二次創作小説(紙ほか)
- Act3:ヒナとナナ ( No.277 )
- 日時: 2016/03/25 02:23
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
***
「ショウゴ……どうだった?」
「さっぱりだ。女子には声かけづらいし……そういう檜山と暁は?」
「全然ね。やる気なかったり、デュエマやってなかったり、そもそも既にチーム組んでたり」
後1人。
後1人なのだ。
どうにかして集めなければ、明日でエントリーの受付は締め切られてしまう。
ここ数日粘ったものの、成果は無かったのだった。
「な、なあ、ナナ……もう諦めた方が」
小声でナナカに言うヒナタ。
既に彼はここ数日のメンバー集めで色々辟易していたのだった。
が、しかし。
「ダメよ!! あんたの実力をみんなの前で見せつけて、あんたをいじめた奴らを見返してやるのよ!!」
「ねえ、これそういう話だったっけ!?」
「あのー」
全員は振り向いた。
そこには——少女が居た。
茶髪を両端でリボンで結んだ生徒だ。
「夏休みのカードゲーム大会のチーム……探してるのかなあ?」
「え、ええ……」
若干戸惑いながら、頷く各員。
まさか、と思った。
少女は口を開く。
「私で良ければ……チームに入れて欲しいんだけどぉ」
全員に衝撃が走った。
——まさかの大当たりキタコレェェェェーッ!!
「おい、マジか!! 寸前で希望者が自ら出てくるなんて!」
「しんじられません……かくりつてきに奇跡です……」
「や、やったわよヒナタ! これでチームが組める!」
「あ、ああ……」
——何だろう、何でか知らねえけど、嫌な予感がする……。
何故これまでこんな理想的な人間がチームに入らなかったのか。しかも性格から言ってもおっとりとした真っ当そうな人だ。
此処まで都合よく物事が進むと、逆に疑ってしまう。
「貴方、名前は!?」
「5年の長谷川 しおりって言います。よろしくねぇ」
「キタコレ!! ちょっとあたし登録行ってくる!!」
「お、おう……」
ハイテンションでダッシュしていくナナカ。
そして自己紹介を始めるノアとショウゴ。2人共完全にテンションが上がりきっていた。
「さ、3年の景浦ノアです! よろしくお願いします!」
「同じく5年の野分ショウゴだ。固いのは抜きにしてよろしく頼むぜ! 得意分野はドラゴンだ!」
「ええ、よろしく頼むわぁ。私もカードゲームやってるのに、誰も誘ってくれなかったの」
「……え」
全員は黙りこくった。
カードゲームをやってるのに、大会に誰も誘ってくれなかった、と彼女は言った。
だが真っ当そうな彼女の性格から考えてハブられているのは考えにくい。そもそも自分らもそうだが、メンバー集めに苦労しているチームはかなり多いはずだ。
此処に来て、ヒナタの嫌な予感が当たりだす。
——まさか、まさかこの人本当に——
「私の好きなデッキは”インフェルニティ”よ。よろしくねぇ」
この瞬間。
全員は察した。
——違う!! そっちのデュエルじゃねえええ!!
この人は恐らく、デュエル・マスターズをやっている人ではない。インフェルニティとか完全に別のカードゲームのデッキである。満足同盟の満足さんの最高に満足出来るデッキである。ちなみに作者はこっちのデュエルも好きである。
しかもおもくそガチ勢である。小学生とは一体。
「今戻ったよ!」
はつらつとした表情で走って戻ってくるナナカ。
まずい。いずれ知らせなければならないこととはいえ、これはかなりまずい状況だ。何も知らない様子で「どうしたのよ?」と問うナナカ。
そして、冷や汗たらたらでショウゴはしおりに聞いた。
「あ、あのー、すまない長谷川。ちょっと聞いていいか?」
「なぁに?」
「お前、夏休みのデュエル大会、何のカードゲームの大会か分かってるのか?」
「え? 遊○王OCGじゃ——」
「違うんだよオオオオオ!! デュエル・マスターズなの!! デュエルはデュエルでもモンスターじゃなくてクリーチャー召喚する方のゲームなの!! 魔法(マジック)じゃなくて呪文を唱えるゲームなの!!」
「まさか今の今まで知らなかったんですかぁぁぁーっ!?」
そして、状況を大方察したナナカが死んだ目でヒナタに問うた。
「……ねえヒナタ。どういうこと?」
「ナナ……この人、別のデュエルの人だった」
「……まさかデュエル違い?」
「デュエルはデュエルでもクリーチャーじゃなくてモンスター召喚する方だ」
2人は黙りこくった。
若干天然が入っているこのしおりという少女は、最後の最後まで何の大会か勘違いしていたのだろう。
しかし、もう登録してしまったものは仕方がない。
そう思ったのだった——
***
「ありがとねえ。初心者の私にもデッキ貸したりルール教えてくれてぇ。実は私、前から他のカードゲームにも興味持ってたのよぉ、良いきっかけになったわあ」
「い、いえ……あたしデッキ作るの好きで得意だから」
「檜山さん、後で私ともたいせんしてください」
「ええ、勿論よ!」
結果。毎日カードショップで放課後にデュエルの特訓を行うようになったヒナタ達。
実質初心者のしおりであったが、デュエマのルールが割と簡単なのもあり、すぐに覚えて今はナナカの作ったデッキも回せるようになっていたのだった。
「《偽りの名 バルガ・ラゴン》でシールドをW・ブレイク! その効果で山札の上を捲ってドラゴンなら——って《メンデルスゾーン》かよ!」
「俺のターン、《金属器の精獣 カーリ・ガネージャー》でダイレクトアタック」
「うわあああ!! 負けたぁぁぁ!!」
そして、わいわいやっている男子2人。
「ったく、ヒナタは本当につえーな……」
「い、いや……別に……何かすいません」
「いや、謝ることはねーぞ」
ぽんぽん、と彼の肩を叩きながらショウゴは言った。
「もっともっと楽しめよ! 俺はこのチームなら勝てるってよりも、このチームで勝ちたいって思ってるからな!」
じゃあもう1回! と言うショウゴ。
ヒナタにはその姿が本当に楽しそうに見えたのだった。
——楽しむ、か……。
複数人のメンバーでデュエルする。こんな状況、少し前ならば考えられなかった。
今では、皆が友達、と呼べる仲だ。
「……楽しいよ」
「おっ?」
「……今こうして、皆とデュエマが出来る……こんなの初めてだけど、新鮮だって思った」
「その気持ちだ! 楽しいってことも、悲しいってことも、皆で分かち合えば+の方に持っていけるんだぜ! サッカーだってそうだ! その気持ちを忘れんなよ!」
笑ったショウゴは、つづけた。
「俺……昔はクラブのサッカーチームに入ってた。皆、最初は楽しいからサッカー始めたはずなんだよ。だけど……だんだん殺伐としていった」
思い出すように彼は語る。
些細なミスでピリピリしだしたり、試合の結果を見て一喜一憂しだしたり。
チーム内の空気も険悪になっていったという。
「な、何で……?」
「強い奴も入って、チームが有名になっていって……うちのチームが急に大きくなったからなんだけどよ。楽しむってことを忘れちまったんだろうな」
だから、と彼は続けた。
「”楽しむ”って気持ちは絶対に忘れんな。笑顔でいれば、絶対いつかは良いことあるから」
笑顔で、バンダナの少年は言ったのだった。
——楽しむ、か……。ナナのおかげだな。俺をこんな仲間に引き合わせてくれたしな。
そう思いながら、彼は言った。
「もう1戦、受けるよ」
「おっ! やる気だな——」