二次創作小説(紙ほか)

Act4:誓いのサングラス ( No.285 )
日時: 2016/03/27 03:17
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

 ***



「何だろ、これ……」

 家に帰り、すぐに自分の部屋に入った。そして、机で小箱のリボンを解く。
 そしてそのまま、箱を開けた——その瞬間、自分の目が飛び出しそうになった。
 思わず、すぐさま取り出す。
 とても見覚えのあるものだった。
 あの少女がいつも身に着けていたものだった。
 まるで、彼女を象徴するものだった。
 それは——黒縁のサングラスだった。
 クリアなフレームには、透明な青いラインが入っており、とても爽やかでスポーティだ。
 しかし、そんなことはヒナタは考えてられなかった。
 感極まって今まで堪えていたものが本当に溢れてきた。
 サングラスを手に取りながら、涙が止まることなく溢れ続けた。
 ぐしゃぐしゃになった視界の中で、黒いサングラスだけがくっきりと映っていた——
 ——絶対、絶対に強くなるから……! 俺、強くなるから……!
 そう、沈んでいく夕陽を窓から見て、在りし日の暁ヒナタはサングラスと仲間達に誓ったのだった——




 ***




「その後……どうなったの?」
「まあ、その後はぶっちゃけ普通だった。そんでもって月日が経つのは早いもんで皆別の中学校に行ったり、転校したりでな」
  
 彼は言う。
 月日を重ねていくごとに同級生にも友人が増えていき、最終的には困らない程度にはなった、と。
 しかし、かつての仲間達とは疎遠になってしまい、今は連絡を取り合うこともなくなってしまっているという。

「転校したっていうと……ノアって子?」
「ああ。結局、俺が卒業するまで一緒じゃなかったな。どっかに行っちまってそれっきりだ——って」

 ヒナタはコトハの顔を見て言った。
 急にこちらを向いたので、赤面してしまうコトハ。
 そして、自分の顔をぬぐう。涙が出ている。

「泣いてるぞ、お前。大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ! 目にゴミが入っただけなんだから!」
「ははは、分かってるって」

 しかし、彼女は驚いた。
 ヒナタがいつも着けているサングラスにこんな過去があったのか、と。
 いわば、これは彼の只のトレードマークではなく、仲間を守るために強くなるという誓いの証なのだ。
 彼がいつも無茶をするのは、仲間を守るため。そう、あの日、あのサングラスに誓ったため。
 
「鎧龍に入ったのは……結局、何でなの? そのナナカって子の思いを継ぐため?」
「……んー、それはちげーな。俺はデュエマしか取柄がねーから、やっぱこっちしかない。そう思っただけさ」

 墓石を前に、2人で並ぶ。
 夕陽を背にして。

「俺は——正直言うと、まだ引きずってるんだ。思い出すたびに泣きそうになることだってある。俺は——強い人間じゃねえから」
「……ヒナタは強いよ。今まで、どんな逆境にだって負けずに頑張って来た。仲間を——あたしを助けてくれた」
「コトハのおかげもあるな」
「えっ!?」

 思わず、ストレートに名指しされてコトハは赤面してしまった。
 にしし、と悪戯っ子のような笑みを浮かべるとヒナタは言った。
 ——こ、こっちの気も知らないで!

「お前とは喧嘩して出会ったようなもんだけど、あれ以降お前はずっと俺を助けてくれたしな。お前、なんつーかナナに似てるんだよ」
「似てる……?」
「あ、勿論代わりって意味じゃねーよ? そうじゃなくて、なんつーか、いっつも俺を何だかんだで心配してくれるし、助けてくれるしな。やっぱ、ここぞで頼れるのはコトハだって俺思うんだ」
「……当たり前じゃない」

 コトハは少し気恥ずかしそうだった。
 此処までストレートに伝えられるのもなかなか来るものがある。

「あんたには助けられてきたわ。あたしだけじゃない。他の皆だってそう。だから、またあんたを助けようと思うの。どんな逆境にだって諦めずに向かっていくあんたを見たら……放っておけないじゃない」
「そーかぁ?」
「無駄じゃなかったはずよ。今まであんたに起こったこと全てがね」
「……そうだな」

 彼はサングラスを手に取る。
 思い出される日々。
 思い返せば全てが今の自分を作り上げているのだろう。
 
「話、聞いてくれてありがとな」
「ううん。こっちこそお礼を言いたいわ。とても辛かったでしょうに」
「いずれは言わなきゃいけなかったことなんだ。あいつはもう帰ってこないけど、今度はあいつの分まで俺が誰かを守ってやるんだ」

 そう考えると、グラサンが全部繋げてくれたのかな、と彼は少し嬉しそうに言う。
 思わずコトハは吹きだした。

「お、おい! 何で笑うんだよ!」
「ごめんごめん、ちょっとおかしくって」

 そうやって、また笑顔がこぼれた。
 無邪気に笑い合う2人。

「……正直さ。まだ後悔してる気持ちだってある。俺がもっと傍にいてやれたら、俺がもっとあいつに何か出来ていたなら——だけど、全部引きずって前に進むんだ。前に進まねえと、何も見えなくなっちまうからな。だから——怖いんだ。また、仲間が俺の見えない場所で知らないうちに居なくなるのが」

 だから彼はいつも必死で戦った。
 仲間達がオラクルに襲われた時も。
 竜神王が世界を食らい尽そうとした時も。
 目の色を変えて、必死で戦った。
 仲間が失われそうになるたびに、狂う程苦しんだ。
 今のヒナタの目には——まだ見ぬ戦いへの恐怖が浮かんでいた。

「大丈夫」

 ぎゅっ、とヒナタの長袖シャツの袖を掴み、コトハは言う。




「あたしは——あたしだけはあんたの近くにいてあげるから」




 その姿はいつもの彼女とは違って見えた。
 優しく微笑んでいた。
 思わず見とれてしまう。
 胸の鼓動が速くなっていく。

「あたし、まだ大切にしてるよ? 《ドラゴンフレンド・カチュア》」
「えっ、マジかよ。最近お前使ってねぇから、もうとっくの昔に忘れられたもんかと」
「失礼ね! こないだもデッキを組み直したばっかりだわ!」

 《ドラゴンフレンド・カチュア》。それは、オラクルの最初の襲撃で切札を失い、悲しむコトハにヒナタが渡したカードだった。
 あの時はヒナタも必死だった。
 とにかくコトハに、そして同じく切札を失ったレンに立ち直って貰うために奔走したのだ。

「あたし、あのカード大好きなんだ。絆って感じがして」
「まあ、確かに……そうだな」
「あのカードを見て、あたしは元気が出た。あんたにはちゃんと力があるのよ。人を勇気づけて、元気にする力が。だから——こんな素直じゃないあたしだけど、これからも傍にいてくれるかな?」

 たりめーだろ、とヒナタは即答した。




「もう、誰も失わせない。俺の目の前から消させやしない。皆、大事な俺の仲間で——友達だ」



 ヒナタらしい、とコトハも笑ってみせた。
 そして——夕陽が沈んでいく。
 次は新たなる朝を告げるため——

「ってやっべぇ!! もうこんな時間だ!! バス!! バス!! おい白陽!! どうにかしろ!!」
『どうにもならんなこれは』
「3・現実は非情である!?」
「ニャンクス!! どうにかしなさい!!」
『空に”ボスケテ”って書いときゃどうにかなるんじゃないですかにゃぁ?』
「あれ!? あんたひょっとして少し機嫌悪い!? ごめんったら!! 謝るからどうにかして!!」

 ——このように門限がやばいことになるというオチがついたわけであるが。