二次創作小説(紙ほか)
- Act3:ヒナとナナ ( No.278 )
- 日時: 2016/03/25 02:20
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
***
「うふふ、このデッキってとても使いやすいわ。ありがとねえ、超次元のカード貸してくれてぇ」
「え、ええ……自分は大丈夫です。何なら俺、今使ってるデッキにそいつらいらないから、譲ってもいいですけど」
「あらぁ、本当? 良いのかしらぁ」
「1人でも……デュエマ好きな人が増えてくれたなら俺、嬉しいし」
「ありがとねぇ。勿論、”本職”の方も続けるけどデュエマも楽しいわぁ」
ある日、対戦が終わった後にしおりは言った。
おっとりぽけぽけした人だが、デッキはやはりえげつないというか、闇を中心にしたようなデッキを好んでいた。
とはいえ、温厚で人付き合いも良い人だったのでヒナタとしては喋りやすい部類であったが。
「カードゲームって本当良いわよねえ。ただの紙切れって侮る人がいるけど、私は違うと思うの」
「は、はぁ……」
「なぜなら、これのおかげで、沢山の出会いがあるからよ。ライバル、友達……その1つ1つが大事なものだわ」
微笑みながら彼女は言った。
「大切にしてあげてね? 幼馴染」
「ナナカっすか?」
「ええ。あの子、貴方に一途だもの」
「い、一途ってそんな……まあ、デュエマを教えて貰ったのもあいつだし……」
「あなたのことをいつも心配してるもの」
彼女の顔を思い浮かべる。
思わず顔が赤くなった。どこか気恥ずかしくなったのだ。
学校に限らず、色んな人間に今まで出会ってきたヒナタだが、やはりナナカという少女と出会ったことは本当に奇跡だと思っている。
大切な親友として。
***
「つよいかよわいかって重要なことかっていう人がいますよね?」
「ああ」
ノアは眼鏡をくいっ、と押し戻しながら言った。
ノートパソコンを片手に、デッキの事などを調べている。
小学3年生にしては本当に頭が切れる少女だとは思うが。
「私にはまだわかりません。人間はいつ強くなればいいのか、とかそんなことは……」
「どうしたんだ?」
「い、いえ……私が最年少だから……足ひっぱったりしないかなぁ、ってふあんにおもうんです」
「ああ」
それはヒナタも常々思うことであった。
自分が弱いことで、ナナカに迷惑を掛けていないか、ということだ。
自分をいつも助けてくれたのは彼女だ。
「デュエマでは楽しむことが大事だってショウゴは言ってたよ」
「そ、そうですけど……」
「それでも俺は……自分がいつかは強くならなきゃって思うんだ」
ナナカが自分に語った夢を思い出す。
いつか、互いが互いを補う必要がないくらい強くなったら、世界一がどちらか決める、ということだ。
「だから、自分が強くなりたいって思った時に頑張ればいいんじゃないかって最近は思うようになった」
「そう、ですか……そうですね」
今、彼女がいきなり強くなる必要はないだろう、とヒナタは思った。
何故なら——たった今彼女のハンデスにやられたばかりだからである。勝率は5分5分。彼女の考えは杞憂に終わるとしか思えない。
——ぶっちゃけ、ノアが俺と並んで一番強い気がする……。
***
学校も終業式を迎え、夏休みになった。
毎日、カードショップで特訓したり、他の遊びを公園でする日々が続く。今日はサッカーもしたところだった。
「今日も楽しかったね」
「ああ」
ナナカは笑顔で語りかける。
沈んでいく夕陽を背に、他愛のない話が続いた。
そして——一段落したところで彼女が告げた。
「ねえヒナ、今のあんたに合うカードがあるんだけど……興味ある?」
「合うカード?」
こくり、と彼女は頷いた。
今、ヒナタが使っているのは火と水のガネージャビートであった。息切れしない速攻性がウリのデッキだ。
それを更に強化する、と彼女は言っているらしかった。
「最近手に入れたカードなんだけどね。少しコンセプトは変わると思うけど、十分正統強化に繋がると思うんだ」
「そ、そうなのか?」
「だから、ちょっとうちによってほしいんだけど、良いかな」
***
カバンの中のストレージからカードを出し、ナナカの指示に従って必要なカードを取り出していく。
そして、今使っているデッキからカードを引き抜き、入れ替えていった。
使っているのはあくまでもヒナタのカードだけだ。ただ1枚を除いて。
「これよ」
「《暴走龍 5000GT》……?」
「ええ。そのデッキ、この間発売されたスターターを改造した奴だけど、これの存在を考えると墓地を使う方向にシフトした方が良いと思うのよ」
「確かに……こいつの性能……だけどどうやって」
「当たった」
「マジか」
黄金に輝くVの文字が刻まれたカード。
それは、デュエル・マスターズの最高レアの1つ、ビクトリーレアを意味する印であった。
さらっ、と運の高さを示した彼女はそのままデッキにそれを組み込む。
「ありがとな」
「良いの。このデッキはヒナのプレイングに合わせてるから、あんたなら100%の力が発揮できるはずだわ!」
「根拠は?」
「あたしが頑張ってリストを作ったから」
「らしいよ」
ははっ、と笑い合う。
完成したデッキを手に取ったヒナタを見て、ナナカは言った。
「ねえ? それと……もう1つだけどさ」
「ん?」
「今度……夏祭りがあるよね」
「ああ」
思い出したようにヒナタは言った。
7月25日。市街地で毎年かなり大規模に行われるものだ。
普段はヒナタは人込みを好まないので、いつもは行っていなかったが——
「今年は皆も誘っていかないかな……? ヒナも来る……よね?」
確かに、折角集まった仲間だ。是非、皆で楽しみたいという気持ちはヒナタにもあった。
「……あー」
が、ヒナタは思い出す。
確かにこの日は夏祭りだ。
そして同時に——カードショップでデュエマの大会がある日なのだ。
折角なので、このデッキの力を試したいとも思ってしまった。
「じゃあ、集合は夕方っつーか俺が行けるのは夕方からになるかな。大会あるし」
「大会って、こないだみたいに待ち伏せされたらどうするの!?」
「大丈夫だよ。あいつらのリーダー、ショウゴの同級生みたいで、もうショウゴがシメてくれたみたいだし」
「なら……いいけど。気を付けてね。あたしは昼から皆と集合かな」
「じゃあ、決まりな」
立ち上がるヒナタ。そろそろ帰ろうとカバンを背負う。
「ねえヒナ」
「何だ?」
「最近……なんていうか、元気になった気がする」
「そうか?」
「うん。皆でデュエマするようになってから、笑顔が増えたし、毎日が楽しそう」
「……ナナのおかげだよ。お前が皆と俺を引き合わせてくれた。俺なんか、皆から貰ってばかりで……何も出来てない」
「ううん。そんなことないよ」
彼女は笑顔で言った。
「一番楽しそうにデュエマやってるの、ヒナだから」
思わず、赤面してしまう。
そのまま、返す言葉を失ってしまった。
「……んじゃ、俺帰るな」
「うん! またね!」
大会が終わって、夏休みが終わって、またいつもの日々に戻っても、また他愛のない毎日が続く。
この時、ヒナタはそう思っていた。
だが——