二次創作小説(紙ほか)
- Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝 ( No.315 )
- 日時: 2016/08/04 07:29
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
***
試合の運びは序盤こそノゾムのリードであった。
——しかし。全ては後半の攻めの遅さに失したと言っても過言ではない。
守りも、攻めも、全て崩され、火特有の癖のある妨害カードに翻弄された末に——
「——《白陽》でダイレクトアタックだ!」
「ッ……!」
——敗北した。
またも、彼に勝つことは叶わなかった。
いや、それだけではない。今までにない焦燥感がノゾムを襲っていた。
がくり、とノゾムは膝をついた。
わなわな、と手が震える。
あの日のことを思い出す。勇ましく飛び出して行ったのが間違いだった。
自分はキイチに圧倒的な実力差の前に叩きのめされ——敗北したのだ。
「負けた、か——やっぱり、デッキが——」
「デッキの所為にしてんじゃねーよ」
バッサリ、と切り捨てるヒナタ。
ノゾムのデッキの所為にするような発言に苛立ちを覚えたようであった。
「——考えれば、考える程……よりリアリティを帯びて、俺の手に伝わってくるんすよ……敗北の可能性——デッキをどんなに、どんなに改造しても、またあの時みたいに——オレは強くなってるはずなんだ……オレは——」
「——あのな。ノゾム」
遮るようにヒナタは言った。
「それ以上考えるのをやめろ」
はっ、とした顔でノゾムは頭を上げる。
歩み寄ったヒナタは落ち着き払った声で続ける。
「考えて悪いことばっかり浮かんでくるのは、お前の心の影だ。負けることばっか考えてたら——本当に負けちゃいけねえ時に、負けるぞ」
「——で、でも——先輩」
「心っつーのはお前だ。影もまたお前なんだ。思ってる事っつーのは、案外本当の事になったりするもんだぜ。心っつーのは、不安だとか、憎しみだとか、そういうのを全部投影する」
「ッ……!」
「負けるのが、怖いのかノゾム」
ごくり、と唾をのむ。
図星だ。
自分はまたも敗北を恐れた。
溢れる焦燥感。
「もう1回問うぜ。——負けるのが怖いのか、ノゾム。適当な言葉で誤魔化すんじゃねーぞ。正直に言え。テメェの悪い癖だ」
何だかんだ理由は付けた。
デッキビルディングやカードで言い訳もした。
しかし——それに隠されたのは只一つの、動物的且つ理性的で、最も忌むべき感情だった。
「——怖いわけ、ねぇだろッッッ!!」
振り絞るように、ノゾムは叫ぶ。
「——オレだって強くなったんだ!! あいつだけは、槙堂キイチだけは——オレがこの手で——」
「戦うのはテメェだけじゃねえんだぞッ!!」
「ッ……!」
「少し頭を冷やせ。らしくねーぞ? 此処最近、コンビネーションの練習も上手くいってねぇし……フジ先輩から革命のカードを貰ったのは良いけどよ。あんまりにもお前が思い詰めてるようだから呼んだんだ。クレセントも心配してたしな」
ぐっ、とくぐもった声でノゾムは頷いた。
「だ、だけど、オレは大丈夫です……」
「……まあ良いや。俺は信じてるぜ」
そう言い、彼は向き直る。
こうして、気まずい雰囲気のまま、今日は解散となったのだった。
***
——先輩に、怒鳴っちまった……オレは……。
机に突っ伏し、項垂れながらノゾムは動かなかった。
クレセントが心配そうに声を掛ける。
『ごめん、ノゾム。あたしが余計なことしたから……』
「いや、いーんだ。オレは……どんなに自分が愚かなのかを思い知った。……人間っつーのは、平気で嘘が付けるもんなんだな。他人にも、自分にも」
怖くない、と彼には言った。
しかし、あれは嘘だ。
全ては恐れからくる行動だった。
何度デッキを組んでも納得できない、と思い込み、崩してまた組み直す——キイチと向き合った時のことを考えると、震えが止まらず、勝手に頭が「これじゃない」と判断してしまったのだ。
「オレは……オレは……最低だ。自分が怖いのを、カードの所為に、デッキの所為に、まして先輩の所為にしちまってたんだ……オレは本当に臆病なんだな」
『ノゾム……』
「なあクレセント。お前は怖くなかったのか? 昔、クリーチャーの世界でも戦ってたんだろ? 負けて、死ぬのは怖くなかったのか?」
語り掛けるように言うノゾム。
それに——彼女は、消えるようなか細い声で言った。
『……ごめん。昔の事は、楽しいことしか思い出したくないの』
「……そうか」
『今はさ、ノゾムと一緒に戦ってたら怖くないよ。ノゾムは、強いもん。あたしの命を預けられるってあたしが一番知ってる』
「……オレは強くなんかねーよ。オレが一番知ってる。ヒーロー気取りのガキのどこが強いっていうんだ」
『——だけど、1人で戦うのは本当に怖いんだよ、ノゾム』
「!」
辛そうな彼女の声。
思わず、クレセントの表情を窺った。とても、浮かないものになっていた。
『あたしは”武神”だった……そうなるように育てられた。あたしは——生きた兵器《ルーン・ツールC(クレセント)》になるように育てられたから、周りはあたしを怖がって、戦場でも味方は誰もいなかった』
「クレセント……?」
今まで、彼女はそんなことは一言も言わなかった。
初めて、彼女の口から彼女自身のことを聞けた気がした。
『だからさ。1人で突っ走るのだけは絶対にダメだよ、ノゾム。そして自分に嘘をつくのもね』
ずきり、と胸に言葉が刺さる。
自分を偽り、嘘で固めること。そして、1人で戦う事。
まるで、今の自分そのものじゃないか、とノゾムは自分を責めた。
それ以上問う事も、聞き返すことも憚られ——そのまま2人は黙りこくってしまったのだった。
***
「キイチ君。いよいよだ」
「そうっすね、獅子怒さん。そういや、例のカードは出来たんすか?」
「嗚呼」
「そうっすか。流石獅子怒さん。そういえば、此処最近かなり調子が良いっすからね。今日だけで何人倒したことやら、ひーふーみー、ああ25人。それも皆高等部の先輩らだ」
「だが、慢心は禁物だ」
「確かに。次の試合は——あの鎧龍っすからね」
「君が余計な発破を掛けてくれた所為で彼らはまた強くなってくるはずだ」
「いーや、連中は元から——常に進化し続けてる化物ばっかっすよ。特に、あの暁ヒナタはね」
「……そうか」
踵を返した獅子怒は静かに答えた。
「——私としては、あの十六夜ノゾムの方により可能性を感じるのだがね——キイチ君」
決戦の日は、近い。
既に彼の瞳は自分の前に立ちはだかるはずの、あの少年の姿が映っていたのだった——