二次創作小説(紙ほか)

Act1:紡ぐ言の葉 ( No.264 )
日時: 2016/03/20 01:45
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

「白陽!」
『怪しい人物はいなかった! あれは間違いなく海から出現したものだ!』
「ニャンクス!」
『了解ですにゃ! 魔法陣展開! 広範囲バリア起動ですにゃ!』

 大勢の人が防波堤の近くや砂浜に陣取ったテントやシートで写真を撮っている。
 現在、ヒナタとコトハは砂浜を後方から誰かカードを使おうとしている怪しい人物が居ないか監視していたわけだが、成程水柱が立っているのが此処からでも見える。
 走りながら、ヒナタは思わず問うた。うっすらと影が見える。

「あれは一体——!?」
「ドラゴン!? いや、あれって——!!」

 次の瞬間、水柱から完全にクリーチャーが姿を現した。
 そしてあの頃の記憶が蘇る。
 神々と戦いを繰り広げたあの頃の記憶が——
 
「——あいつは」

 ギリッ、とヒナタは苦い記憶を噛み締めるようにそれを睨んだ。
 神々の半身をそれぞれ繋ぎ合わせたかのようなその姿。
 間違いない。
 あれは——



「《神聖騎 オルタナティブ》——!!」



 ——偽りの神(オラクリオン)——! 
 間違いない。
 あれは龍などでは断じてなかった。
 神々の半身を文字通りオラクル教団の力で繋ぎ合わせた怪物だ。
 急いで駆けつけようとするも、光の弾を放って暴れ出したオルタナティブによって当然のようにビーチは大混乱に。
 しかし、光弾が民衆に近づくことはなかった。
 ニャンクスのバリアがそれらを防いだのだ。

「コトハ!」
「決まってるでしょ! どっから沸いてきたのか知らないけど、ぶっ倒す!」
「ダメだ、人目が多すぎる上に辿り着けない!」
「じゃあどうしろって言うのよ!」
「クリーチャーを使うんだよ! 白陽!」
『了解した!』

 ヒナタが叫ぶと同時に、白陽が槍を振り回しながら熱の塊となってオルタナティブへ突貫した。
 そのまま龍神の首を全て切り落とす——
 ——あれ? これ決闘空間に巻き込む必要無くね?

『これで終わりですにゃぁぁぁーっ!!』

 トドメと言わんばかりにニャンクスがオルタナティブの胸に丸薬を撃ち込んだ。
 次の瞬間、偽りの神の身体から蔓が生えていき、どんどん動きが鈍くなっていく。
 そして、そのままビキビキ、と体にヒビが入っていってそれは崩れ落ちた。文字通り跡形も無く——消え去ったと思われた。
 が、

「!?」

 次の瞬間、海中から破片のようなものが集まっていく。
 それが再びオルタナティブの身体を成した。
 完全に再生されてしまった。

『何てしぶといクリーチャーだ』
『僕特製の猛毒薬を埋め込んだのに……!』

 暑さでげんなりしているからか若干棒読みの白陽とおっそろしいことを口にするニャンクス。 
 だが、肉弾戦で英雄の力を持ってしても倒せないとは、オラクリオンがただのオラクルの尖兵ではないことを改めて思い知る。

「おいおいマジかよ! イケる流れじゃなかったのかアレ!!」
「ちょっと! 怯んでんじゃないわよ! ニャンクス! アレを見せてやりなさい!」
『了解ですにゃ!』

 受け応えた彼女は、丸薬を1粒腰のベルトに付けられたケースから取り出すと、それを飲み込んだ。
 たちまち、彼女の右腕が肥大化し、肌はゴツゴツとした爬虫類のそれになる——

『恐”龍”の腕、食らうのですにゃぁぁぁーっ!!』

 ガァァン、と衝突音が響き渡った。
 オルタナティブの顔面に巨大化した拳がたたきつけられたのだ。
 しかし。今度こそオルタナティブは動じなかった。そのまま、槍を取り出し、ニャンクスを振り払う——そして、そのまま脳天に槍を叩きつけた。

「ニャンクス!」

 しかし、呼びかける間も無くニャンクスは海へ吸い込まれていく。
 すぐさま海面に「ぷはっ」と顔を出したが、オルタナィブも追撃と言わんばかりに海面に飛び込もうとする。
 絶体絶命と思われたが——

『そこまでだ』

 
 ——まるで見えない壁に阻まれたかのように先へ進めなくないようだった。
 見れば、オルタナティブの周囲にはお札が張り巡らされている。
 それも1枚や2枚ではない。
 かなりの量が球になってオルタナティブを囲っている。

『破ッ!!』

 白陽の呼びかけと同時に炎がお札の1枚1枚から噴き出た。
 それが神の身体を焼いていく——

「流石だぜ、白陽!」
『……っ!?』

 だが、白陽の表情は浮かばれないものだった。
 次の瞬間だった。
 札が飛び散り、オルタナティブが再びその姿を現す。
 札が全て吹き飛ばされてしまったのだ。

『馬鹿な……!! 何てタフなクリーチ——』

 言い終る前に、今度はオルタナティブの槍から電撃が放たれた。
 そのまま、悲鳴を上げる白陽。
 そして、海に落下してしまったのだった。

「や、やっべぇ!! どうするんだコレ!!」
「こっちからは近づけないし……!! 完全に怪獣ショーになっちゃったじゃないのよ!!」
「正義の味方2人ともやられてっけどな!!」
「落ち着きなさい!! とにかく、あの2人にはさっさと逃げて貰わないと——」

 押されだしたことで、焦燥感が募ってくる2人。
 このままでは白陽とニャンクスがやられてしまう。
 そうなる前に2体を回収せねばならないが——




「オラクリオンへのとっこーは、むほうもの——およびかみにかんけいするものだけ——えいゆーはかみに対してたちうちできないかも」




 ふと、声が聞こえた。
 振り返る前に、声の主はヒナタとコトハの間を通り——カードを突き付けた。

「……あぴせりん。実体化おねがいかも」

 そう呟く声の主。ワンピース姿の少女だ。背丈はほぼコトハと変わらず、目についたのは鍔の大きい帽子である。 




「《戒・神聖騎 オルタクティス》——」




 そして——偽りの神を従えた。
 その姿はオルタナティブにシルエットこそ似ているものの、細部が異なっている。
 そして、羽毛の生えた翼を有しており、まるでその姿は純白の天使のようだ。
 だが、同時に悪龍の首も健在であり、天使の顔と悪魔の顔を併せ持つ”神”という一種の生命体であることが分かる。

「な、何だお前——」
「話はあと、かも」

 どこか浮世離れした声と語り草で、彼女はオルタナティブを指差した。




「天罰(パニッシュメント)」




 次の瞬間——《オルタクティス》の投げた三又の槍が、オルタナティブを撃ち貫いた——

「天に帰せ——いつわりのかみ」

 そして、一瞬でその身が粉々に砕け散る。
 今度こそ、もう二度と蘇ることは無かった——