二次創作小説(紙ほか)

Act6:最後の夜 ( No.228 )
日時: 2016/01/13 21:00
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

***



「今日、やっと分かりました」
「んあ?」

 満面の笑顔で、ホタルは言った。

「私はノゾムさんと一緒に、世界に行きたい。だから、そのためにももっと強くなります」
「そうか」

 バス停に向かう途中の道で、彼女はまた笑みを浮かべた。
 
「だから、この特訓を猶更がむしゃらにやらないとって、改めて思ったんです」
「それはやっぱ、オレとのデュエルの中で、か?」
「はいっ!」

 何であれ、リフレッシュしてくれてよかった、とノゾムは安堵した。
 そう思っていた矢先に——自分の手の平に違う感触を感じた。
 見れば、ホタルの手が自分の手を握っていた。
 どきり、と胸が跳ねた。
 こんなこと、本当に初めてだったからだ。
 しかも、今度は完全に素のホタルがやっていることだから、顔が真っ赤になってしまう。

「行きましょう! ノゾムさん! バス、出ちゃいますよ!」
「あ、ああ……」

 彼女の積極的な行動に戸惑いながら、彼はそのまま、引っ張られる形で走っていったのだった——




 ***




『ヘ タ レ!!』
「誰だがこの野郎」

 ベッドに寝そべりながら、ノゾムは今日の事を思い出していた。
 あの戦いのとき、自分はホタルに「もっと彼女のことが知りたい」と言った。
 今日は、色んな意味で彼女のことが知れたと思う。
 そして、終始色々情けないところを見せてしまったのも反省してしまった。
 
『もっとノゾムも迫って良かったんだよ!? 女の子が自分から手を繋いでくるとか、めったにないんだよ!?』
「知らねーよ!!」
『アレはもう脈アリだよ!?』
「んだよ、それ!?」
『むぅ……じれったい』
「あのなぁ……勝手に話を飛躍させないでくれねーか……」 

 はぁ、と言うと彼女は続けた。

『そういえば。結局、ノルマ達成の見込みはあるの?』
「1つ、分かったことがある」
『?』
「もっと多くのデッキを調べていく必要があるってことだ」
『どゆことさ』
「なーに、すぐに分かることさ。この辺は、ホタルにも連絡とっておかねーとな」

 にやり、とノゾムはヒナタに影響されたのか、悪戯っ子のような笑みを浮かべたのだった。



 ***



 次の日。少し先輩達に遅れてノゾムとホタルは武闘ビルにやってきた。
 コトハとレンから、昨日何故来なかったのか、と問われたものの何とか誤魔化して2人は再びD・コクーンでの特訓を始めた。
 そして。
 ノゾムとホタルの勝率は高くなっていた。
 じわり、じわりとだが、昨日の分を取り返す程度にはそのペースは高くなっていた。
 そして、頭がスッキリしたのか、ホタルも迷いなくデッキを動かしていき——

「《ダースレイン》でダイレクトアタック!」

 ——100勝、という数字に押されていたこの間とは見違えるように勝ち数を稼いでいったのだった。

「何アレ。あの子達勝率高くなってないかしら、レン」
「成程。昨日、何かやったな」
「変な言い方するんじゃないわよ」
「大方、此処で勝率を稼ぐためのコツを掴んだと言ったところか。この調子ならば——」




 ***



 そして。最終日。
 各人の勝ち数は——



『黒鳥レン:92勝』
『如月コトハ:85勝』
『淡島ホタル:79勝』
『十六夜ノゾム:88勝』



 100に届くレベルとなっていた。
 ふむ、とこのデータを見たフジが各人を集めて言う。

「オーケー、分かった。残りの時間を使って、全員、何が何でも気合で100勝達成しろ。どうやらてめーらの目に、もう迷いはねぇみてぇだからな。特に——」

 ちらり、とフジはノゾムとホタルの方を一瞥する。

「テメェらの練度の上がりよう。流石は適合者と言ったところだな」

 だが、と彼は続けた。



「2人で仲良くデートに行くとは、感心しねぇなぁ? 十六夜、淡島」
「!?」
「!?」



 その場が凍り付く。

「な、なななな何で知って——私たちが遊んでたって知って——デート、デートって——」
「おいバカ!!」
「いやー、知ってるよ? 知ってるよ? だって俺様には《マキシマム・ザ・マックス》が居るもん。ついでに、クレセントとハーシェルの反応から逆追跡したのもあるんだけど」
「軽くそれプライバシーの侵害っすよね!?」
「おめーらが2人揃っていなくなったりするからだろーが」

 ギラリ、とレンとコトハの視線がノゾムとホタルを射ていた。はっきり言おう。クリーチャーであるアヴィオールの方がまだマシと思える程度には怖い。

「ほーう? リア充共め……」
「誤解!! 誤解っす、レン先輩!!」
「随分とまあ、あたしらが知らない間に……」
「違う! 違うんです!」

 ホタルも、フジの”デート”という言葉に反応する前に、この怖い先輩2人の眼光に戦くしかなかった。
 が、しかし。
 意外にも助け船を出したのは言い出した本人だった。
 
「いや、咎めてるわけじゃねえのよ。むしろ、”よく気付いた”と言うべきか」
「え? 武闘先輩、どういうことですか。こいつらは、幾ら休みが自由だからと言って——」
「”精神面の管理”。デュエリストにはそれが必要だ。実戦、そして生活面でな」

 彼曰く。
 押し際を理解できない者は、大抵負けるという。
 引き際を理解できない者は、大抵負けるという。
 勝手に頭の中で追い詰められて、精神が摩耗した状態では、デュエルは難しい。
 そこでだ。
 デュエリストとは、自分の精神がどういう状態にあるのかを見極める必要があるのだ。

「黒鳥、如月ィ。テメェらは既に幾つもの修羅場・正念場を潜り抜けているから、自分がいつ休むべきか分かるし、並み大抵のことじゃそうそう精神は摩耗しねえ。だが、こいつらは経験不足過ぎる。だからこそだ。敢えて”休む”という選択肢を選んだコイツらを褒めてやりてぇところだ。しかも、その後勝率上がってるし。大方、迷いが吹っ切れたってところか?」

 やはり只者ではない、と全員は確信した。
 この武闘フジという男、全てを見透かしているようだ。

「つーわけで、だ。残り時間——まあ、今日の24時までは待ってやる。家の方には連絡したら良いのかなー?」
「あ、ええ!?」
「まあ、じゃないと間に合わないですし……」
「明日はトーナメントだしよー、出来れば寝かしてやりてーんだが——ま、その辺は頑張れ」



 ***