二次創作小説(紙ほか)

Act1:紡ぐ言の葉 ( No.263 )
日時: 2016/03/19 21:49
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

 夏である。
 青い空、青い海、その他諸々。
 何であれ、海に面している(埋立地なので当然と言えば当然)海戸に於いて、学生達の夏休みの楽しみの1つがビーチで水を掛け合い、真夏の日差しを肌で受けるというのは言うまでもないことである。
 が、しかし。今年に限ってはそうではない。
 D・ステラ。世界一のデュエリストチームを決める大会の学園対抗予選がこの夏に行われるのだから——




「あぢぃ〜……よくどいつもこいつも、こんなところで”写真”を撮る準備が出来るもんだ、熱くて下手にモノ触れんのかコレ」




 ——何て事を言っている暇は彼らにはない。少なくとも。
 暁ヒナタは、トレードマークのグラサンを珍しく目に掛け、更に海パン、ビーチサンダル、肌の上から黒のパーカーを着ていた。完全にビーチモードである。
 日差しが照り、黒髪を焼いていく。熱い。暑いのではなく、割と冗談抜きで熱いのだ、熱された髪が。
 そして辛いのは、これがレジャーではなく、完全にリトルコーチ・武闘フジからの依頼だということだ。

「学園対抗予選は2対2のタッグマッチ——そして総当たり戦。試合ごとにペアが変わる——で、何で初っ端からあたしとあんたが組まなきゃいけないのかしら?」
「知らねーよ!」

 思わず言い返した。
 後ろでパーカー姿のツンツンポニーテールに。
 髪を自分の手で色っぽくすくと、彼女は続けた。

「そんでもって、何で早速そのペアでビーチでクリーチャー狩りしないといけないのかしら?」
「もっと知らねーよ!」
「やれやれ……大事になる前に片付けた方が良いのは確かだけどさぁ。よりによって”チームワークの練習”をこんなところにまで引っ張ってくる必要はないと思うのよ」

 真面目に筋道立てて話すコトハは、何処か苛立った様子でヒナタを睨みながら言った。




「ビーチにガイッシーとかいうネッシーの紛いモンが出た? 胡散臭い事この上ないわ! そして何であんたと一緒なのよ! 無駄足だったらどうしてくれんのよ!」




 そして、いつものように憤慨した——





 ***




 鎧龍サマートーナメントが終わった後の事である。
 フジは唐突に、校内対抗予選のルールをヒナタ達に告げたのだった。

「2対2のタッグマッチ?」
「そうだ。そして学校同士の対戦は総当たりで行われる。負けることが許されないのは変わらないが」

 どれも強豪だからな、とフジは付け加えた。

「で、でも、タッグマッチって2人と2人で対戦するんですよね……もしも1勝1敗とかになったらどうするんでしょうか」
「そうだな。しかも対戦数も先の予選に比べると少ない——」




「誰が2人がそれぞれでデュエルをするって言った?」





 え、と全員は戸惑いを隠せない表情でフジを見た。
 その言葉の意味がしばらくは分からなかった。
 それを見兼ねたか、彼は続ける。




「説明が足りなかったみてーだな。正真正銘のタッグマッチ——つまり”タッグデュエル”、4人で行い、2人と2人に分かれて行うアレだよ」




 この時。
 全員は理解した。
 何でそんなルールを此処でぶち込んだんだ、と。
 はっきり言って、デュエル・マスターズでタッグデュエルのルールを大会に持ち込むなど前代未聞なのである。

「ついでに、それぞれの学園戦でのチーム分けは俺がもう決めている。第一回戦、零央学園——ペアは暁ヒナタと如月コトハだ」

 しかも勝手にペアを決められていく始末。
 それでもフジは各々の疑問だの不満だのをオール無視してその他の連絡をしていく。
 今回の大会の事件のこと。そして、アマツカゼとコロナのこと。
 更に1回戦が行われる日時は8月の1日であるということ。
 そして最後に持ち出したのが——



「それでヒナタと如月。後で俺様んところ来いや。丁度チームワークつーかペアのコンビネーションを確かめる良い方法になるだろ——」



 ***



「数日前より、此処海戸マリンビーチに龍型の影が発見される。それがガイッシーと呼ばれるようになり、今ではガイッシーの出現を狙ってカメラ撮影を行う者が多々。全く、遊びに来た連中は良い迷惑ね」
「なあ、アニメビクトリーV3でこんなんあったよな、昔」
「さあ、ありきたりな話だわ」

 ちまたではUMAだの、宇宙人の作った怪獣だの言われているが、フジの推測は只一つ。
 ”やっぱクリーチャーじゃね?”である。すっげーいい加減な言い方ではあるが、彼の言う事は悪い方向に大抵当たるので、信用して良いと思われる。哀れ。
 そんなわけで、ヒナタとコトハは今回、その正体を暴きに来たのである。
 
「そ、それよりも……」
「んあ?」

 暑そうなだれた顔で振り向き、ヒナタはコトハの方を見る。 
 
「あ、あたし、折角だから今回挑戦してみたんだけど……ビキニ……変じゃないよね……?」

 ばっ、と衣が落ちる音がする。
 目に入ったのは、パーカーが脱げ落ちたことで露わになったコトハのビキニ姿であった。フリルがついた緑のトップス、そしてボトムスは同じ色だが、腰に白のパレオを巻き付けていた。
 こうして凝視してみると、かなり破壊力が高くなっている。はっきり言おう。これ以上はまともに見れたものではない。
 すぐさま顔を前方に、ぐいっと戻してしまった。
 何故彼女が唐突にこんなことを聞いてきたのかさっぱり分からないまま、ヒナタは混乱する頭の中を整理していく。

「す、すまん!」
「え!?」

 ショックを受けたような声が聞こえたが、すぐさま「ち、違う! 似合ってる! 似合ってるけど……」と返す。
 そこからヒナタは言葉が続かない。
 ——くそ、コトハの奴……普段はあんなに荒っぽいのに……。 
 正確に言えばいつものそれはほぼ自業自得なのであるが。

「……変? かな……」
「いや、違うって! あんまりにも……まあ、何だ……」

 顔が真っ赤になる。
 コトハの方も内心穏やかではなかった。
 ——ちょっと!! 何か言ってよ!! 折角聞いたのに、恥ずかしいじゃないのよ!! あーもう!! このバカ!! やっぱこいつに聞いたのが間違いだったんだから……なんか言ってよ、ヒナタぁぁぁーっ!
 しばらく、無言が続く。 
 互いが互いに、何を言えばいいのか分からないこの状況。
 しかし、先にヒナタが「き、綺——」と言おうとしたそのときであった。





「ガイッシーだぁぁぁー!! ガイッシーが出たぞぉぉぉーっ!!」





 民衆の声に、2人の甘い考えは完全に消し飛ばされた——