二次創作小説(紙ほか)

Act8:次なる舞台へ ( No.262 )
日時: 2016/03/19 11:59
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

 ***




「……俺は」




 目が覚めたのは、どこか白い場所だった。
 ベッドの上で横たわっている。
 起き上がると、保健室だった。
 取り囲むようにして周囲にはレンとコトハの姿があった。ノゾムとホタル、フジの姿は見当たらない。

「やれやれ。どうなるかと思ったぞ。コロナの奴は言った通り、今回は貴様と白陽を見逃したようだが」
「……そーみてーだな。ま、命と白陽があるだけ良——」

 そう言いかけた途端、がばっ、と再びベッドに抱き伏せられる。
 見れば、瞳を潤ませたコトハの顔が眼前にあった。
 頬を真っ赤にした彼女は捲し立てるように怒鳴る。



「バカ!! 何で、何でそんな風に淡々としていられるのよ!! 得体の知れない奴にやられて!! あたしは、あんたがぶっ倒れる度に——!!」


 
 ヒナタも黙るしかなかった。
 彼女にはいつも心配をかけてばかりだ、と。
 だが、今回に限っては悔しさ以前に手を出せない程の強大さすら感じるのだ。
 何も出来ないまま終わった。
 もしも、侵略が、ソニック・コマンドが他にもいるとすれば、ヒナタは——今度こそ瞬殺されていた。

「……今の俺はあいつに勝てる気がしねえ」

 余りにも速すぎる。次元が違い過ぎるのだ。
 何もできないまま、何もしないまま、そのまま一方的に蹂躙された。
 それが心残りだ。
 もしも次に彼女が現れたら、今度こそ白陽を奪われる。

「——また考えよう」

 言ったのはレンだった。
 
「だけど」
「——お前が適合者じゃなかったとしても、白陽は貴様のカードだ。あんな得体のしれない奴には渡せない、そうだろう? また勝つにはどうすれば良いか、僕達と考えればいい」

 知られていた、か。
 やはり彼らには敵わない。そうつくづく感じる。
 こんなところで諦めているわけにはいかないのだ。
 折角、トーナメントに優勝したというのに。

「……そーだったな」
「神を倒した男の台詞じゃないわよ、本当」
「だが、対処が難しいのは本当だ。何とかせねば……」
「見ていたのか?」
「ああ。一緒に決闘空間に飲み込まれた」

 この現象も思えば初めてだ。
 相手が何をしたのかは分からないが、自分たちとは別次元の力を持っている事は確かだろう。

「こんなところでぶっ倒れてるわけにはいかねーな。それとコトハ」
「何よ。もう大丈夫なの?」
「……そろそろ離してくれてもいいんだぞ」

 見れば。
 ずっとコトハはヒナタを腕で抱きしめる形になっていた。
 それもベッドの上で——。
 無意識にやっていたのだろうか、彼女の頬が真っ赤に染まる。
 そのまま、ぱこーん、と小気味の良い音が部屋中に響いたのだった——




 ***




「ぶ、武闘先輩、ヒナタ先輩は大丈夫なんですか!?」
「それを確認するために、遅れながら今急いでんだろーが」
「で、でも……」

 保健室に向かっているのは、フジとノゾム、そしてホタルだった。
 保健室の中にレンとコトハを置いておき、残る彼ら3人は、その他のごたごたを片付けていたのだった。
 例えば今回のトーナメントの後始末である。
 フジ1人だけではあれなので、取り敢えず1年の2人を付けた形だ。
 それらが終わったので、急いでいたのだ。
 保健室の扉を開ける。
 そこには既に立ち上がってレンとコトハと話しているヒナタの姿があった。

「よーう、ボコボコにされた割には随分と立ち直りがはえーじゃねーか」
「フジ先輩、ノゾム、ホタル」
「心配したんですから!! まさか、ヒナタ先輩が目の前で負けるなんて……オレ……」
「これはやっぱり一大事ですよ! あのコロナって子が何をしてくるか……!」
「いや、心配はいらねーよ」

 呟くように言った彼は笑みを浮かべた。

「俺達はチームだ! また、どうにかする方法を考えるだけだぜ!」
「元は僕の言葉だがな」
「完全に受け売りね」
「ひどくねーか!?」

 どうやらもう大丈夫のようだった。いつものヒナタ、そしてレンもコトハもあの力の前に怯えてはいないようだ。

「……そうだな。そしてヒナタだけじゃねえ。黒鳥、淡島。お前ら2人にも強力な革命のカードを用意してある」
「僕と……」
「私に……ですか?」

 こくり、と頷いたフジは続けた。




「D・ステラはまだ始まったばっかりだ。悲観的になるのはまだ早すぎる。それに——」




 そういうと彼はノゾムとコトハにも目を向けた。

「侵略者に対抗するために、お前らにも色々用意してあるぜ。まあ、アレだ。そのためにはそれなりの訓練が必要だが」
「どんな試練にだって、立ち向かう覚悟です!」
「全く、いよいよ複雑になってきたわね……」

 何であれ、全員の士気が上がって来たのは確かだった。
 フジは続ける。

「ソニック・コマンド共については引き続き調査が必要だ」
「今のままじゃ、一方的に蹂躙されるだけ——でも、対抗策が無いわけではない、と」
「ああ」

 全員に希望が戻ってくる。
 敵をもっと知れば、それだけ攻略法が見つかるかもしれないのだから。

「だが、てめーらには他にも敵がいることを忘れるな。今回のヒナタの敗北——それは決して見せしめや無駄なことだったわけじゃねえ。確実にてめーらの糧になった。あんなぶっ飛んだモン見せられた後なら、もう何が出てきても怖くねーだろ」
「……そーっすね」

 見れば、ヒナタはもう先の敗北を引きずってはいないようだった。

「アマツカゼが何故カードになったのか、そしてどういう存在なのか」
「あとはコロナが白陽を使って何をしようとしているのか、ね」
「分からんことばかりだ……」
「そのうえで、こっからは事務連絡になるんだが——」

 全員を見渡すとフジは続ける。
 彼らも顔を見合わせた。事務連絡とは何なのだろうか、と。
 不穏な空気が漂う。
 その中に、敢えて彼は言った。





「……D・ステラ、国内予選。その試合形式は”タッグマッチ”による1本勝負——そして、俺達の最初の相手は”零央学園”に決定した——」





 ***





「……さいしょのあいては、がいりゅーに決まったみたい」

 少女はぽつり、と呟く。 
 手のカードを見ながら。
 執事服の背の高い少年が恭しく「左様でございます」と答える。

「どーしよっかなー……このこはつかえないしー」

 きめた、と彼女は言った。




「……わたしのしんせいきデッキで叩きのめせばいいかー——それも、かい・しんせいきで——」



 ああそれと、と執事服の少年は続けた。

「鎧龍には——クリーチャーを研究している機関があるそうです」
「……そう。なら、予定ついかしちゃおっか……」
「と言いますと」
「……そこにいけば、このこのことがわかるかも」
「また、鎧龍にはあの暁ヒナタも在籍しています。彼も恐らく『決闘封獣(クリーチャーズアーティファクト)』を所持しているかと」
「ふぅん……暁ヒナタ……きょーみ、あるかも……確かむかんのまじゅつしとウチでもゆーめー……」
「現在は火を中心にしたデッキを使っているとのことです」
「そう……」

 そう言うと、立ち上がった彼女はつま先立ちになり——少年の頬に自らの唇を押し付ける。

「……何度も言いますが、余り他の方になされるのは控えてくださいよ?」
「癖……仕方ないかも」
「はぁ……」

 彼女の右手で、妖しくカードが光る。
 何にも染まらない純白のカードが——