二次創作小説(紙ほか)

Act7:鎧龍頂上決戦 ( No.250 )
日時: 2016/03/01 14:48
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

 ***




『決着ぅぅぅーっっっ!! 勝者は、暁ヒナタ選手! よって、チームFが準決勝に進出だぁぁぁーっっっ!!』



「へっ、思い知ったかジェイコフ。これが俺の新たなデッキ、”火単ドラッケン”だ!」
「はぁ、全く……君にはいつも驚かされるよ。ハラショー。まさかあんな大きなクリーチャーをデッキに入れていたなんてね」
「つっても《ドラッケン》で踏み倒すのが前提で、あの1枚くれーだけどな、本当。大ギャンブルだったぜ」
「それを引き当てたのか……まあ良い。良いデュエルだった」

 手を差し出すジェイコフ。
 純粋にヒナタの実力に敬意を表しているのだろう。
 
「こっちもな。楽しかったぜ」

 ぐっ、と握手をするヒナタ。
 最高の勝負を終えた後の2人に、観客は盛大な拍手を送ったのだった。



 ***



「さっきも言ったかもだが、これはあくまでも応急措置っつーか、もしかしたら出来るかも程度のことだ。はっきり言ってなんの根拠もねえ。ヒナタがそれで武装が出来るようになるとは一言も言ってねえ。だからと言って、別の手段が思いついたわけでもねえ

 そんな空気とは裏腹に、こちらはかなり淀んでいた。
 此処まで自分がヒナタに行った特訓を全て話したフジだったが、やはりと言うべきか、ノゾムもホタルもレンもコトハも落胆を隠せなかった。
 火文明のカードを完全に使いこなせるようになれば、適合者になれるとも限らないのだ。レンの例は例外中の例外中であるわけだし、と彼は続ける。

「はっきり言って、物事はそんな簡単には進まねえと思うんだよなあ。今のところ、俺の目に”見えた”限りでは——いやなんでもねえ」
「?」
「ともかくだ。ヒナタにはお前らからこの事は触れないでやれ。一番あいつがショックを受けていたからな」

 顔を見合わせる各人。
 やはり、此処は彼に配慮してやるべきなのだろう。
 満面の笑みを浮かべて帰ってくるヒナタ。
 その裏にはどれほど大きな苦悩が隠されているのか、改めて彼らは思い知るのことになったのだった——




 ***




 準決勝。
 ヒナタ達チームFは、先ほどの無念と鬱憤と汚名とその他諸々ストレスを晴らさんとばかりに——



「くたばりなさいっ!! 《ザウルピオ》でダイレクトアタック!!」
「精々美しく散れっ!! 《キラー・ザ・キル》でダイレクトアタック!!」



 ——先鋒と次鋒に回ったコトハとレンが2勝をもぎ取り、最後は中堅のノゾムがモノの見事に勝利し、決勝進出。
 3勝コールド勝ちとなり、改めてその強さを観客に思い知らせたのだった。
 何かすっげぇコトハとレンがいきり立っていた上に、プレイングが殺意マンマンだったことについては触れないでおこう。
 と、こうなったことにより、時間に余裕のできた一同はテツヤ率いるチームAの準決勝の結果を控室で待っていた。
 話を聞くと既に彼らの試合は終わりを迎えそうになっていたということ。どうやら今、大将戦が行われているらしい。
 今回、サマートーナメントは幾つかのデュエルブースに分かれて試合がおこわなわれており、それぞれに実況や観客がついている。流石鎧龍、この辺もかなり大規模だ。

「おいおい、そろそろこれは試合が終わるな」
「そういや、相手は?」
「チームAはクナイが大将をやっているらしいが、対するチームGの対象は園芸部の部長、3回生の花村テルヒコ。この生徒写真を見ろ」
「はぁ」

 見るからに、気弱そうで大人しめというか、糸目で周りにお花畑が舞っていそうな少年だ。園芸部の部長と言われれば、皆納得する風貌だ。趣味は家庭菜園、生け花。普段の使用デッキはスノーフェアリー。しかし、どうやら今回の大会では詳しくはまだ情報が入っていないが、違うデッキを使っているとの事。
 とはいえデュエルの実力も、どうやら聞く限りによると、強いのは強いが、クナイに勝てるかどうかは疑問、とのことだった。

「よしっ! これでクナイと決着を付けられるぜ!」
「あたしは嫌よ。あのバカ兄貴と戦うのは」
「まあ、それぞれの思惑があるだろうな。僕は楽しみだ」
「おっ」

 ドタドタ、という足音を聞きつけたフジがそれに反応する。
 どうやら、試合結果を確認しに行ったノゾムとホタルが帰って来たらしい。
 そのままバタン、と扉が開く。
 が、よほど急いでやってきたのか、2人共息が上がっており、肩で呼吸していた。

「おいおい、随分とバテてんな」
「せ、先輩——試合の結果っすけど——」
「おう、クナイ達のチームが勝ったんだろ?」
「せ、先輩、それが——」




 ***




 ヒナタ達が目にしたのは、デュエルテーブルで片や膝をついているクナイの姿だった。
 観客席からでもはっきり見える程の愕然っぷりだった。
 そして、一番異常だったのは、対戦相手の花村である。




「ブルンブルンブルンブルンブルン……!! 世の中敵だぁぁぁぁぁーっっっ!! 汚物は消毒だ、ヒャッハァァァァァーッッッ!!」





 モヒカン、つり上がった目、釘バット、革ジャン、夜露死苦と書かれたダサT、そしてバイク——ではなく、それっぽいカバーを付けた二輪車にまたがり、先ほどからずっと、口で「ブルンブルンブルンブルンブルン」とエンジン音の真似事をやっている。
 そして、一番認めたくない事柄は、この男が先ほど紹介された花村テルヒコということである。

「花村先輩すっげぇグレてるんだけどぉぉぉーっ!? デッキどころか魂替わりしてヤンキーにジョブチェンジしてんじゃねーか!!」
「趣味は家庭菜園と生け花だ」
「嘘つけ!! 何かの間違いだろ!! 別人じゃねーか完全に!!」




「俺様はぁぁぁーっ!! バイクとデュエマで世界を侵略する男、花村テルヒコだぁぁぁーっっっ!! 趣味は単車で花畑の上を爆走することだぁぁぁーっっっ!!」 



「本人じゃねーか!! 確定しちまったよ!!」
「しかも趣味も恐ろしい方向に爆走してるわよ!! なにこれ、リトルコーチはどうしたの!?」
「泡吹いて起きないらしい。大会が始まってずっとな。ついでにテツヤも、観戦中に、あまりのショックで好物のウメトラ三兄弟をノドにつまらせて泡吹いて倒れたらしい」
「誰か病院連れてってあげて!!」
「こっそり駄菓子なんか食うからバチが当たったんだろ。ほっとけ」
「いや、冗談じゃねえよ!!」
「いったい何が……世の中には科学では証明できないことが……先輩、オレちょっと寝てきます」
「落ち着けノゾム! 頭から煙出てんぞお前!」

 ともかく、落胆しながらやってくるクナイ。
 申し訳なさそうな目でヒナタを一度見ると、「気を付けろ。奴は規格外だ」と言い残し、そのまま去っていったのだった。
 ひゃはははは、と高笑いを上げる花村をもう一度見据えるヒナタ。
 と、そのときだった。

『ヒナタ』
「白陽!? どうしたんだお前!! そういや、今日ずっと喋らなかったな」
『フジから、余計な口出しをするな、と我々全員にきつく言われていたのだ。お前達の戦いに水は差せんからな』

 しかし、今見回すと、ノゾム達もそれぞれの相棒に話しかけられたらしかった。
 フジも了承したように頷く。

『間違いないよ、ノゾム。あの男、何かがおかしい』
「マジかよ。まあ、薄々そう思ってたけどな」
『僕の見立てが正しければ、あれは火のクリーチャーですにゃ!』
「火のクリーチャー、ですって? 本当なの、ニャンクス」
『それもあの男に憑依しておるわい。タチが悪い』
「そうみたいですね……ハーシェル」
『黒鳥レン。あれからは恐ろしい気配を感じます』
「どうやら、貴様の見立ては正しいらしいな。僕も同意見だ」

 そして、英雄達の意見も合致している。
 今回の大会、やはり裏に影が潜んでいることは確定的になった。

「とにかく、俺達の祭りに水を差す不届きな連中は——この手で突き止めてやるっきゃねぇみてーだな!!」

 控室へ戻っていく花村の背中。
 そこには、燃え上がる侵略の炎が滾っていることに、ヒナタ達は気付き始めていた。
 そして、これが革命と侵略のプロローグであったことは、まだ誰も知らない——