二次創作小説(紙ほか)
- Act5:天王/魔王VS超戦/地獄 ( No.287 )
- 日時: 2016/03/30 11:02
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
2人で並んで、歩く。
集中的に特訓するために、デュエルテーブルの置かれている部屋に向かっているのだ。
「なあ淡島」
「……なんですか?」
「僕はそんなに怖いだろうか」
普段こそ無表情だが、今日のレンは少し落ち込んでいるように見えた。
昼休憩の時の話を気にしてるようだ。
ホタルとしては、そんなのつもりではなかっただけに取り乱してしまう。
確かに怖いというのはあながち間違ってはいない。
「そ、そんなことないです!」
「……まあ怖がらせてしまって当然だな。僕は——修羅なのだから」
彼は自嘲するように言うと目を伏せた。
「——僕は——僕自身が大切にしていた思い出に手を掛けたのだから」
ホタルは息を詰まらせる。
それが、レンの抱えている”闇”だと知ったから。
「僕は——強くなる。今度は教えるだけじゃない。貴様から教わる事もあるはずだ」
「私から——教わる事、ですか」
「……そんなものあるわけがない、と思っているだろう? だが、”学ぶ”ということはそういうことだ。この世で出会った全ての人物にはどんな形であれ学ぶところがあるはずなんだ」
「……で、でも」
「貴様はもっと自分に自信を持て」
そういうと、彼は部屋の扉を開けたのだった——
***
「タッグマッチのルールは理解したか?」
「はい。でも、この辺ややこしいですよね……」
「まあ、後は実戦次第だ」
さて、とデッキをシャッフルするとレンは言った。
「早速スパーリングといこうか」
「は、はい……」
***
何戦か終えた後だった。
彼女は口を開いた。
「私……黒鳥先輩に謝らないといけないことがあります」
「何だ?」
「アルゴリズムに操られていた時に、黒鳥先輩を引き込んでしまいました。より暗い深淵に」
「何だ。そんなことはもういいだろう。むしろ僕にとっても前進する良いきっかけになった」
ようやく、レンは解した。
彼女はまだあの時の事を気にしていたのだ。
だから、どこか彼女はおどおどとした様子をレンに見せていたのだろう。
ただでさえ気難しいレンだ。根に持っていないか心配で、上手く付き合えなかったのだろう。
「やはり、前向きに考えねばならないとつくづく思う。ヒナタを見ているとな。あの時の事は、誰も失われなかった。だからもう、貴様は心配することじゃない」
「……はい」
「良いか、ホタル。僕は”後輩”にもう辛い目に遭ってほしくは無いんだ」
レンは彼女の目を見つめた。
あの少女の面影を重ねながら。
「……そして、そのためには僕も強くなる必要がある。貴様は——何のために強くなりたい?」
「……私は——」
もう、ホタルに迷いは無かった。
この問いへの答えは決まっていた。
「——ノゾムさんを目指すために強くなりたい。いつか、あの人を倒せるくらい——それだけ大切な人ですから」
レンが相手だとしても、それは変わらなかった。
「……それが分かっていれば十分だ。より高みを目指すことも大事だが、目に見える目標を持っておくのもまた王道。僕は良いと思うぞ」
まあ、もっとも、とレンは続けた。
「貴様の場合は、十六夜ノゾム個人に執着しているところもあるだろうがな——どいつもこいつも色気付いて」
えっ!? と彼女は素っ頓狂な声で返した。
どうやらレンには完全に見抜かれているようだった。
ホタルがノゾムのことを、”男子”として意識していることを。
人の考えを読み、心理的に追い詰めることも得意とするレンからすれば朝飯前のことであったが。
「淡島。恋は時に人を成長させる。だが、時に狂わせる魔物だ。絶対に、どんなときにでもブレない軸を自分の中に持っておけ」
「どんなときにでもブレない——軸?」
「そうだ。さもないも——僕のようになるぞ。僕のように——修羅になってしまう」
「で、でも、どうしてそこまで」
「これでも色々、その手のことについては勉強しているんだ。それにだな、淡島。貴様の事が心配なのもある」
「……」
急に、ホタルは黙りこくってしまった。
そして、そのままゆっくりと口を開いた。
一言一言、言葉を選びながら——
「……それって、私がやはり未熟だからでしょうか?」
「未熟じゃないなら何だっていうんだ。貴様だけじゃない僕だってそうだ」
「……まあ、そうですけど……やっぱりそう言われたら焦っちゃうんです」
彼女は目を伏せた。
「……文明の力が一致しているのに、まだ私とハーシェルは武装が出来ないんです」
「……こればかりは……だが、ヒナタもそうだが、あいつも焦っているところがあるからな。あまり急ぎすぎるな」
「……はい」
こくり、と彼女は頷いた。
それでもやはり、不安は隠せないようだった。
だが、それはレンもそうだ。
幾ら力を持っていても、まだ見ない脅威への恐怖は簡単には消えるものではない。
だから——
「大丈夫だ。あまり気に病むな。お前たちはまだ1年だ。僕達に頼れば良い」
「……ありがとうございます」
「何。”先輩”として当然のことをやっているだけだ」
あの少女に誓ったことを、今自分はやれているだろうか。
自分では全力でやっているつもりだ。
それでも時折、自分が間違っているのではないかと責める時がある。
故に彼は悩むのだ。
自分が正しいかどうかを——
「先輩は、十分優しいと思います」
彼女の口からふと言葉が零れた。
「厳しさの中に優しさがあるっていうか、その言葉に重みがあるんです」
「……伊達に修羅場は潜り抜けていないがな」
「だからもう……自分の事を修羅だなんて言わないでください。先輩は……先輩ですから」
「……ありがとう」
その言葉だけで——救われた気がした——
***
刻々と近づいていく決戦の時。
そして——遂にその日が訪れたのだった。