手元にホログラムとして現れた。
わざわざ自分を読み込んだのだから、黒単デッキでも出てくるのかと思ったが——
——!?
レンはすんでのところで変な声を上げそうになった。
その手札は——
《鬼切丸》
《凶戦士 ブレイズ・クロー》
《メガ・ブレード・ドラゴン》
《めった切り・スクラッパー》
《爆襲 アイラ・ホップ》
——赤単速攻、だとぉぉぉーっ!?
余りにも予想の180度先を上回っていた。
そもそも、速攻デッキ自体余り使ったことのないレンは、戸惑いが隠せない。
——何だコレは! 一体、どうしろというんだ!?
『尚。このデッキで10戦しなければ、出られません。ご注意を——』
「ふぁっ!?」
——どういうことだ……! 僕たちがいつも使っているデッキとは全く違うタイプ……! 此処まで極端なデッキは使ったことが無いぞ!
***
「《特攻人形 ジェニー》召喚!? 効果で墓地に送って——手札を1枚破壊です!」
ホタルの方はと言えば、黒単ドラグナーのデッキを使っていた。
普段使っている光のカードとは使い方が真反対なので、こちらもやはり戸惑いが大きい。
——自分のクリーチャーを自分で破壊するって……でも、よく考えたら普段やってることもやってることのような気が……。
ハーシェルで自分のシールドを消すのとは、それでも訳が違う。
さらに、身を守るブロッカーが普段よりも少ないので、さらに不安を覚えてしまっていた。
***
「何よこれ……」
コトハの場には、《音感の精霊龍エメラルーダ》、《奇跡の精霊 ミルザム》を始めとしたブロッカーが並んでいた。
つまりは、殆ど使ったことが無いヘブンズ・ゲートのデッキである。明らかに使わせるデッキのチョイスが間違っているのではないか、と彼女は思った。
折角此処まで展開することに成功したものの——
『《熱血龍 GENJI・XXX》召喚。効果でブロッカーを全て破壊』
「うわーん!! 全滅じゃない!!」
一瞬で消し飛ばされて消し炭に。まとめて墓地へ叩き落された。
——光デッキなんて……ブロッカーデッキなんてまともに扱ったことが無いんだけどぉーっ!?
***
「何だコレ……」
ノゾムが手に取ったデッキは——
「デッキリストを見た限り、かなーり無茶苦茶にカードが入ってるな、オイ……これが所謂イメンループって奴なのか? でもどうやってループさせりゃ良いんだ?」
——《龍覇 イメン=ブーゴ》と《邪帝斧 ボアロアックス》を使った5文明レインボーデッキだった。
しかしこのデッキ、かなり扱いが難しく、動きが複雑なので使ってみてもなかなか上手く決まらずに負けてしまうことも多々。
——こんなデッキでどうしろっていうんだぁーっ!?
***
「つ、疲れた……」
真っ先に10戦が終わり、頭を抱えながら出てきたのはレンだった。
「おのれ……まさかあんなデッキを使わせられることになろうとは」
しばらくして。
次はホタル、そしてコトハ、最後にかなり遅れてノゾムがD・コクーンから出て来た。
「おい、大丈夫か貴様ら」
「あたしは何とか……」
「私もです……」
「オレはデッキの動きを掴むだけで精一杯でした……」
慣れないデッキと連戦で、全員はかなり疲弊しきっており、皆目が死んでいた。
「貴様らのデッキは? 僕は赤単の速攻デッキを使わされたが」
「私は黒単ビートダウンを……」
「あたしは天門……」
「オレはイメンの何か訳分からんデッキでした……」
「成程。これは一体。先輩の事だから、無意味にやらせているわけではないと思うが……そう言えばヒナタは?」
「? まだ出てきていないのかしら」
「じゃあ、取り敢えず此処で待っておきましょうよ」
「おーう、終わったかテメーら」
部屋に響き渡ったのは、フジの声だった。
「慣れねえデッキで慣れねえ連戦したからか、どいつもこいつも疲れ切ってるようだが……そんなんじゃ、連中には勝てねえな」
「あれには一体、何の意図が……?」
「今回のはまだまだお試しって言ったところだ。次回からはランダムで色んなデッキが使えるぞ。喜べ。どいつもこいつも一線クラスの高レベルなデッキだ。さて、何の意図があるのかって聞いたが——」
にやり、とフジは嫌な笑みを浮かべた。
「お前らにはこれから、普段使ってはいないデッキで一週間の間にコンピューター相手に100勝して貰う」
「……はぁ?」
全員は殴られたような衝撃を受けた。
しかし、フジの言葉はまだまだ続く。
「お前らのうち誰か1人でもこのノルマを達成出来なかった場合……即・チームは解散。更に英雄も武闘財閥が預からせて貰う」
「んなぁ!? あんた一体何を無茶苦茶な!?」
「無茶苦茶じゃねえ! わりーが、てめーらに欠けてるのは、対応力だ。流石適合者というだけあって、それぞれ得意なデッキには100%どころか150%の力を発揮できるテメーらだが……逆に言えば苦手なデッキは60%もその力を引き出せていないと見た!!」
だからだ、とフジは続ける。
「この一週間。テメーらには武闘ビルに放課後通ってもらい、徹底的に追い込むことにする。その先に何があるのかは——テメー自身の目で確かめるこった」
ホタルの血相が真っ青になっていた。
レンの目が死んでいた。
コトハの顔から生気が引いていた。
ノゾムは——
「やってやります!!」
——燃えていた。
「しかし、僕たちに出来るのだろうか……」
「これはもうやるっきゃないでしょ」
「100勝ですか……私なんかに出来るのかなあ……」
「そ、そんなぁ!? 何でそんな弱気に!?」
とはいえ。
いきなり100という数字を告げられたのだ。
気圧されても仕方がなかった。
それも、完全に運。ランダム。
その中で勝て、とフジは言うのだ。
——極限状態の中で、様々なデッキを知る……それこそがテメーらに課せられた試練だ。おめーらの敵は鎧龍じゃねえ。世界だ。それを知ってもらわねーとな。
「毎日通えとは言わねぇし、俺はその辺については何も言わねえ。だけど、フケたらその分、負担が増えるもんだと思いな。そこは自由だぜ」
そう言い、フジはくるり、と踵を返す。
「ちょっと待ってください、先輩。そう言えば、ヒナタの奴が見当たりませんが」
「本当だ! そういえば、5つ目のD・コクーン”FREE”、誰も入ってないって」
「どこに行ったんですかね? トイレ? 真っ先に終わらせちゃった?」
「……そこに気付くとは。やはり天才か」
「あんたは天災ですがね」
「それは褒め言葉だぜぃ。さて、質問の答えだが——」
少し間をおいて、彼は言った。
「あいつはちーと、”特殊”なんだよ。あいつだけ別室」
難しそうな顔で——