二次創作小説(紙ほか)

Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝 ( No.313 )
日時: 2016/08/02 23:53
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「うああああああ、暑いー、暑いよのぞむー」

 ごろごろ、とノゾムの部屋で寝転びながら言うのはクレセントであった。
 
「最近出番無いしー、暇だしー、暑いしー……この世界暑過ぎー……」
「これが夏って奴だ。こういうもんなんだよ」
「ううう……」
「クーラーもぶっ壊れて、今新しいのに取り換えようかって時、扇風機は熱風しか出ない。で、オレはその中で数学の宿題と平行してデッキの構築をやってるわけだが」
「ふーん、大変だねー」
「他人事じゃねぇんだよぉぉぉーッ!! 何か手伝えよ、このニート姫!!」

 がぁぁぁーっ、と突っ込むノゾム。
 流石に自分が忙しく宿題と並行してデッキ構築を行うという離れ業を成し遂げている最中に、唸りながらごろごろされるのは堪ったものではないのである。

「白陽の所に、ヒナタ先輩の家に行って来い! 邪魔だっつーの!」
「やーだー……朝まで帰って来れなくなっちゃうもんー……」
「何でだよ!?」
「えー、分からないのー? ノゾムー……何ならあたしが教えてあげよっか——?」
「何言ってんだコイツ」
「あははー、冗談に決まってるじゃんー……あたしは白陽一筋……うう……マジで何言ってんのあたし……暑さで頭おかしくなってる……」

 長い耳は垂れてしまっており、ルビーの瞳は疲れを帯びている。
 ふさふさの体毛も合わさって、相当暑がっているのは確かだった。
 が、その割には、暇なのか椅子に座っているノゾムの後ろからのしかかっているわけである。むにゅ、むにゅ、と柔らかいものが頭に当たって流石のノゾムも集中できなくなっているのだった。

「おめーな……下降りて冷蔵庫からアイスでも——」
「全部食べちゃった……」
「お前、アレ全部食ったのか!? あんなに買ってたのに!?」
「ご、ごめんってばぁ……」
「もういい、カードに戻ってろ!!」

 ピッ、と彼女のカードを取り出すと、クレセントはそのままその場から消失する。
 そして、空白だったカードのイラストに彼女が現れたのだった。

「やれやれ……もうすぐ……もうすぐ聖羽衣戦なのに……」

 まだ完成していないデッキと——遂に完成させた革命を手にし、彼は憂いを帯びた表情を浮かべていたのだった——明日はもう、大阪への出発だ。他の荷物は纏めてある。しかし。
 デッキだけはまだ完成していないのであった。





 ***


 
 事の始まりは一昨日に遡る。

「つーわけでだな。これがテメェの革命だ」
「……はぁ」

 ——一昨日の夕暮れ。 
 フジに呼ばれていたノゾムはカードを見せられて溜息をついた。
 そのカードは確かに革命のカードだ。しかし、ヒナタやレン、ホタルのものとは相違点がある。
 それは——LEGENDの刻印が押されていないことだった。何でか知らないが、取り敢えず気になったのでノゾムは申し出る。

「何でオレのだけレアリティが低いんすか?」
「だっておめー、既にビクトリー持ってんじゃん」
「いやいやいやいや!! そういう問題じゃないっすよね、コレは!? んなこと言ったらヒナタ先輩もホタルも普通に持ってますよ、騙されねえぞ!!」
「仕方ねえだろ。ドギラゴン、ミラダンテ、デス・ザ・ロストと違ってそいつには原元のクリーチャーの力をベースにしてるわけじゃねえ。LEGENDって称号は本当に強いカードにしか与えられんのだ。そいつは量産カードなの、武闘財閥の力では及ばなかったの」
「はぁ……水はやっぱ不遇なんすね。分かりました、そういうことにしておきます」

 げっそり、とした顔でノゾムはくるりと踵を返す。
 此処までの特訓は何だったのかと言わんばかりに。何処か残念そうな顔をしながら。

「待て待て待て待て!! 死んだ魚のような目を携えたまま帰るんじゃない!!」

 ぐいっ、と彼の肩を抑え、逃げないように必死に掴み、フジは修羅の形相で迫る。

「アレだ。そう、アレだ。こいつはお前の今までの戦法を底上げするものになっている。構築次第でテメェの大きな味方になってくれるはずだ多分絶対大丈夫。俺様の特訓をあれだけ受けたんだぞ、なぁ?」
(かつてこんなに不安で信用ならん「大丈夫」があったろうか……いや、無い)

 呆れながらもノゾムは渋々フジの話を聞くことにしたのであった。 
 



 ***




 あれからノゾムのテンションはダダ下がりっぱなしであった。
 タダでさえ。
 タダでさえ相手はあの因縁の相手である槙堂キイチだというのに。
 自分たちを屈辱に塗れた敗北で叩きのめしたあの男へのリベンジだというのに。
 貰った切札は先輩達と同列のLEGENDカードではない。いや、それどころか同級生と同列ですらない。
 このままではヒナタの脚を引っ張ってしまうのではないかという憂いが頭の中を過る。
 (いや、でも、あの時とは違う……武闘先輩オレの戦法を今まで以上に強化するって言ってたし、大丈夫なはず……)
 まず、聖羽衣の2人がどのようなデッキを使うのか。
 それを対策するところから始まったわけであるが——向こうも情報漏れを恐れたか、彼らの最近の使用デッキについては伏せられている。
 獅子怒シドは光のブロッカーを使ったデッキ、一方のキイチは火自然を基盤にしたハンター中心のデッキを使う事だけは分かっているのであるが……それも前情報からだ。今は違う可能性が高い。
 見れば既に午後の2時。昼飯を抜いてしまった。
 今日は明日の準備の為にビルには来なくていいとのことであったが、それ故頭の中身は考えることだらけでいっぱいだ。
 ——勇み立ったのは良いけど……オレに、あの2人が倒せるのか——? ヒナタ先輩の脚を引っ張らないで、戦えるのか——?
 ごちゃごちゃ、と頭の中が埋まっていく。
 だがそのうち、陽気に当てられたからか、項垂れるようにノゾムは机に突っ伏したのであった——


 
 ***



「あれ? ノゾム?」
 ……しばらくして、ノゾムが動いていないことに気付いたクレセントは実体化して、彼を揺する。
 しかし。返事が無い。色々抱えているノゾムだが、此処最近一向に彼は自分も頼ってくれないのでクレセントは不満を感じていた。
 確かに家でごろごろしてばっかりの自分も悪いが、少しくらい相談してくれてもいいだろう、と。
(むぅ……仕方ない。ノゾム悩んでるみたいだし……そういえばヒナタの方はどうなってるんだろ)
 決戦を前にして、ノゾムの相方となるヒナタは、そして白陽はどうしているのか——それが気になったのである。
(もしかしたら、ノゾムの助けになれるかも)
 そう思いながら——カードの姿で彼女は窓をすり抜ける。
 向かう先は暁ヒナタの家だ。彼と白陽ならば、何か助言がもらえるかもしれない。そんな一抹の期待を抱いて、玉兎の少女は、屋根を踏み越えて街へ飛び出したのであった。