二次創作小説(紙ほか)

Act4:誓いのサングラス ( No.282 )
日時: 2016/03/26 11:13
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

  翌日の放課後。やっと学校にやってきたヒナタを、3人は迎えたのだった。
 
「久々だな! お前が学校に来なくって心配だったんだぞ?」
「ほんとうですよ……また、対戦しましょう?」
「そうだわぁ。組んだデッキがあるんだけど——」

 だが——ヒナタは一言、呟いた。
 まるでそれらを全て振り払うように。




「何でそんな平気でいられるんだよ」




 冷たく、そう一言。
 これだけで3人は黙ってしまった。
  
「もう、デュエマはやめたんだ。俺に——近づかないでよ」

 そう言って——通り過ぎていく。
 沈黙。
 それが重くのしかかった。
 まるで何分、何時間にも感じた。
 ヒナタがいなくなり——ショウゴは膝をついた。

「俺の所為だ……俺があんな余計なことをしたから——」
「ショウゴさんの所為じゃないですよ! ヒナタさんは……きもちのせいりがつかないだけだとおもいます……」
「そうだわ。大切な人が居なくなって、逃げ場を探しているのねえ。自分の胸を縛る苦しみから逃げる方法を」
「だけどっ……その方法が”デュエマをやめる”だなんて——ねぇよ!! ねぇよこんなの!!」

 ガンッ、ガンッ、と床に拳を打ち付けた。
 いずれ知ることだったとはいえ、ショウゴは後悔していた。
 ヒナタに自分からナナカの死を伝えたことを——
 余りにも突然すぎて、彼はショックを抱え込み——そのままずるずると引き延ばしてしまっているのだろう。
 
「だから本心で言っているわけじゃないと思うわあ」
「今は……時間を置きましょう」
「くそう……くそうっ……」

 悔しさも悲しさも抑えられないまま、彼はそのまま床に手を着いたのだった。
 溢れ出る負の感情を堪えながら——




 ***



 もう、何カ月経っただろうか。もう、あのメンバーで集まることはすっかりなくなっていた。
 PC教室で時たま振り返るノア。また、あの少女が来るかもしれない、という叶うはずのない願いを抱きながら。
 ——ちょっと頼みがあるの! あなたの腕を見込んでね!
 ——え、ええ……良いんですか? 私で。
 昼休みもサッカーの途中、気が散って集中できないショウゴ。周りと合わせていつも通りを装っていたが、やはり気は紛れなかった。
 ——サッカー習ってたの? あたしも得意なのよ! 女子だからって侮らないでよ?
 ——オッケー、掛かってきな! 俺からボールを取——ってはえーよ!
 カードショップでしきりにデッキを只1人見つめているしおり。デッキを見るたびに、彼女の表情を思い出す。
 ——しおりさんはこれ使ってみて! 手札破壊とか使うから合ってると思うのよね!
 ——あらぁ。ありがとねぇ。こういうの私好きなのよぉ。あ、そうそう、今度こっちのカードのルールも教えようか?
 そして——いつも屋上でただただ空を見つめるヒナタ。
 ——ヒナタ! デュエマしよう! 
 目を伏せる。
 辛い。
 思う度に胸が苦しくなる。
 皆から大切に思われていた。
 寄せ集めのメンバーがこんなに仲良くなれたのは、彼女のおかげだったのだろうか。
 今でも、あのサングラスを帽子に掛けたあの少女のことを思い出す。
 例えるなら——太陽のような少女だった。



 
 ***




 隣に誰も居ない。
 1人で歩く世界はこんなにも怖くて、1人で歩く時間はこんなにも惨めで、1人で歩く空間はこんなにも寂しくて、やるせなかった。
 ——俺なんかどうせ……ナナのおまけみたいなもんだ。
 そう卑下しながら、全てが白と黒に染まってしまった世界を仰ぎ見る。
 



「暁ヒナタぁぁぁー……!!」




 見ればそこには——いじめっ子のタイセイと、その取り巻き達の姿があった。
 この路上の真ん中で正面からヒナタを潰すつもりなのだろう。
 その顔は殺気に満ち溢れていた。
 
「……くーっくっくっく、この度はご愁傷さまだったな、お付きの邪魔なアバズレが死んでくれたから、これでもう好きなだけお前を甚振れるってわけだ」
「てめー……本当どこまでも腐ってんな」
「あんとき散々好き放題言いやがって!! ぶっ殺す!!」

 最早、怒りも沸かなかった。
 全てを放棄した彼は胸倉を掴まれて顔を殴られても、もうそれ以上は何も言わなかったし、泣きもしなかった。
 ただただ為されるがままだった。
 そのままアスファルトの地面に叩きつけられる。
 そして、彼の大きな足が迫る——

「惨めで哀れで、それでいて臆病者のお前は——どーせあいつに守られていただけにすぎねーんだよ!! 檜山ナナカのオマケが、調子に乗りやがって——ぎゃはははは——」

 


 ガァンッ




 足は——振り下ろされなかった。
 巨体が倒れるような音が重く響き渡る。
 ヒナタは顔を上げた——途端に手を引っ張られる。
 そのまま、無我夢中で走った——




 ***




「大丈夫か!? ヒナタ!!」
「ヒナタさん、しっかりしてください!」
「大丈夫? ねぇ!?」


 その声で、ようやく状況の整理がついた。
 気付けば、誰かの部屋にいた。
 ベッドに寝かされて、顔に色々貼られている。
 そこには——ショウゴ、ノア、しおりの姿があった。

「ったくよぉ、心配ばっか掛けさせやがって……! 良かった、本当に良かった……!」
「もう……ショウゴさんから久々に連絡を貰ったと思ったら……!」
「もう痛いところはないかしら? 怪我も手当しておいたからねぇ」
「ごめん」

 一言、そう謝る。
 自分はあんなに酷い事を言ったのに。
 そして、自分が前にカードショップでタイセイと決勝で戦ったことを話した。
 その時に——挑発的なことを言ったことも。
 ひいてはこの事態が自分の所為だということも。

「何で……何で助けたんだよ。俺が起こしたことなのに。俺はあんなに酷い事言ったのに。デュエマも、ナナカもない俺を——」
「バカ野郎!! 友達だからに……決まってるだろ!!」

 彼の目には涙が浮いていた。
 そのまま、捲し立てるように続ける。




「あんな奴の言うことなんか、真に受けるんじゃねえ! お前は暁ヒナタなんだ! 檜山のオマケやセットなんかじゃねえ! 1人の……1人の俺の友達なんだ! お前まで居なくなったら——俺は——」




 彼の身体を掴み、必死でショウゴは叫んだ。
 顔に貼られた絆創膏を指でなぞりながら——