二次創作小説(紙ほか)

Act2:狩猟者は皮肉か? ( No.30 )
日時: 2016/03/17 12:31
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

「ホタルの奴、昨日学校には来なかったんですよ」
「ま、あの事件の後だ。仕方ないだろ」

 暁ヒナタと十六夜ノゾムは、カードショップ『WIN×WIN』に居た。
 どこにでもある普通の中古屋だが、ここではあくまでもカードを専門に扱っている。(無論、それだけでは経営が苦しいのでゲームカセットやハードも取り扱っているが)
 しかし、ここのシングルはなかなか品揃えが良い。
 しかも、そこそこ安かったりする。
 今、デッキを改造しようとしているヒナタには打って付けだった。

「先輩って火文明をよく使いますよね」
「馬鹿言え、俺ァその気になりゃシューゲイザーでもヘブンズ・ゲートでも使えるんだっての」
「またまたー」

 すると、ヒナタはカバンの中のデッキを1つ取り出すと、言った。
 見れば、結構年季の入ったスリーブに守られたデッキだった。

「んじゃ、試してみっか?」
「へ?」

 ***

 結果、ノゾムの全戦全敗だった。まさか、この人はビートよりもっヘブンズ・ゲートの方が強いのではないか、思うほどに。
 元々、ドロマーカラーを主軸に組んでいたヒナタだから当然だったのだが。

「先輩ってオールラウンダーだったんすね……」
「そうだ。連ドラと墓地ソースは俺の数多いレパートリーの一部に過ぎない。大会とか出るときは、その辺りの環境に合わせてデッキを変えたりするから、結構デッキは3つくらい持ち歩くぜ?」
「……」

 墓地ソースという言葉に沈黙するノゾム。
 彼は昔、墓地ソースを使って大会で優勝した時に、自分が負かした相手から「暁ヒナタの真似事」と憎まれ口を叩かれたことがあったのだった。
 
「ったく、まだ気にしてんのかぁ? 大体よぉ、人の目なんかいちいち気にしていられるかってんだ。ネットの掲示板やラインに悪口書かれたって、そのラインと掲示板使ってなきゃ、痛くもかゆくもないだろ」
「……はい」
『ノゾムー! 元気出してよ!』

 デッキの中からクレセントが声を掛ける。
 ああ、心配してくれる人がいるって、良い。
 そこで、思い出したかのようにヒナタはデッキの中の白陽に声を掛けた。

「そうそう白陽。お前に合わせて、デッキは赤単にした。あと、《コッコ・ルピア》よりも、《メテオ・チャージャー》とかでマナを増やした方が良いと思ったんだ」
『そうか。ヒナタはなかなか気が利くな』
「ま、元々《コッコ・ルピア》は貧弱だから近々外そうと思ってたところだしな」

 サラッと《コッコ・ルピア》が真っ青になるような台詞を吐くヒナタだが、一応これも彼なりにデッキのことを考えているのだろう。

「後は、この間シールド・ポイントはたいて手に入れた、このカードを使えば、ヒヒヒ」

 と、手に取ったカードを持って、レジへ直行しようとしたその時だった。
 ボスン、と誰かの胸板にぶつかった。なかなか筋肉質な感触だ。
 見上げれば、180cmはあろうかの大男だった。
 休日にも関わらず、どこかの学校の制服を着ている。純白のブレザーだ。そして赤いネクタイを締めていた。
 極めつけは、長身に加えて風格の在る細い目にごつごつとした顔。
 だが、豪傑というよりは冷静な指揮官を思わせるような雰囲気だった。
 
「あわわわわ」
「すまなかった。この長身が災いしてよく見えなかったのでな」

 男は言った。
 怯えているヒナタに遠慮したのだろう。

「それより------------暁ヒナタだな?」
「いっ!?」

 いきなり名前を言い当てられて、戸惑うヒナタ。だが、この制服には見覚えがあった。
 鎧龍に並んで有名なデュエリスト養成学校、”聖(セント)羽衣決闘学園”だ。
 しかし気がかりだったのは、聖羽衣は大阪にある学園。何故、此処にまでその生徒が来ているのか。

「合っているようだな」
「えーっと? 聖羽衣のお方で? 一体何故此処に?」
「ったく、お前がいる場所なんか、分かりきっているんだよ」

 皮肉でフランクな声が響いた。見れば、男の後ろから、見覚えの在る少年の姿が。
 痩せ型で、ヒナタよりもひょろひょろと長い体型。
 そして、死んだような目に無造作の茶髪。

「キイチ!?」
「知り合いですか」

 ノゾムの問いに、ヒナタは頷いて答えた。
 彼は昨年の鎧龍サマートーナメントで、共に戦った戦友だった。
 槙堂キイチ。それが彼の名前だった。漢字で書くと「喜一」らしいが、彼自身デュエルのときを除いて滅多に感情をあらわにすることは無い。いつもは無気力、死んだ魚のような目を浮かべているのだった。
 それだけではない。このカードショップで彼とであったのだ。

「久しいな」
「ああ、お前に会えて嬉しいよ!」

 と、差し出したヒナタの手を-----------キイチはパン、と払った。
 その眼は何時になく厳しいものだった。

「ああ。去年の学園対抗トーナメントで、俺と当たった時のてめぇの無様な負けっぷりは今でも焼け付いている」
「……何だと?」
「ふっ、てめぇら鎧龍の準優勝は実質あの無頼シントとエル・ヴァイオレットに助けられたようなモンだからな」

 言い返せないヒナタ。キイチはヒナタ達と戦った後、何も言わないまま転校した。大阪の聖羽衣学園へ。そして、ヒナタと学園対抗トーナメントで戦うことになったのだ。
 結果はヒナタの完敗だった。それどころか、ヒナタはその前の別の学校との試合でも完敗を喫していたのだった。
 ノゾムが駆け寄る。

「先輩、昨年のって……」
「ああ学園対抗トーナメント。この日本には、全部で4つのデュエリスト養成学校がある。関東に鎧龍、近畿に聖羽衣、九州に零央、北海道に蓬莱だ。そして、それぞれの選りすぐりの生徒6名のチームを組んで、トーナメントを行うってものだった」
「先輩も出場したんですか!?」
「ああ。当然、鎧龍チームにな。だけど俺は負けてばっかりで何も出来なかったんだ」

 今思い返すだけでも、自分の無様な負けっぷりが鮮明に残る。あの戦いを得て、決心したのだ。
 強くなる、と。

「何だか知らねえけど-----------先輩を侮辱するなら許さねぇぞ死んだ魚男!」

 ノゾムがしゃしゃり出る。

「死んだ魚たぁ、また滑稽な仇名を付けられたモンだ。ハッ、馬鹿じゃね? 俺は強くなったんだよ。聖羽衣でな。てめぇらなんざ、足元にも及ばねぇ」
「あんた好い気になってんじゃねえよ。ヒナタ先輩は弱くない!」

 あくまでも食ってかかるノゾム。
 
「ああ、そうだ。てめぇの馬鹿先輩は弱くない」
 
 肯定するキイチ。
 だが------------と彼は皮肉気に続けた。


「俺達が強すぎるんだヨ。何せ、鎧龍を下したのは俺達、聖羽衣なんだからな!」


 自信満々といった笑みでキイチは言い切った。
「もっとも、今俺の後ろにいる獅子怒さんは俺よりも強いが」と付け加えて。
 ハッタリなどではない。彼らの実力は、真にヒナタが理解している。
 だが。

「お前は何か勘違いしてるぜ、キイチ」
「あ?」
「俺だって、この半年間寝てた訳じゃねえんだ。今の俺は、お前の知ってる俺じゃねえ」
「何なら今からやるか?」

 小馬鹿にするようにキイチが鼻で笑った。
 答えは簡単だ。

「やるに決まってんだろ!」
「じゃあ決定だ」

 キイチがデッキを取り出した。そして、背後にいる男に判断を仰ぐ。

「良いですよね? 獅子怒さん」
「構わん。我は彼の実力を見るために来た」
「白陽、お前の実力を試させてもらうぜ!」
『合点承知。私は既に貴様の手足だ。思う存分に使ってくれ』

 耳ではなく、頭を通して白陽の声が聞こえてくる。

『白陽〜! がんばって〜!』
「お前は引っ込んでろ、バレたらどうするんだ!」

 だが、本当に声を上げて白陽を応援するクレセントをノゾムが咎めたのは、誰も見ていなかった。
 この日、カードショップは戦場と化した。
 己のプライドを賭ける2人のデュエリストによって。
 かつて共に戦った戦友2人のデュエリストによって。
 すぐにデュエルスペースに移動し、カードを展開し、お決まりの台詞を同時に言った。

『デュエマ・スタートッ!!』