二次創作小説(紙ほか)

Act3:ヒナとナナ ( No.276 )
日時: 2016/03/25 02:24
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

 檜山ナナカという少女は頭がとても切れる上に、運動神経も抜群な少女であった。
 正義感が誰よりも強く、明るく快活な性格で、誰からも好かれていた。
 そんな彼女とヒナタは赤ん坊の頃からの付き合いである。
 幼稚園から小学校まで、ずっと一緒だったのだ。
 気が弱くて度々いじめっ子から乱暴を受けていたヒナタをいつも助けていたのがナナカである。世話焼きで、いつも彼の事を見ていたのだ。
 さて、彼女が誰よりも好いていたのが、デュエマである。
 ヒナタにデュエマを教えたのも彼女だった。

「——というわけで、夏休みに学校の体育館でチームのデュエル大会があるみたいよ、ヒナ!」
「……マジで」

 ランドセルを背負いながら、彼女は言った。
 6月になって、雨がよく降るようになったこの季節。
 正直、気分もじめじめしていたところにこのニュースであった。
 学校を使ってデュエル大会を行うとは、学校の方も随分と思い切ったものである。

「だけど、チームって何人なんだ?」
「5人よ! あたしとヒナで2人だから、あと3人ね」
「後3人かー……」
「これを機に、ヒナもあたし以外の子と仲良くした方が良いと思うんだけど」
「べ、別に俺はいいよ……めんどーだし」
「だーめ! そんなんだからいつまで経っても根暗だの言われるのよ!」

 内向的な性格の彼としては、あまり乗り気ではなかった。
 
「あ、そうだ! あたし、他のクラスにアテがあるから!」
「な、なにもそこまでしなくっても……」
「これはチャンスなんだよ! ヒナの消極的なところを変えるチャンスなんだから! 色んな人にとにかく関わってみることが大事なのよ!」

 多少強引であったが、言いたいことは分かった。
 要は自分の内向的なところを少しは直せということなのだろう。
 いじめられる原因がそこにあるのも分かっているので、仕方なく彼は頷いたのだった。




 ***




 次の日の昼休みであった。

「で、何此処」
「視聴覚室よ。見たら分かるでしょ?」 
「いやそれは分かるけど、何で此処」
「入れば分かる!」

 視聴覚室。別名パソコン部屋。
 薄暗く、余り使わないので此処には昼休みでも寄り付く生徒は少ない。
 ……一部を除いて。

「知り合いが此処にいるのよ。あたしが一声かければ、すぐに応じてくれるはずだわ」
「交友関係の輪広いんだな、ナナ……」
「まーね。前に色々助けて貰ったのよ。家のパソコンがおかしくなったときに」

 そう言いながら、入る。
 そこには、幾つか電源が付いて明るいパソコンがあった。
 何故部屋を明るくしないのか。そして暗幕で窓を覆っているのか。
 さっぱり謎であるが。
 ——何か、俺よりもよっぽど根暗そうな奴らだな……。
 パソコンを使っている生徒は何人かいた。
 その中の1人に近づいていく彼女。ヒナタもそれに着いて行く。
 そして、肩にぽん、と手を置いた。

「ひゃい!?」
「あ、驚かせちゃった? ノアちゃん」
「い、いや、大丈夫、檜山さん」

 おどおどと返した景浦は振り返ると言った。
 眼鏡が印象的な大人しめな少女だ。
 ショートボブの黒髪で、理知的なものを感じる。

「ど、どうしたんですか? ひやまさん。またパソコンがこわれたとか?」
「ううん。今日はパソコンの相談に来たんじゃないんだ」
「え?」
「ノアちゃん、あたし達と一緒に夏休みの学校デュエル大会に出てくれない?」
「ええ!? で、”たち”っていうのは……」
「彼も出るからよ」

 ぽん、とナナカはヒナタの背中を押した。

「よ、よろしく……」
「あ、暁ヒナタ君!? こないだのがいりゅうのもしでトップレベルのせいせきを取ったっていう……」

 ヒナタは驚いた。
 自分の名前はそこそこ知られているのか、と。
 若干迷惑にも感じたが、と思っていたら。

「私、これでもこの学校のせいとのじょうほうはけっこう集めたりしてるので」
「マジかよ」
「ノアちゃんは情報集めのプロだからね」
「つっても、模試はプレイングの成績が良かったからなんだけど……他は平均より少し上、程度」
「ヒナタはあたしの幼馴染で、プレイングに関しては敵なしよ! 頼もしいでしょ!」
「ちょっと、んな勝手に」
「これは……たぎってきました……」

 ふふふふ、と笑い声を漏らす景浦。
 一種の不気味さを感じざるを得なかった。
 さっきまでの大人しそうな雰囲気から一転。彼女は高めのテンションで言った。




「学年一のデッキビルダーとプレイヤー、そしてこの私……!! 燃えて来たわ、滾って来たわ! 白黒オールイエスを組み直さないと!! 3年の景浦ノアって言います、よろしくお願いします、暁ヒナタ君!!」




 ヒナタは察した。急に饒舌に喋り出したこの子を見ながら。
 この子もかなりガチでやる方だと。しかも自分より年下なのに。デッキの名前から既に殺意を感じる。
 白黒オールイエスは、低コストの妨害クリーチャーに《至宝オール・イエス》で序盤から厭らしいハンデスを行うデッキだ。
 当時はかなりの強さを誇っていた。鎧龍という外の都市とは違う環境では。
 しかし、こうもデッキ名をぽんぽん言える辺り、かなり深くゲームにのめりこんでいるのが分かる。

「これで残り2人ね。後もう1人知ってるから、あたし。校庭に行きましょ」
「……校庭?」
「うー、陽にあたるのは苦手ですけどー……」




 ***




「パスパース!」

 校庭でサッカーをする男子達。
 サッカーボールがぽーん、と跳ねて跳んでいく。
 そして、バンダナを巻いた少年がボールを蹴った。
 それが明後日の方向に。

「おーい! どこ蹴って——」

 と誰かが言いかけた時であった。
 跳んで行ったボールを素早くぽんっ、と胸で受け止め、そのままパスを返す少女。
 それを見るや、バンダナの少年は「悪い、俺少し抜けるわ」と言って駆けていくのだった。さっきのは挨拶代わりだったのだろう。

「檜山! 何か見ねえ奴もいるけど、どうしたんだ?」
「そうよ、ショウゴ! 今度の校内デュエマ大会なんだけど」
「あー、あれか! 俺も誰のチームに行こうか迷ってたところなんだよ!」

 バンダナの少年は、納得したように言った。
 背が高く、見たところ上級生だろうか。それに小学生とはいえタメ口で話しているということは相当仲がいいのだろうか。

「で、そこの2人も連れてきたってことか」
「ふっふーん、あたしが選んだんだから間違いないわよ。あたしの幼馴染の暁ヒナタと、知り合いの景浦ノア」
「ふーむ」

 じっくり、とヒナタ、そしてノアを見ると彼は続けた。

「良い目だ。よろしく頼む。5年の野分ショウゴって言うんだ」
「あ、あの……暁ヒナタって言います……」
「景浦ノアっていいます、よろしく……」
「ビビらなくていいって。固い敬語もナシだ。俺達はチームだから常にフェアな関係でいようぜ」

 手が差し出される。
 本人のフレンドリーさもあって、とても取っつきやすい人物だということは確かだった。

「ね? ヒナタ。あたしが選んだから間違いないメンバーでしょ?」
「あ、ああ……だけど後1人はどうするんだ?」
「大丈夫大丈夫! ショウゴ、確か貴方の友達に——」
「ああすまん」

 ばっさり、と彼は言った。




「実は俺の知り合いでデュエマやってるやつは、殆どチーム組んじまってな……」




 え、とその場に重い空気が流れだす。
 此処で察した。
 彼女の残るアテがそれしか残っていなかったということに。 
 ともかく、各員は残る1人のチームメイトを探すことになったのだった——