二次創作小説(紙ほか)

Act2:暁ヒナタという少年 ( No.273 )
日時: 2016/03/23 15:32
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

 ***



「何よ……拍子抜けだわ」

 ぶつぶつと呟きながらコトハは帰路に着くことにした。 
 折角戦うつもりだったのが、どこかへ行ってしまった気持ちだ。肩透かしを食らった、とはこういうことなのだろう。
 もう5時だが、まだ空が明るい。やはり7月も今日で終わりということもあり、陽が長くなっている。レンは後輩をしごくために(後輩2人が希望したのもある。やる気)後輩共々残っているが、コトハはそんな気分ではなかったので先に出ることにした。
 そういえば、ヒナタを見なかったな——と思っていると——

『コトハ様! ヒナタ様が!』
「え?」

 見れば、いつもとは別の方面を歩いているヒナタの姿が。
 交差点の奥の方に歩いているグラサンの少年が目についた。
 住宅地とは別の方向だ。カードショップや他の店のある方向でもない。
 一体どこに行くつもりなのだろうか。
 
「……気になる」
『えっ?』
「尾行するわよ! 隠蔽呪文お願い!」
『ふええ!? だけど、これってストーキン——』
「誰がストーカーよ!! ご主人様の言うことを聞きなさい!!」
『け、結界展開ですにゃぁぁぁ!』 

 ほんの好奇心であった。
 ヒナタがいつもとは別の方向に行くのが気になったのだ。
 思えば、ずっと一緒にいるが自分はヒナタのことを何一つ知らないのではないか。知らないのに取られたくない、なんておこがましいのではないか、と。
 ——ヒナタって何か隠してる……絶対。
 今までに、そんな素振りは幾つか見せてきた。確かに一見フレンドリーで誰とも仲良くしているから分かりづらい。しかし、スケベな割にコトハがアプローチを仕掛けた時もあまり反応を示さなかった。前に呪いに掛かったコトハが迫った時も——振り払った。それ以外にも時折見せる寂しげな表情。そして、アウトレイジのデッキを最初は封印していた理由。
 彼には分からないことが多すぎる。
 ——てか、何も言わずに出て行ったのね……誰も突っ込まなかったけど、影が薄いのやら……。
 



 ***



『あのー、コトハ様。やっぱこれまずいんじゃ……』
「ダメよニャンクス。タッグマッチで組む相方の事は出来るだけ知っておかないと!」
『それをプライバシーの侵害だとかいうのでは』
「はて何のことかさっぱりね」

 電信柱に隠れながら彼女は言った。
 あくまでも隠蔽率を上げているのに過ぎないため、下手したら見つかってしまうのだ。
 
「あっ!」
『どうしたんですかにゃ』
「自販機でまた炭酸買ってる! いい加減他のモノ飲みなさいよ!」
『何でそこに突っ込んでるんですかにゃぁ!?』

 自販機でコーラを買ったヒナタはそのまま脇目も振らずに歩いていく。

『動き出しましたにゃ!』
「オーケー、分かったわ。取り敢えず——」
『取り敢えず?』

 ごくり、と喉を鳴らして彼女は言った。




「”うぉ〜い、紅茶”を自販機で買いましょう」
『喉渇いただけじゃないですかにゃ!!』



 久々にニャンクスの突っ込みがキレッキレに炸裂した。
 とはいえ、ずっと尾行していて喉が渇くのも無理はないと思うがこの緊張感の無さよ。
 身内が相手というのもあるだろうが。




 ***



「……何此処」

 ヒナタを追って数分。バスなども乗っていった結果(隠蔽呪文を使っているので当然バレなかった……と思いたい)、海戸を離れていつの間にかコトハは——墓地に辿り着いていた。
 デュエマの墓地ではなく、本物の公営墓地だ。
 ひっそりと静かな場所に建てられたそこには、墓石が沢山建てられている。
 煉瓦の壁に隠れながら、ヒナタが墓地に入っていくのを彼女はしっかりと見た。

『コトハ様、流石にこれ以上追うのは不謹慎……』
「そ、そうね」

 流石に、墓参りに来た人間を尾行するなど不謹慎以外の何者でもなかった。猛反省しながら、立ち去ろうとした時だった。




『確かに不謹慎だな、ネズミ共——いや小娘共。破っ!』




 次の瞬間、結界が音を立てて壊れた。
 「えっ?」と声を上げる間もなく、身体が浮き上がる。
 誰にも掴まれていない。体そのものが物理法則を無視して浮かび上がっているのだ。
 
「え、え、ちょおっ!?」

 そのまま、身体がヒナタの方へふよふよ浮きながら向かってしまう。
 そして、ぽとり、とヒナタが立っているところに降ろされたのだった。
 呆れた表情を浮かべているのはヒナタであった。「あ、あははは……」と誤魔化し気味に笑みを浮かべるコトハ。いつもとは完全に立場が逆である。
 見れば、険しい顔で白陽も後ろに立っていた。恐らく、念動力で結界を破壊するついでに自分たちを浮かせたのだろう。完全にバレていた。

「ったくよお、ストーキングなんて委員長様も偉くなったもんだな」
「ご、ごめん……いつもと違う道行ってたから、気になってつい……怒ってる?」
「別に。いずれ話さねえといけなかったしな」

 さばさばとした態度で彼は言った。
 実は以前、話しているのであるがそのこと自体が”無かったこと”になってしまったので当然コトハは知らないままだ。
 墓石の名前を見る。
 そこには、檜山家之墓と刻まれていた。家族が既に取り換えたのか、花は綺麗なままだ。
 伏せがちに目を向けながら彼は言った。




「今日は7月の25日——俺の幼馴染、檜山ナナカの命日だ」




 コトハは声も出なかった。
 彼が度々呼んでいた”アイツ”、そして”失った”とは彼女のことではないか、と。
 
「……気が強くて姉御肌で……弱い俺はいつも助けられてばかりだった」

 信じられなかった。
 その言葉が。普段のヒナタからは考えられないほど弱弱しくて——儚げで。すぐに消え去ってしまいそうだった。

「俺にデュエマを教えてくれたのもあいつなんだ。アウトレイジのデッキは俺のカードを使って組んでもらったけど、《5000GT》はあいつに貰ったカードだったんだ。俺、デッキ組むの下手くそでさ。そーいや、アウトレイジは当時から海戸で発売されてたんだっけか。武闘財閥が開発したカードだし」

 懐かしむように彼は言う。

「俺は……信じられなかった。自分が知らない間に、自分が見ていない場所であいつが突然死んだのが——」

 ヒナタは語りだした。
 遠い遠い日を思い出すかのように——




「俺が——小学生の頃の話だ。聞いてくれるか? コトハ」



 振り返った彼の顔は——切なげに笑っていた。
 首を横に振る理由など、何処にも無かった。