二次創作小説(紙ほか)
- Act4:休息 ( No.222 )
- 日時: 2016/01/07 04:54
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)
一瞬。間が空いた。
そして。
「つ、つ、付き合えってどういうことですか!?」
ボンッ、と爆ぜたように顔が真っ赤になっていくホタル。
しかし、全く気にした素振りを見せないノゾムは、グッ、と親指を立てて言い放つ。
それは——
「そんなの、今日の放課後、遊びに行くに決まってんだろ!」
——余りにも意外すぎる言葉だった。
だが、十六夜ノゾムという少年は気付いていない。
それがかなーり淡島ホタルという少女にダブルショックを与えているということに。
「いやさ、お前がビルに行きたいっつーなら別に良いんだけどよー」
「い、い、いや、何言ってるんですかノゾムさん!? こんなときに——そ、それってデ、デ、デー——」
「そんじゃ訳は後で話すわ。オレそろそろ授業あるからー」
「え、え、え、ちょぉっ!?」
「放課後なー」
手を振りながら去っていくノゾムに。
未だに頬の熱が収まらないホタルは今にもぶっ倒れてしまいそうな気分だった。
——な、なに考えてるんだろ、ノゾムさんは……。
全く彼の意図が読めない。
流石に心配になったか、ハーシェルの方から声がかかる。
『ホタルよ。どうした』
「だ、だって……ノ、ノゾムさんから、その……」
『呑気すぎやしないかのう、あの男は』
「で、でもノゾムさんのことだからきっと何か考えがあると思います……」
『それは分かるが……あと、かなりその様子だとさっきの言葉に”当てられとるな”』
ぷしゅううう、と湯気が出そうな勢いで沸騰したホタルの頭が元に戻るのには、かなり時間がかかりそうだった。
ハーシェルは思わずため息をつく。
大丈夫なのだろうか、と。
『頭のネジが緩み過ぎじゃて』
「そんなこと言われたって、そんなこと言われたって……天然ジゴロのノゾムさんが全部悪いんですよぉー!!」
『はぁ。ヌシは十六夜ノゾムに世話になってばかりじゃの』
「ううう……でも、今回は一体どうしたいんだろう……ノゾムさんは。まさかヤケになったわけじゃあるまいし……」
彼の考えていることが今度は全く分からなかった。
それも疲れている所為か、と勝手に理由を付けてホタルは再び机に突っ伏したのだった——
「取り敢えずハーシェル」
『何じゃ』
「家から私の貯金か幾らか引いてきてください。お金の種類は教えたので分かりますよね?」
『ちょっ、ワシパシり!?』
「カード化すれば一緒に持てるんでしょう? お願いします」
『えええー……』
***
『ノゾムの天ッ然ッジゴロっ!!』
不機嫌そうに言ったクレセントの言葉は、ノゾムには理解出来なかった。
取り敢えず、彼女が自分に文句を言いたいのは分かったが。
「んだよ、それ」
『別に。ノゾムには教えてあげない。そんなことより良いの? あんなこと言って。てか、状況分かって言ってんのノゾム!?』
「分かっている。むしろ、状況を分析した上での判断だ」
『はぁ!? あたし達下手したらボッシュートなんだよ!? 分かって言ってんの!? 白陽と離れ離れになったら……ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ!?』
「結局そっちの心配じゃねえか! 後それ迷信」
『ぶー! ノゾムの馬鹿! 何考えてるのさ! 勝利ノルマを稼ぐことを考えれば、遊んでる暇なんか——』
さあな、とノゾムは返す。
しかし、その上で自分が今できる説明をすることにした。
「要するに、効率の問題だわな、これ」
『こーりつ?』
「ああ。今回の特訓には、武闘先輩の意図が何重にも重なっている」
『え!?』
「レン先輩とコトハ先輩の2人はあのままでも大丈夫だ。だけど、生真面目なホタルはこのままだと潰れる。そう思ったまでだ」
『ど、どういうことなのさ、ノゾム?』
「ま、それは——別に後でも良いだろ」
『よくなーい!』
怒ったように言うクレセント。
説明が余りにも大雑把すぎるので、かなり不満のようだ。
しかし、そんなこと意にも解さずに、彼は続けた。
「まあさ、まずは楽しもうぜ」
『え、えええー?』
頭の上に?が浮かんだままのクレセントをデッキケースに戻し、そのままノゾムは教室の中に入った。
——楽観的と言えば楽観的だ。だけど、物事は一つ一つ丁寧に取り組まなきゃいけねえ。レン先輩! 感謝だぜ!
「オレのカンが正しければ、あいつは——ホタルの奴は——」
『てかノゾム、良いの? お金はあるの?』
「すまんクレセント。ちょっと後で家からオレの分の小遣い取ってきてくれ。アイス買ってやるから許せ」
『分かったよ、もーう!』
***
「……本当に来ちゃいました……」
「おー、平日だからあんまり人いねーな」
ノゾムがホタルを連れて訪れたのは海戸モールだった。
正直、彼でも近場の遊び場というのは余り思いつかなかったので、買い物や一応ゲームセンターだとかそういったものがある此処を選んだのである。
——あー、前に来てて良かったぜ。
——また此処かよ! って突っ込みそうになったよあたし。
——仕方ねーだろ! 此処しか近場でよさげなところ無かったし!! あんまり時間もねぇんだよ! 大体門限は——7時が限界か。後2時間ってところか。
「おいホタル。何か買いたいものとかあるか?」
「え!? えーと……取り敢えず……ブティックに行きたいかなーって」
「マジかよ。金あるのか?」
「あ、あははは……ある程度は。そーだ、ノゾムさんも着てみます?」
「それ前にコトハ先輩と此処でバッタリ会ったときにも言われたからやめてくれ」
完全にまだ、ノゾミちゃんの悪夢は消えたわけではなかった。
ひょっとしてこの先、度々弄り返されるのだろうかと彼は不安になったが。
気を取り直してブティックに向かうことにする。
***
「これとか良いですよ、ノゾムさん! 最近、全然こういうの買ってなかったから!」
「最近って……」
「まあ、ここ半年ずっと、ですかね……? お父さんもお母さんも居ませんでしたし」
「た、大変だったな、それは」
「S・ポイントを稼ごうにも私、あまり強くないから……あ、このシャツとか良いです! これから夏だから!」
「ああ……じゃあ、あっちの短パンとかと相性良さそうだな」
「流石ノゾムさん! センスありますねー!」
その光景を遠くから見ていたクレセントとハーシェルは、溜息をついていた。
これは緩みすぎではないだろうか、と。
繰り返し思うが、今は特訓週間中だということを忘れていないだろうか。
『というか、どんどん仲睦まじくなっとらんかアレ』
『どんどんって言われてもねぇ……ま、いいんじゃないのかな』
『しかし十六夜ノゾムは何を考えとるんだ?』
『あ、それについてだけどさ。ノゾムが少し教えてくれたよ。やっぱり、ちゃんとした考えの元だった』
『まことか』
こくり、と頷いたクレセントは続けた。
『まことまこと。ノゾムの勘が正しかったらさ——乱暴に言ったらだけど、ホタルって休むってことを知らないんじゃないかって』