二次創作小説(紙ほか)
- Act4:休息 ( No.223 )
- 日時: 2016/01/08 22:02
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)
***
買い物が済むなり、ノゾムはホタルを連れてゲームセンターにやってきた。
此処にも、やはり学校帰りの学生がちらほら見えた。
「お、マサオカートじゃん。ホタル、やったことあるか?」
「え、えーっと……ゲームセンターでゲームも余りやったことないから……」
「ま、オレもちょっとしかやったことねーから」
どっかで見たことのあるレースゲームを見つけるノゾム。
マサオカートは、ハンドル技術は勿論のこと、アイテムなどで相手を妨害して上位を競うオーソドックスなレーシングゲームだ。
取り敢えずはこれが良いか、と選んだのであるが——
「……あのー、ホタルさん?」
「あ、あははは……」
開始直後から。
ギュンッ、と彼女の操作する機体が一瞬でノゾムのマシンを追い抜いた。
それから追いつこうとするが——
——やべえ! こいつアレだ! 稀によくある、初心者の癖に操作見たら最初っから強くなってるアレだ!
マシンの性能はそこまで変わらないはずだ。
しかし。
そのままホタルが勝ってしまったのだった。
「……ホタル? お前強くね?」
「わ、私昔からゲームとかの呑み込みが早いって言われてて……」
「ああ……そうなのか」
成程。
広く浅く上達できるタイプか、とノゾムは理解した。
だとすれば、1つのことに対して打ち込む経験もそこまで無かっただろう。
「デュエマは一番好きだったんですよ。まあ、こんなことになるとは思ってなかったんですけどね……」
***
「よし! 次はこのゾンビシューティングゲームとかどうだ!?」
ノゾムとホタルがやってきたのは、グロテスクなグラフィックのゾンビシューティングゲーム”サイレントスキル”であった。
「えっ!? 怖いヤツですよ、これ!」
「なーに、ヘーキヘーキ、俺こういうの得意だから!」
と言った矢先に10分後——
ぐったりしたノゾムと、それに肩を貸すホタルが、ベンチに向かってとぼとぼ歩いていたのだった。
完全に無茶をした結果である。
「大丈夫ですか、ノゾムさん……」
「申し訳ない……しかもお前の方が撃破スコアが多いなんて……」
実際、「ノゾムさんは私が守ります!」と言って、バンバンゾンビを撃ち殺していたのはホタルの方であった。
流石新聞部、肝が据わっていると勝手に理由を付けてノゾムは力尽きたのだった。
「照準ブレブレだったじゃないですか、どんだけ怖かったんですか……」
「苦手なものはゴーストとファントムだ」
「何であんなゲームやったんですかこの人!?」
「いやさ、ちょっと男子って女の子の前で無謀なことやってみたいと思うじゃん? その結果がコレだ。お、思ったよりも気持ち悪かった……」
「絶対やったことなかったでしょ、今のゲーム」
「見栄を張って済まなかった……」
「まあ……私は普段見られないノゾムさんが見られて満足ですけどね」
「情けねぇ姿ばっかで悪かったな……」
***
「クレーンゲームとかやったことあるか?」
「いや、あまり……。でも、これなかなか取れないんですよね? 大丈夫なんですか?」
「なーに、取れるように頑張るゲームなんだよ」
ぬいぐるみだとか、そういうのが置いてある筐体にやってきた彼は、早速コインを投入口に放り込んだのだった。
狙いはウサギの二頭身ぬいぐるみであった。
「てか、ノゾムさんそういうのが好みなんですか?」
「いや別に良いだろ、これくらい。一番でかいのが欲しいんだよ」
「ああ……」
「それにさー、あっちの連中見てみろよ」
「うわ」
見れば、何かオレンジ色の馬鹿でかいサングラスを掛けたガタイの良い男がぬいぐるみのクレーンゲームの前で睨めっこをしていた。
——何か、見てはいけないものを見てしまった気がする……。
そして、ノゾムの方を再び見た。目がキラキラしている。
——いや、やっぱファンシーなのが案外好きなんじゃ……あ、そういうノゾムさんも可愛いかもだけど……いや、何考えてんの私。
自信満々といった様子で、挑戦したノゾムであったが——ぽとり。
クレーンがぬいぐるみを咥えきれずに落ちてしまった。
「あり? ミスった。クッ、馬鹿な……もう1回トライだ!」
しかし。
どうも狙ったぬいぐるみを取ることが出来ないでいる。
それを見兼ねたか、ホタルが割って入った。
「待ってください、ノゾムさん、私も」
「あ、ああ……そうだな」
しばらく、悪戦苦闘するように見えたが——次の瞬間、ぽとり、と音がして景品取り出し口からぬいぐるみが落ちてくる。
「やったぁ!」
「本当お前、飲み込み速いよなぁ……」
「はい、ノゾムさん! これ、欲しかったんですよね!」
ぬいぐるみを抱えるホタル。
その嬉しそうな顔が、とても輝いているように見えた。
——前は本当に、こんな顔は見せなかったよなあ。
それが無くなるのは勿体ないような気がした。
だから——
「……いや、それはお前が持っておけよ、ホタル」
「えっ、だけど——」
「なーに、取ったヤツが持っておく方が良いんだって」
「は、はい……大事にします!」
***
「いやー、楽しかった、楽しかった」
「そうですね!」
いつの間にか、ホタルの顔には笑顔が戻っていた。
良い具合にリフレッシュできたのだろう。
「……ノゾムさん。最後、少し時間ありますよね?」
「あ、ああ」
ぐいっ、とホタルが詰め寄ってくる。
思わず、接近してきた彼女の顔が近くて、どきり、と彼の胸が疼いた。
あの時のことをノゾムは思い出してしまう。
戦略だったとはいえ、操られていたとはいえ、自分にキスをしてきた、あの時のことを——
「デュエル、私としてくれませんか?」
「えっ?」
我に返ったノゾムは、抜けたような声を上げてしまった。
まさか、ホタルが自ら対戦を挑んでくるとは思わなかったのだ。
「前に、私に言ってくれましたよね? 帰ったら、デュエルしようって」
「ま、まあ、そりゃそうだけど……」
「私は確かめたい……私自身の意思を」
「意思?」
「はい」
彼女は続けた。
「本当に、私自身が世界に、D・ステラに対してどう思っているのか、それを確かめたいんです! ノゾムさんとのデュエルで!」
「お前自身の気持ち、か……分かったぜ」
2人はデッキケースを取る。
ゲームセンターの一角にあるデュエルテーブル。
前にコトハと対戦した場所だった。
5枚のシールドが並ぶ。
そして、手札を手に取った。
「クレセント!」
『りょーかい! 全く、いちゃいちゃしちゃってー』
「それは誤解だ……」
「ハーシェル! お願いします!」
『御意!』
「私がどうしたいのか——それは私自身で決めたい! 私の中で、私の中の答えをあなたとの対戦の中で見つけたい!」
「オーケー、その魂しかと受け取った!」