二次創作小説(紙ほか)

Act7:鎧龍頂上決戦 ( No.232 )
日時: 2016/02/03 23:27
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

***



「あがががが——」
「嘗め腐り過ぎよ。このあたしをね」

 堂々決着。
 勝者は言うまでもなくコトハであった。
 ——ま、攻めるのが遅れた」NEXビート如きに、負けるわけないんだけども。にしても、光のトリガーを積むとか、じみーに嫌なことしてくれたわね。
 落胆する相手を一瞥し、そのまま下がる。
 そして、控えているヒナタ達の方を見ると——意外な人物がそこに居るのを見た。
 



「……リョウ?」



 ***



「おい、オメー……こんなとこに来て良かったのかよ」
「随分とピリピリしてるね。ヒナタ君。だけど、今回ばっかりは残念としか言いようが無いな。是非とも君とは決着を付けたかったんだけど」

 色素の薄い髪に、華奢な体形。
 しかし、そこにかつての虚弱さは感じられない。
 そして、知的そうな印象を助長させるのは銀縁の眼鏡。
 如何にも秀才そうな雰囲気を漂わせているのは、1年前、最初に会ったころの茅山リョウの姿とは見違えていた。
 そして、相対するのは、勿論残りのチームの面子であった。



『それでは次鋒戦! チームF、淡島選手! チームB、敷波選手! ステージに上がってください!』



「あ、それじゃあ先輩、行ってきますね」
「ああ。じゃあ、ヒナタ先輩、オレもホタルの試合を見に行ってきます」
「そうか。頼む」

 何時になく険しい顔と、静かな口調で彼は言った。
 ホタルとノゾムが去り。
 そして、対戦を終えて帰ってきたコトハと、フジ、そしてレンが見守る中、リョウが再び口を開いた。

「悪いけど。今回の大会、僕たちが勝たせて貰うよ」
「ほーう。そんなことを言いに来たのか」
「ああ。何せ、このチームのデッキは全て、”僕がビルディング、及びチューン”してるからね。リトルコーチの命令で」
「負けてたじゃねえか」
「あの風間って先輩、かなり嫌な性格でね。しかも、勝手なことばかりするから他の先輩も困っていたのさ。案の定、勝手にデッキを変えていたよ。まあ、だから何だって話だけど」

 それは、さっきの慢心丸出しの台詞からも察することが出来た。
 コトハにばっちりシメられていたのが絵になっていた。
 とはいえ、上級生が下級生にデッキ構築を任せる、というのもかなり癪に障る話だったのだろう。

「それよりも、だ。僕としては例え相手が誰だろうと手を抜くつもりは無いよ。例え、君の後輩でもね。ヒナタ君」
「ああ、そうか」
「少し挨拶を済ませたかっただけだ。最近、コンテストで忙しくて君たちともロクに会えていなかったしね。それじゃあ」

 手を振ると、リョウはそのまま、向こうのチームの控え席の方に行ってしまった。
 しかし。
 やはりと言うべきか——

「変わった、わね。リョウ」
「それもそのはず、か。あいつもコンテストで精神が鍛えられたんだろ」
「それだけ、貴様と対戦出来なかったのが残念なようにも見えるが」
「まあ、それは仕方ねーよ。しかしやべーな……」
「ああ……」

 よくよく考えてみれば。
 チーム全員のデッキ構築を任される程に彼の技術は上がっていたことになる。
 選出されたのも納得と言えば納得だ。
 しかし。やはり周りのメンバーからの受けは良くないのだろう。 
 彼も彼で、冷めたような顔を浮かべていた。 
 あの顔に楽しさは無かった。

「まあ、だからと言って、俺達が負ける理由には——」


 
 ***



「そ、そんな、どうすれば——!」

 頭の中は完全に真っ白だった。
 最後のブロッカーも《最凶の覚醒者 デビル・ディアボロスZ》のアタックトリガーで殲滅されてしまう。
 S・トリガーで出たスパーク呪文で《ラスト・ストーム》によって現れた後続の攻撃を止めたところまでは良かった。
 が、しかし。
 持ち込んだ戦略は既に完全に破壊しつくされ、最早対抗策は無く——




「《デビル・ディアボロスZ》でダイレクトアタック!!」
「ま、参りました……」




 ——敢え無く、勝敗は決した。




『決着! 勝者、敷波選手!』




「……」
「……」
「……」
「……」

 全員は黙りこくった。
 見れば、ホタルが「うっ、うっ、すいません、皆さん……」と半泣きになって帰ってきた。ノゾムも一緒だ。
 ホタルが緊張していたのもあった。
 しかし、それ以上に——

「取り敢えず、先輩……あれはやべーっすよ」
「……」

 ノゾムの一言に、デュエル終了時のバトルゾーンを見る。
 圧倒的。
 その一言だった。
 余程回っていたのか、相手のドロマー超次元はホタルの動きを完封し、勝利してしまったのだった。

「これは、一筋縄ではいきそうにねーな……」
「ご、ごめんなさい……相手のプレイング、デッキビルディング、そして私の実力が足らなかったばかりに……」



「何を慄いている」



 はっきりと、言ったのはレンだった。
 ちゃかっ、とデッキケースにデッキを詰めて、彼はそのまま進んでいく。

「淡島。貴様は初めての大会でアガっていたのもあるのだろうが、気負う必要はゼロだ。デュエルに絶対は有り得ない。どんなに練度を積もうが、な」
「く、黒鳥先輩……」
「そうだ! あとはオレ達に任せとけって!」
「ノゾムさん……」
「しかし、完璧主義というべきか、非の打ち所がないデッキだった。恐らく、個々の個性に合わせたものをチョイスしているのだろう。しかし——そんなことは関係ない」

 ざっ、とステージに立つレンは言い放つ。



「デッキだけがデュエルを決めるものではないということを、リョウのヤツに教えてやらねばならんな」



 不安そうな顔を浮かべるホタル。
 自分が負けたのをまだ気にしているのだ。
 しかし、「心配はいらねえよ」と言ったのは、ヒナタだった。

「あいつを何で中堅に持ってきたと思ってる。どんな状況でもあいつは勝つ可能性があるからだ。もう、後は信じるしかねぇよ」
「そ、そうですね……」

 かくして。
 中堅戦が始まった——




 ***



『チームB、矢上サラ選手、チームF、黒鳥レン選手、一歩も譲らない堅実な駆け引きを繰り広げる! 互いに準備段階か!?』


「僕のターン。《ボーン踊り・チャージャー》を使用。ターンエンドだ」
「あんたがかつての無色使い、黒鳥レンね。正直、あんたには注目してたんだけど、残念だわ」
「……」

 相手は二年生の矢上サラだった。
 どうやら、無色を使っていた頃のレンに興味があったようだが、正直彼からすればどうでも良いことこの上なかった。
 さて、既にマナブーストによって、何枚かマナを加速させており、現在5枚。
 そして、そのマナゾーンには、《龍覇 トンプウ》や《龍覇 マリニャン》、《龍覇 レグルスフィア》などのコスト5のドラグナーが。
 ——このデッキ——、イマイチ確信は持てないが、D・コクーンの中で似たようなものを見たことがある——
 レンは、既に連戦の経験からデッキタイプの推測に移っていた。
 場には《暗黒鎧 ヴェイダー》を置き、堅実に手札と墓地を補充する。
 矢上は——

「私のターン。《フェアリー・シャワー》を使うわ。山札から2枚を見て、マナに1枚置き、1枚を手札に。ターン終了よ」
「ふむ……」

 ——次のターンで7マナになる。
 そして、此処まででハンデスなどの妨害工作に打って出ないレンを見ながら、ヒナタ達は彼を案じていた。

「——これは、分かっているの? レンは」
「分かってないはずがありません! つーか、オレ、あのデッキ回しましたよ!」
「だとすれば、ここで何もしなければ、黒鳥先輩はかなりまずいんじゃ……」
「ふん。黒鳥が何をするのか——あいつは十分にやってくれると俺様は思っているが」

 そんな中、彼は至って涼しげな顔で自分のターンを進めていく。
 まるで、相手の行動など意にも解していないかのようだった。
 それほどまでに清涼感溢れる眼差しで、そこに動揺の文字は無い。
 
「僕のターン。《暗黒鎧 ギラン》召喚。ターンの終わりに、山札から1枚目を墓地に置き、それがクリーチャーだからカードを1枚引く。ターンエンドだ」
「ふん、それじゃあ行くわよ!! 私のターン!!」

 矢上は、生き急ぐかのように、7枚のマナをタップした。
 そして——



「残念だけど、鎧龍最強の無色使いはこの私よ! 現れよ、《神聖麒 シューゲイザー》!!」