二次創作小説(紙ほか)

Act1:紡ぐ言の葉 ( No.265 )
日時: 2016/03/20 01:13
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

 騒ぎは、人が逃げてこの場からいなくなったり、オルタナティブを取り巻くクリーチャーが消えたことで収まりつつあった。
 そして、一部始終を見届けたヒナタとコトハは、呆然と先ほどの光景を反芻していたのだった。
 あのオルタクティスというクリーチャーも間違いなくオラクリオンだ。しかし、何かが違う。既存のオラクリオンには無いものがあるのだ。

「つ、つえー……マジかよ」
「瞬殺……嘘でしょ?」

 あれほど自分たちが苦戦していたオルタナティブを一瞬で屠ってしまった少女——正確に言えばそのオルタクティス——を驚きの眼差しで見ざるを得ないヒナタとコトハ。
 
「……おっと、わすれてたかも」

 パチン、と彼女が指を鳴らすと、オルタクティスは海面に向かう。
 そのまま2枚のカードを持って戻って来た。
 見れば、白陽とニャンクスのカードであった。そのまま2枚を持ち主に手渡すと、恭しくお辞儀をしてオルタクティスもカードの姿に戻って少女の手に戻った。2体は気絶しているらしく、喋る様子が無い。恐らく、先ほどの戦闘でかなりダメージを受けたからだろう。

「あ……ありがとな」
「で、でも、あんたは一体、何者なの? 助けてくれたのはありがたいけど……」

 先日のコロナの件もある以上、手放しで彼女を受け入れるわけにはいかないのがコトハの心情であった。
 だが、意外にも彼女は身分をすぐに明かしたのだった。




「零央学園2年——有栖川 ツグミ……」



 同時に、2人には衝撃が走る。
 自分たちの耳がおかしくなれけば、今この少女は確かに言ったのだ。
 零央学園——鎧龍の次の対戦相手である。かと言って、彼女が次の対戦相手になるとは限らないのであるが。
 しかし、零央は九州——それも九州一の大都市・福岡——にある遠く離れた地。
 彼女がどうしてこんなところにいるのか、というのは当然2人が抱く疑問であった。

「せーとしょーめーしょもあるし……ほら」

 成程確かに零央学園2年・有栖川ツグミと書いてあった。間違いない。
 偽造のしようのない生徒証明書であった。
 だが、それは問題ない。ヒナタとコトハは別のことが気になっていたのだ。

「ああ……うん、それは分かったんだけど」
「がいりゅー、とゆーか、ぶとーざいばつに用があってたんだけど……途中でくりーちゃーをたたかわせてるあなたたちを見かけて、すこし手助けしたかも」
「そ、そうか……助かったぜ」
「手助けどころか、一撃だったわね……」

 2人は少し、拍子抜けしてしまった。
 彼女は生きたカードの使い手だ。
 しかし、白陽やニャンクスのカードをちゃんと返したり、こうして同じ生きたカードの使い手である彼らに目的をあっさりと明かしてしまった辺り、敵ではないだろう。恐らく。
 しかも、武闘財閥に用があるとのことだった。それはそれでまた、彼女の目的が気になってしまうところであるのだが。
 ——つーか、近所の定食屋に来たような感覚でこっちにまで来たのかコイツ……随分とまー、軽いっつーか……。

「あなたは、あかつきひなた……」

 そんなことを考えてる中、じっとツグミがこちらを見ていることにヒナタは気付く。

「俺がどうかしたか?」
「……自分でしってる? けっこーあなたはゆーめーかも、だよ?」
「ああー、そう……」

 それで望まない人間につけ狙われることが多い上に、大してちやほやもされないしされたくもないのでデメリットしかないとヒナタ自身は思っていたが、こうして自分の事を知っている遠くの人間がいると無性に少し嬉しくなってしまったのだった。
 
「となりのひとは……かのじょかも? さすがゆーめーじんかも……」
「えっ!?」

 突然言われてどぎまぎするコトハ。
 顔が赤くなる。
 すぐさま言い返す。

「ち、違う! 断じて違う! 何でこんなスケベなダサいグラサンのデュエマバカが彼氏なのかなー! うん、有り得ない!」
「おい、コトハテメェ」
「あっそ……なら”もんだいないかも”」

 そう言ったツグミは、再びヒナタの方を見た。

「……ふーん……”美味しそう”……」
「え?」

 ちょっ、と止めようとするコトハを意にも介せず——少女はヒナタに顔を近づけた。

「あ、あの……ツグミさん、顔が近いんすけど……」
「わたしはえいゆうのつかいて——」

 英雄、というワードに2人は固まった。
 まさか、まだ未知なる英雄が居たとは思わなかったのだ。
 くるり、と踵を返したツグミは、そのまま「それもすこしかわってるとおもうかも」と続けた。
 彼女の顔が遠のいて、安堵するヒナタ、そしてコトハ。

「というと……さっきのクリーチャー実体化もその英雄の力だっていうの?」
「そうかも」
「かもっ、てあんたねえ……」
「だいじょーぶ……うそはいってないかも」

 敵ではないのだろう。だが、どこか間の抜けた感じ、そしてつかみどころのないふわふわとしたところが、先日のコロナとは別のベクトルの不気味さを感じる。
 しかも、流すようだったが彼女は確かに言った。自らが英雄の使い手だと。
 英雄は、白陽、クレセント、ハーシェル、ニャンクス、アヴィオール、それぞれ5文明に1人ずつ。つまりは5人だけでは無かったのか、と彼らは疑問に覚える。

「つーかよ? 何文明なんだ? てめーのその英雄とやらは」
「ないよ」
「……無い? 文明が?」
「うん」

 これには驚いた。
 英雄とはそもそも、マナを武装する能力を持つクリーチャーの中でも、強力な力を持つものに与えられる称号。そして、星の英雄は、更に星の力を借りて更なる武装の発展形の技を習得した存在である。
 しかし、そのマナの根本である文明が無い。
 無いということは——

「……無色?」
「無色のマナ武装のクリーチャーなんていたかしら」
「さあ……? そもそも、ゼロから力を生み出すってのも変だから……」
「そのうち分かるかも、だけど」
「随分ともったいぶるのね。さっきはあんなにペラペラと喋っていたくせに」
「……これの、のーりょくは——」

 そこでツグミは口を閉じた。

「そーいえば、忘れていたことが、もーひとつあったかも」

 刹那。
 彼女が振り向き、間合いを詰める。
 完全な不意打ちだった。
 そしてヒナタの唇に——少女の柔らかいそれが宛がわれた——