二次創作小説(紙ほか)

Act7:鎧龍頂上決戦 ( No.240 )
日時: 2016/02/15 20:28
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

「……えっ、どういう意味っすかそれ……?」
「お前、もう前から気付いてるはずだぜ、自分で。元はてめーに適合するのは文明だなんてチャチなくくりじゃねえんだよ」

 ふぅっ、と椅子に凭れ掛かってヒナタの瞳を見据えたフジは続けた。
 まるで、その奥を見透かすかのように。




「既存の法則を打ち破る無法の力……お前の色は言うなれば、斑というよりは文字通りの虹ということだ……!」



 既存の法則を打ち破る。
 だからこそ、今までアウトレイジとの相性は最高で、どんな敵とも戦えてきた。
 負ける気がしなかった。
 
「ともすれば、文字通りテメェは既存の法則を打ち破り、白陽を仲間につけることが出来たわけだが——お前でも打ち破れない法則がある。何でもかんでも無制限ってわけじゃねえんだ」
「と、と言うと……?」
「正直、言いたくはねぇんだがな……」

 少し間を置いた。
 何か致命的なことでもあるのだろうか、とヒナタと白陽の顔には既に焦りと不安が浮かんでいた。
 そして、それは最悪の形で的中することになる。




「——テメェらは——」




 ***



「——あのです……ねぇ?」

 彼女は言った。
 目の前の状況をしっかりと確認しながら。
 確かに。
 確かに、先ほどはチームに迷惑を掛けた。
 それは自分がパニくったのもあるだろう。
 だからと言って——



「何で私が先鋒なんですァ!?」
「てめーの心臓鍛えるためだろーが、逝って来い」



 無慈悲なフジの言葉と共に、彼女の運命は決定された。
 先鋒から鉄砲玉として飛ばされる役だ。
 しかも、この先の勝敗数に関わるので責任重大だ。
 それをさっき負けたばっかりの選手に任せるとか、どうかしているのではないかと思ったがフジ曰く

「良いかコノヤロー、次鋒なんぞに甘んじてるからいつまで経ってもてめーは眼鏡なんだ。眼鏡なら眼鏡らしく『アツメタ物資ハ……ヤラセハシナイ……』だとか『マタキタノカ……モウ、カエレヨッ……!』とか『ヤメロ! セッカク集メタ物資ガ、燃エテシマウ!!』とかかっこよく言えるくらいの気概をだな」
「酷い!! しかもそれ別のゲーム!!」
「さらに時事ネタだぞー。ともかく、逝って来い」

 というやりとりの末である。
 智将・スプラッシュ天川率いるチームDは、いずれもムラ無く強いデッキの使い手達が揃っている。
 特に、大将・ジェイコフ・クライニューの王龍の強さは学園内でも折り紙付きだ。
 そして、そんなチームの先鋒がむしろ弱いわけがなく——

『先鋒戦!! チームFからは光文明の使い手にして、可憐なゴシップガール、淡島ホタル選手!!』
「あ、あはははは……」
『対するは——』

 ずーん、ずーん、とでも聞こえてきそうな足音と共に。
 現れたのは文字通りの巨漢であった——



『でかァァァァァい!! 説明不要ッッッ!! 二回生、安藤レイガン選手!! その戦法もダイナミックだぁぁぁーっ!!』



 ——って、えええええーっ!?
 にやあああ、と自信たっぷりなこの少年の笑みは、ホタルの闘争心を奪うのには十分過ぎた。
 スキンヘッド、プロレスラーのような体格。
 それらは相手を威圧するものを兼ね揃えていた。
 それだけではなく、この安藤という少年——いや男、マジもんのボクシング部の部員で、ホタルが震えあがったのは、彼女が新聞部でそのことを知っていたからだろう……。

「くーふっふっふっふっー……! この私の連鎖戦術は甘くは無いですよぉ……! ボクシング部で培われた伝統的な踏み倒し戦術、全力で叩きつけてやりましょう!」
「あ、あわわわ……」

 見かけによらず、性格、口調は紳士である。
 しかし。
 問題は顔だ。
 まるでどっかのグラップラーにでも出てきそうな皺だらけの強面フェイスが、彼女を委縮させる。コイツ本当に中学生か。てか東洋人か。
 本人にはその自覚が無いのだろうが、何をどうしたらそうなるんだという話である。恐ろしや。
 そして、会場の全員が内心で突っ込んだが、ボクシング部でデュエマの何を培ったというのか。伝統的とは何なのか。さっぱり謎である。

「安藤か……厄介な選手を先鋒で持ってきたわね。あいつはD・リーグでも、まさに激流の如き踏み倒し戦術を操ることで戦績を上げているわね」
「確か、ヒナタが鎧龍で最初に使っていたデッキに似ているという話だったな」
「ああ……聞いた話によればそうなんだが」
「あと、何で美術部が無くて人間大砲部やボクシング部があるんだ、改めて考えてもおかしいだろ」
「知らん」

 そんなこと言っている間に、試合はもうすぐ始まろうとしていた。
 既にガクブルしながらカードを並べるホタルと、余裕の笑みを浮かべながらカードを並べる安藤。
 その対照的な光景が既に哀愁を誘う。
 ——これ以上は負けられない……だけど、また上級生……仕方ないと言えば仕方ないけど、勝てる気がしない——




「ホタルーッッッ!! しっかりしろぉーッッッ!!」



 後ろ向きになっていく心に、一筋の光。
 刺すように響いた彼の声が、彼女を我に帰らせた。
 ノゾムだ。
 ノゾムが、一番近くから叫んだのだ。

「ノゾムさん……!」
「上を見ろ! 前を向くんだ!」
「……!」

 気付けば、視線が俯き加減に、首は垂れ気味になっていた。
 プレッシャーから、そして不安から逃げたいという気持ちがそうさせたのだ。
 思い切って対戦相手を見据える。
 ——!
 なんのことは無い。
 今まで、もっと危ない相手と戦ってきたではないか。今更、怯える必要は無かったことに気付く。

「気持ちで負けるんじゃねーぞ! ガッツだ! 魂が負けてなけりゃ、勝機はぜってーにある!」

 彼の言葉が胸の芯に直に響いていく。
 何故か、負ける気がしなくなってくる。
 後ろを向き、俯く者が前向きな言葉を発せられるわけがない。
 しかし。前を向き、常に諦めずに向かう者は泣き言も、弱音も吐かない。
 気持ちで負けるな、その言葉が彼女を奮い立たせた。

「……勝ちます!!」
「ほーう。あくまでも向かってきますか。面白い……」

 鉄槌のような片手でカードを持つ安藤にをようやく真っ直ぐ見据えることが出来たホタル。
 相手が何だろうが関係ない。
 ノゾムが前に言ったことを思い出す。
 ——今の私の最強を持って、全力でぶつかるだけ!!



『それではこれより、先鋒戦開始です!! デュエル、スタート!!』