二次創作小説(紙ほか)

Act3:ヒナとナナ ( No.275 )
日時: 2016/03/24 12:55
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

 ***



「ちょ、ちょっとやめてよ!!」
「へっへっへー、流石お前のデッキだぜ。たーっくさんつえーカードがはいてんじゃねーか」

 いじめっ子はにやにや笑いながらそう言った。
 身動きが取れない。取り巻き2人に腕を抑えられているからだ。
 体格の大きいいじめっ子のリーダーは、ヒナタのデッキケースを漁ると「おっ、レアカードみっけ! 貰ってくぜー」と言って抜き取ると他のカードを全て地面にぶちまける。
 
「《勝利のガイアール・カイザー》、《勝利のリュウセイ・カイザー》、うっひょー、収穫収穫、唯我独尊セットがこれで揃ったってわけだ!」
「ちょっと! やめてよ! それは折角俺が当てたカードなのに!」
「うるせぇ!! サーチだか何だかしたのか知らねえが、こーゆーレアカードはお前みたいな弱虫よか、俺達が持ってた方が良いってもんだよなあ?」
「い、今から大会なんだよ、勘弁してよ!」
「うるせぇ!! 黙らせろ!!」

 暁ヒナタ——当時小学4年生——はデュエマのショップ大会に向かう途中であった。
 が、しかし、度々いじめっ子に絡まれていた彼はカードショップの近くで待ち伏せを食らって今に至る。そのまま裏路地に連れて来られていたのだった。
 3対1など勝てるわけも無く、あっという間に拘束されてしまう。
 
「しっかし、プレイングだけはとくいなお前がこんなつよいデッキをもってるってことは、やっぱりまた”あいつ”に組んでもらったのかー、調子に乗りやがって。女子のたすけ借りてはずかしいとはおもわねーのか?」
「仕方ねーよ、暁は弱虫だもんなー! 女子の背中に隠れてねーと、なんにもできねーんだから」
「ぎゃははは、ウケる! 他のカードはどうする?」
「ばら撒いとけ。持ってる奴ばっかだからな。犬が咥えてどっかに持っていくだろ」
「うう……俺のカード……」

 既に泣き出しそうなヒナタ。
 踏んだり蹴ったりとはこのことである。

「えーと、このボロ雑巾どうする? 泣きだしそうだけど?」
「逆さにしてゴミ箱に入れとけばいいだろ」
「つーわけで残念だったな、弱虫! お前のデュエマは此処で終わりだ! これからはこんな紙切れなんぞに縋らず——」



「弱虫はあんたらの方でしょうが」



 鶴の一声。
 全員は振り返る。
 そこには——少女が居た。
 長い黒髪を降ろしており、目を引くのは猫耳のように尖った帽子、そして鍔に乗せられたサングラスだった。
 赤いパーカーを羽織っており、スパッツにスカートという活動的な容姿をしていた。

「な、ひ、檜山……何でお前がこんなところに……」
「ヒナタが心配だったからね。着いたらケータイで電話するって約束してたけど、いつまで経っても来ないから塾終わってすぐにカードショップまでの道を辿ったら案の定……ってわけ」
「ナナ……」
「3対1なんて卑怯だと思わない? 弱虫はあんた達の方でしょ」
「うるせぇ!! 女子の影に隠れてこそこそやってる弱虫の方が——」
「誰かの助けを借りるのは悪いことなの? そうやって皆、苦手なところを補ってるんだから。あんた達は力が強いのに、さらにそれを3人がかりで喧嘩が上手くないヒナタに暴力を振るってる。これは——臆病者のすること」

 小学生にしてはキレッキレの言葉で正論を叩きつけるナナカ。
 頭が回るとはこのことだろう。
 普段から優等生というのもあり。
 
「来るならあたしに来なさい。相手になるわ。あたしは皆から思われてるほど良い子じゃないわよ」
「うるせぇ!! ぶっ潰す!! 空手習ってるっつっても、女子が男子に勝てるわけないだろ!」

 そう言い、手が空いているいじめっ子のリーダーは駆け出した。
 そのまま拳を振り上げる。

「空手?」

 彼女は聞き返す。そして——サングラスを帽子から外し、目に掛けた。
 いじめっ子のリーダーの拳をかわし、そのまま腹に蹴りを叩き込んだ。
 そして、そのままよろけた彼の襟首を掴んで思いっきりアスファルトの地面に投げつける。
 
「おぶっ……」

 背中を打ち付けたからか、そのまま悶絶したような声をあげるリーダー。
 そのまま地面でのたうち回る。
 そこから素早く、彼が盗ったカードを抜き取った。
 
「こ、このやろー!! お、覚えてろー!!」

 格が違い過ぎる。
 それを悟ったのか、残る取り巻き2人もヒナタを離すと、リーダーを担いでそのまま逃げてしまったのだった。



「残念だったわね。あたしは空手は勿論、柔道と合気道も習ってるのよっ——ってヒナタ!? 大丈夫!?」



 どや顔でいじめっ子達を見送るも束の間、すぐさま彼女はヒナタに駆け付けたのだった。




 ***




「あんたをいじめる子は減ったと思ったんだけどなー。今度からは一緒にカードショップ行こ?」
「う、うん……」

 あの後、結局大会には遅れてしまった。
 しかし、幸いカードはスリーブに入れていたのもあって全て無事だった。
 公園のブランコで2人で話しているうちに、気持ちも落ち着いてきたのだった。この年になってくると、だんだん気恥ずかしいものも感じてくるが。

「……俺が……弱いから……いっつもナナに迷惑掛けちゃうな」
「何言ってんの。あんたにはあんたの弱いところもあるかもしれない。だけど、あたしにだって弱いところはあるもの。2人なら、それも補い合える。昔からそうだったでしょ」
「そ、そうだけど……」
「ずっと一緒だったじゃない。また何かあったら助けてあげる」
「俺に……強いところなんかあるのかなあ」
「何言ってるの。あたしのデッキの力を一番引き出してくれるのは”ヒナ”だけだよ」
「その名前で呼ぶのやめよーよ……」
「お相子だって。あんたもあたしのことナナって呼んでるし」
「それはナナが呼ばせてるだけじゃん……」
「ま、プレイングはピカイチだし。鎧龍の模試も合格点いったんでしょ? あたしはまだまだだよー……あんた小4なのに凄いって皆言ってた」

 ふふっ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべると、ナナカは続けた。

「あたし、夢があるの。ヒナと一緒に鎧龍に行って、一緒にプロのデュエマプレイヤーになって世界に挑戦する!」
「プロの……デュエマプレイヤーか……でもナナは開発部に行ってデッキを作った方が良いと思うよ」

 彼女もまた、デッキビルダーとしては非凡な才能を見せていたのだ。
 プレイングのヒナタ、ビルディングのナナカ。
 2人が揃えば最強、というのが彼女がいつも言っていたことだった。
 しかし。

「それじゃダメ! あんたのことが心配だもん!」
「反論できない……」
「今弱くたって気にすることないわ。あんたにはあんたの良いところがいっぱいあるの、あたし知ってるよ!」
「……ありがとう、ナナ」
「いつか、2人が2人の弱点を補う必要がないくらい強くなったら、どっちが世界で一番強いか決めよう! ね!」
 
 彼女の夢は、完璧なデュエリストになった互いで世界一を決めるというものだったのだ。