二次創作小説(紙ほか)

Act2:暁ヒナタという少年 ( No.272 )
日時: 2016/03/23 11:52
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

「……あの後」

 如月コトハはふと思案した。
 D・コクーン内でデュエルをしながら、彼女は回想する。
 自分が倒れた後、ヒナタがずっと着いてくれた。そのまま彼は気まずそうな顔をして、自分にどこか異常が無いか聞いたらそのまま逃げるように帰ってしまった。
 まあ、気持ちは分からなくもない。自分もキスされたと知られたら、それこそ羞恥で死にそうだった。
 だが、どっちにしたってやることは変わらない。
 今の弱い自分では、何も守ることが出来ないのだから。
 ——ヒナタは——他の奴には——渡さない!
 
「《ヴェロキボアロス》でダイレクトアタック!」

 五文明の力を司る邪帝龍が、その大斧を振り下ろす。
 そのまま、今日で30回目となるコンピューターへのダイレクトアタックを決めた。
 ——渡さない、か……。
 彼女は目を伏せた。
 今まで散々助けられてきた。
 なのに自分は少々、ヒナタにきつく当たりすぎではないか、とツグミ戦の後に思うようになった。
 ——だけど、だけど、後一歩踏み出せないのは……やっぱ怖いから。ヒナタは元々はライバル。いずれは大きな場で倒す相手……! その対等な関係が崩れるのが……怖い。
 D・コクーンの扉を開ける。
 腕時計を見れば、既に午後の2時40分になっていた。
 もう、昼食の時間はとっくに過ぎている。ぴりぴりとしているコトハの雰囲気を感じ取ってか、誰も呼びに来なかったのだろう。
 ——何も守れない……ただのエゴじゃない。嫌になるわ。あたしがヒナタが欲しいだけじゃない。誰かにとられるのが嫌なだけじゃない。
 だけど、例え他のものを払いのけたとしても彼は独占出来ない。
 ヒナタは眩しすぎるのだ。余りにも。
 まるで皆を照らす太陽のようだから——

『コトハ様……』
「……行こう。ミーティングが始まる」

 今日は3時からフジによるミーティングがあるという。
 恐らく、昨日の件のまとめだろう。
 有栖川ツグミが何のために海戸にやってきたのかがそれで分かるはずだ。
 それで、朝からフジは「適当に特訓してろ。3時からミーティングやるから。あ、そこのD・コクーンは好きに使って良いぞ」と伝言を残して席をはずしているのだった。

「……?」

 1つだけ、稼働中のD・コクーンがある。
 もう、昼食を済ませて使っているのだろうか。
 ——いや、でもおかしいわね。確かレンが後輩2人相手に午後はスパークリングするって言ってたし……あとこれを使ってるのは……あっ
 ガラス越しに覗くと、案の定そこにはヒナタの姿があった。
 試合が終わったらしく、一息ついている。
 しかし、もう1戦さらにおっぱじめようとするのを見兼ねたコトハは、ガラスをコンコンとノックする。それでようやく気付いたようだった。

「ああ、すまねえコトハ。もうこんな時間か」
「あんたねぇ……あたしも今終わったところだから何も言わないでおいてあげるけど」
「わりーわりー」

 いつもお気楽な調子で返すヒナタ。
 対戦が楽しかった、とでも言いたげな表情だ。
 そのまま、コトハの顔を見つめると、彼は笑って言った。



「ま、俺はもう誰も失えないからな——もっと強くならねぇと」




 しかし、その言葉は何処か重たげだった。
 そのまま彼は「さー飯だ飯」と言いながら軽い足取りで部屋を去っていく。
 だが、後姿が何処か、コトハには寂しげに見えた。
 ——誰も失えない……そうね。ヒナタは今まで私達と一緒に辛い戦いを経験してきた。それだけじゃない、要所要所で重いものを背負ってきたのもヒナタ……。
 って、と此処でコトハは気付いた。彼が完全に弁当を食うつもりでいることに。

「ヒナタ! もうミーティングにいかないと!」
「えっ、あ……やべ、そういやそうだった……」

 それでも、どこか抜けているところも如何にも彼らしいと言えば彼らしかったが。
 



 ***




「昨日、零央学園の代表チームの1人・有栖川ツグミとその関係者がビルを訪ねてきた」

 

 予めヒナタとコトハからこの事を聞いていたレンとホタル、そしてノゾムは今更驚きはしなかった。
 流石にキスだとかの部分は省いたものの、六人目の英雄のことなども知らせてある。
 問題はその目的である。
 ——あれですよね、黒鳥先輩、完全にこれはこれでスクープものですよね理由の是非に関わらず。
 ——いや、淡島。問題はやはりそこではない。
 ——そーだよ、ホタル! 英雄に六人目が居たってことが驚きだろ!
 ——そして何のためにやってきたのかも、やはり重要だ。
 というやりとりをしていたのが記憶に新しい。

「その要件の1つが、自身の所持する英雄——《姫英雄 混濁のアスピリン》を調べて欲しい、ということ」
「先輩《アスピリン》は鎮痛剤です、クリーチャーじゃありません」
「すまん《アピセリン》だった、畜生何て紛らわしい名前だ」
「でも調べて欲しい……?」
「ああ。今回の件で零央にも小さいながらクリーチャーを研究する機関があることが明らかになった。ただし、何でこちらのことが知られていたのかは疑問だ」

 確かに、武闘財閥のクリーチャー研究は門外不出だったはず。
 それを考えれば、また新たな疑問が沸いてくるのも無理は無かった。
 そして、どうやらその技術では《アピセリン》を解析できなかったらしく、こちらに直接依頼してきたとのことだ。

「……だが、早速解析に掛けたところ、機械が故障しちまったらしくてな。カードのコピーだけ取っておいた」
「マジですか」
「今までにないクリーチャーってことは間違いねえ。今は敵ではないにしろ、いずれ暴走する可能性も無きに非ず、だ」

 コトハは直接相手取ったから分かる。
 あの英雄は今までのものとは何かが違う。
 まずは人型だったことだ。一部が異形の形をしていたとはいえ。

「……そしてもう1つは——有栖川ツグミの海戸調査に伴う鎧龍対零央の試合の延期、つまりは繰り下げだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなこと、認められるんですか!?」

 立ち上がったのはコトハである。
 流石のフジも頭を掻いて「参った」と言わんばかりの表情で答えた。

「対零央の対戦選手は既に、暁と如月って届け出ちゃったからなぁ……てめぇらの試合は先になるのは申し訳ない」
「そ、そうじゃなくて、調査って一体……?」
「昨日のオラクリオンの出現だ」

 ヒナタとコトハはぴんと来た。
 オラクリオンは只のクリーチャーではない。オラクルが居ない場所には出て来ないクリーチャーだ。
 それが突然現れたのだからこれは異変だろう。

「……どうやらこの時期、零央の方でも色々あったらしくてだな……出来るだけ有栖川ツグミの出場を遅らせたいという向こうの意図が見え見えだ。まあ、俺様としてはしばらく泳がせようと思っている。テメェらの手出しは無用だ」
「しかし、気になります。僕としては、こんなことがまかり通っていいのか……」
「それも何のために……? 陰謀の匂いがします」
「さあな? 俺様はそれ以上の事は聞かされてない。だが、そのために次の対戦相手はこうなるな」

 タブレットを操作し、フジはそれを見せる。




「次の相手は蓬莱学園——対戦選手は黒鳥レンと淡島ホタルに決めてある——」