二次創作小説(紙ほか)
- Re: デュエル・マスターズ D・ステラ【鎧龍頂上決戦編】 ( No.239 )
- 日時: 2016/02/07 01:47
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)
***
「——未だに戦っていないか、あの男は」
「ねーねー、コロナ—! 僕、早く戦いたいんだけどー」
「……仕方あるまい。あくまでも今回は”あいつ”自身の実力を計る挨拶のようなもの。それを失念するな、アマツカゼ」
「はいはーい!」
「言っておくが、”アレ”は貸さんぞ。余ったカードでお前がデッキを組め」
「分かってるてばー」
軽い調子で返事を返すアマツカゼ。
何か獲物を虎視爛々と狙う”2人”の視線は、会場にいる暁ヒナタに向けられていた——
***
「よーう、リョウ」
「……ヒナタ君」
一回戦が終わった後。
控室に戻ろうとするリョウを、ヒナタが呼び止めた。
彼の顔は曇っていた。
俯き加減の彼は、真っ先にその言葉を紡いだ。
「……ごめん」
「何で謝る必要があるんだよ」
「あんな大口をたたいたのに、結局僕はあっさり君たちに負けてしまった。これは……余りにも情けないと思いましたから」
”素”が出た。
かつてのリョウは、敬語交じりのおどおどとした口調だったのだ。
「僕自身も相当追い詰められていたんです。周りの期待に応えよう、周りに合わせようって。それに反して恵まれない環境に勝手に苛立って……」
「……なーに、もう気にすることはねぇさ。気楽にやれよ。もっとな」
「……いつも、君はそうでしたね。楽観してるけど、何故か君の言葉には”重み”がある。……ありがとう。それに——」
少し、自嘲気味の笑みを浮かべた彼は、つづけた。
「君の後輩の強さを改めて思い知った。それもこの身で。それだけで十分です」
「そか。ノゾムはつえーからな。ま、俺はもっと強いけどな!」
「はは……君らしいや」
苦笑いを浮かべた彼の彼は、つづけた。
どこか力んだ笑みをもう一度浮かべて。
「何故か、負けてももう一回戦いたくなっちゃうんです。君達とは。……何でだろう。また、デュエルしたいって、彼にも伝えて……くれますか?」
「……ああ。勿論だ」
「それじゃあ僕はこれで……」
直接言えなかった理由は——零れそうな涙を、目の前の少年以外に見せたくなかったからだった。
気付いてはいたが、敢えて声を掛けるのはやめにした。
——やっぱおめーは、変わってねぇよ。だけど、強くはなった。だからもう、無理して取り繕わなくて良いんだ。
震える友の背を送り、ヒナタはその場から去ったのだった——
***
「どうだった」
「まぁまぁさ。あれなら大丈夫だろ。でも今回、何もしていない俺が行って、本当に良かったのかって思わないこともねぇが」
「さぁな。貴様が決めた事だろう」
「……そうだな」
観客席で、席に座った彼はとため息をついた。
ヒナタを除く全員が、激闘によって早速疲れていた。
コトハの場合は、心臓に悪い試合を連続して見せられたのもあるが。
「そういや、一年の2人は?」
「相当落ち込んでたわよ、ホタル。それでノゾムが慰めに行ってるわけ」
「慰める(意味深)、か……厚くなるな」
「フジ先輩は黙ってろ、何が分厚くなるんだコラ」
「頭の中、中学二年生だなこの人」
「てめーらにだきゃ言われたくねえ」
張りつめていた空気が一瞬でぐだぐだに。
流石このクソ先輩と言ったところか。
とはいえ、そんなことを言っていられる場合では無かった。
次の試合の対戦相手になるかもしれないチーム——それが決まってしまったのだった。
***
『えー、いよいよやって参りました、鎧龍サマートーナメント、準々決勝!! 盛り上がって参りました!! そんなわけで、学園一のド畜生の武闘フジ氏の指揮するチームF対っっっ!!』
「思いっきり俺様に対する風評被害だな」
「全部事実でしょーが」
ぼやいたフジははぁ、とため息をついた。
先ほどの試合を見ていたが、対戦相手は既に分かっていた。
そのうえで、今並んでいるこの状況が非常にまずい。
問題の相手は——
『智将・スプラッシュ天川氏率いる、ジェイコフ・クライニュー選手を大将にしたチームDっっっ!!』
——お前かよぉぉぉーっ!!
さらりと流したが、相手の指導者は前大会でヒナタ達を指揮した天川スプラッシュ・ウェンディ—、通称・スプラッシュ天川。
そして、色白の肌に薄い色素の髪を持つ、180程はあろうこの大男は、かつて幾度となく戦ったライバル。ジェイコフ・クライニューであった。
ふっ、と気障な笑みを浮かべると「いやー、久しぶりだねぇ、ヒナタ君」とこれまた物腰柔らかーく言うが、どうも相変わらずキナ臭さの隠せない男であった。
「……まーたあんたと戦うのか」
「おやぁ? 随分な言いようだねェ。どっちにしたって、喜ばしいことじゃないか。また君と戦えるんだから」
「オイオイ良いのかよ、うちのメンバーは今回、俺の出番を乗っ取る気マンマンだぜ?」
「悪いけど、それはうちも同じさ」
キッ、と2人の視線がカチ合った。
「まぁ良いさ。今度こそ、ダイチの怒りが君を飲み込むだろう」
「へっ、受けて立つ!!」
こうして。
鎧龍サマートーナメント準々決勝。
再びここでも、因縁の歯車が回りだしたのだった——
——アレを使うのか——遂に。
ヒナタの決意と共に。
***
数日前。
武闘ビルにて。
「で、何で俺だけ別室なんスか?」
「……ヒナタ。テメェらが何で英雄を味方につけることが出来たか分かるか?」
「え? そりゃ、各文明の適合者、だからですよね」
「ああ」
珍しく、真面目な顔でフジは言った。
「実はデュエリストには、持つ力に法則がある。普通の人間は、”ノーマル”。まあ、これはクリーチャーと関わっていない人間に見られる普通のものだ。しかし——一度クリーチャーと関わった途端、その人間には”色”が現れる」
「色っすか」
「そうだ。大抵は、白、青、黒、赤、緑、斑。他にもあるぞ。だが、英雄に適合できるのは、その中でも純度の高い力の持ち主だけだ」
とはいえ、と彼は続ける。
「中には黒鳥のように、純粋でクリアだった透明色が、漆黒に変化する可能性——いや、これはこれで黒鳥の奴が異端なんだが、要は文明の適合者というのはクリーチャーに関わっていさえすれば珍しい話じゃねえ」
「はぁ」
「問題は——」
タブレットを操作していたフジは、そこでページを止めた。
「ヒナタ。テメェ、自分で分かってるのか? 自分が少なくとも、”火文明の適合者ではない”っつーことをな」