二次創作小説(紙ほか)

Act7:青天霹靂 ( No.325 )
日時: 2016/08/17 16:39
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「や、やべぇ……獅子怒さんの《ミルメコレオ》が……」
「あかん、あかんわ……こりゃ、終わったな鎧龍……」
「流石獅子怒さんやー、容赦なさすぎぃー! でもそこがええわぁー!」

 前にも増して大きくなる獅子怒コール。
 そして——ヒナタ達の前に現れたのは、今までのどの蟻獅子よりも強大な天使であった。
 しかし。天使というより、それは文字通りの魔獣だ。
 巨大な蟻の複眼と、獅子の単眼が目を引く顔面からは、嫌悪感を煽る触覚がぶら下がっており、四肢ならぬ六肢の先からは鋭い鍵爪が伸びている
 そして、胸部からは多数の棘が生えており、極め付けには大きく腫れ爛れたように太く、そして重い腹部。
 最後に天使のような羽根を広げるが、その1枚1枚はよく見れば薄い羽虫のもの。生理的な嫌悪がぞくぞく、と心の底から這い上がってくる。
 思わず、ヒナタとノゾムはその悍ましい怪物を前にして後ずさった。

「すまないな。こいつは少し、今までの蟻獅子とは違う。何せ、聖羽衣最高傑作にして禁断の一品——あの侵略にも対抗しうるカード。それが《ミルメコレオ》だ」

 表情を一切変えずに彼は言う。




「だから、この試合。あっさり終わってしまった時は——”堪忍やで”」



 ぞくり、と背筋が凍る。
 今、まさにこの男の本性を見た気がした。
 カリスマ、良き指導者としての貫禄と同時に——圧政を強い、捻じ伏せる支配者の貫録。
 決して悪人ではない。ないはずだが——今、一瞬だけ崩れた標準語を聞いた途端、ヒナタとノゾムは人の”素”というものがどれほど恐ろしいものなのかを思い知る事になった。
 この男は本気でこちらを叩き潰そうとしている。
 確実に、圧倒的な差で、叩き潰そうとしている。
 
「こいつの効果を教えてやろう。《ミルメコレオ》の最大の能力、それは——相手の場のタップされたクリーチャーは相手のターンの終わりに破壊される」
「!?」
「その凶悪な効果の代償か、こいつは他に《蟻獅子》とあるクリーチャーが場に居ないとき、我がターンの終了時に破壊されるという能力も持つ。言わば、凶悪ではあるが短命な蟻獅子の性質そのもの。しかし、蟻の性質とは何も短所ばかりではない。奴は一度場に出て、他に仲間がいれば確実に仕事をする。即ち——勤勉であることだ」
「……ちょっち意味分からねえなぁ……あんたの言ってることも、そいつの効果も……!!」

 苦笑いで返すヒナタ。意味が分からないとはこのことだ。光にしては余りにも暴力的な能力を前にして唖然としているのだ。
 ノゾムに至っては呆然と立ち尽している。
 ——マジかよ……!! 光には多くの除去耐性を付与するサポートカードがある……例えば《エバーラスト》だとか……こいつを強化させたが最期、オレらは、鎧龍はジ・エンドだ!! 幸い、こいつがアンタッチャブルも何も持っていなかったってのが救いだけど……オレのバウンスは光には余り通用しねえし……時間稼ぎにしかならねえ!
 タップ状態でターンの終わりに破壊されるということは、攻撃したが最後、攻め切れなければ即座に破壊されてしまう。どんな大型クリーチャーであっても、パワーの低いブロッカーで足止めするだけで破壊出来てしまう恐怖の能力。
 それが——《ミルメコレオ》の能力であった。
 そして、蟻獅子という名のカード群は只のカテゴリではない。《ミルメコレオ》の凶悪過ぎるスペックを制限するために作られた言わば枷だったのである。



蟻獅子の聖霊 ミルメコレオ 光/闇文明 (9)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/キマイラ 11000
相手のタップされているクリーチャーは相手のターンの終わりに全て破壊される。
自分のターンの終わりに自分の場に他の《蟻獅子》とあるクリーチャーがいなければ、このクリーチャーを破壊する。
このデュエル中にこのクリーチャーが破壊されていれば、ターンの始めに《蟻獅子》とあるクリーチャーを1体破壊してもよい。そうした場合、このクリーチャーを墓地からバトルゾーンに出す。この効果は1ターンに1度しか使うことができない。
ブロッカー
W・ブレイカー



 獅子怒
 手札2
 マナ0/4
 墓地2
 next turn:ヒナタ
 
「だけどそれ、要するに攻撃するまでに破壊するか、ワンパンで倒せれば良いんだろ?」
「ブロッカー陣を全て破壊、または貫通してシールドを全部叩き割って勝つ——《ドギラゴン》で、だろ?」

 見透かすように言うキイチ。
 確かに、《ミルメコレオ》が居る限り、ヒナタはこの守りを潜り抜けて1ターンで攻め勝たなければ、並べても並べた軍勢が破壊されるという憂き目に遭う。
 しかし。肝心の切札は山札の底へ眠っている——

「クッ……」
「さあ分かったら、大人しくさっさと俺らに叩き潰されろ——」
「クククッ……」
「……ヒナタ先輩?」

 思わずヒナタの方を一瞥するノゾム。キイチも、顔を顰める。
 そして彼は——




「アッハッハッハッハッハ!! ひぃーっひっひっひっひ、ふふふふ……へへへへ……」



 大きく、身体を反らせ、笑い出したのだった。
 ——ヒナタ先輩ィィィィーっ!?
 思わず、愕然とするノゾム。さっきのキイチよりも、大きく、そしてわざとらしく、彼は笑い出す。
 余りのアレっぷりに、流石のキイチも青筋を立てた。
 
「何だテメェ、気でも違ったか!?」
「いや、誰も君に言われたくはないとは思うがね」

 的確かつ最もこの場に相応しいツッコミを入れる獅子怒をガンスルーし、キイチは厳しい視線をヒナタに再び向ける。

「テメェ、何がおかしい!!」
「いやさぁーっ、アレだよアレ……面白くなってきたな、ってな。やっぱキイチ。俺とお前は似たモン同士なんだよ——やっぱこれくらい面白くねぇとなぁ、デュエマは。最近色々殺伐としてて、麻痺してたけどやっぱこれくらいドキドキワクワクさせてくれねぇとなぁぁァーッ!!」

 カードを引くヒナタ。
 そして、迷わず2枚のマナをタップした。

「反撃、開始だ!! 俺の切札が《ドギラゴン》だけじゃねえこと、教えてやるぜ!! お前達の場にあるクリーチャーは6体、よって合計コスト−6、つまり2マナでこいつを召喚だぜ!!」

 次の瞬間、溢れ出る灼熱が現れる。浮かび上がったのは、炎のマナだ。



「燃え盛れ、灼熱の革命!! 絶望に抗い、反撃せよ!!
《メガ・マグマ・ドラゴン》、召喚!!」




 現れたのは、灼熱の巨龍。それが放つ熱戦と溶岩により、一気にキイチの場にあった《コダマンマ》、そして獅子怒の場にあった《マルコキース》、そして《アントニオ》は焼き尽くされる事になる。

「むぅ——!!」
「これでどうだ!!」



メガ・マグマ・ドラゴン SR 火文明 (8)
クリーチャー:メガ・コマンド・ドラゴン/革命軍 8000
このクリーチャーの召喚コストを、バトルゾーンにある相手のクリーチャー1体につき1少なくする。ただし、コストは0以下にならない。
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、パワー5000以下のクリーチャーをすべて破壊する。



「なっ、馬鹿な——!! そんなカードを入れて、味方が、いやまして、ウェポンを装備したドラグナーが居たら一緒に焼き尽くされ——こいつ、まさか!!」
「そして残りの5マナで進化だ!! 《メガ・マグマ・ドラゴン》!!」

 進化の炎が溶岩の革命龍を包む。そして炎が巻き起こった。
 より高く、より明るい太陽へ——




「燃え上がれ、強襲の炎! 革命の風を巻き起こせ、
《革命龍アサルト》!」



 ——現れるのは強襲の炎、そして革命の風を切る翼。
 それがヒナタの元に舞い降りた。彼に笑顔と、勝利への希望を運ぶために。
 
「ノゾム!」

 は、はいっ! といきなり話を振られた事に戸惑いつつも、返事を返すノゾム。

「表情がかてぇぞ!! 俺達は勝つ!! そうだろ!!」
「先輩……! お、オレは——」
「だから、俺の背中に付いて来い!! あんな戯言に、宗教染みた戯言なんざに、俺らは負けはしねぇ!! そうだろ!! もっと楽しもうぜ!! 断崖絶壁に追い詰められたこの状況、引っ繰り返してやろうじゃねえか!! それがデュエマの楽しさってもんだろうが!!」
「……は、はいっ!!」

 ——そうだ、怯えてなんかいられない!! ヒナタ先輩は——
 彼の表情を見る。

「《アサルト》の効果発動!! 山札から火の革命軍の進化クリーチャーを1体手札に加える!!」
「ま、まさか——」

 ——ヒナタ先輩は、こんなにも、楽しそうに——笑っているじゃないか!!



「俺が加えるのは《燃える革命 ドギラゴン》!! さっき、お前のガチンコ・ジャッジで埋められたカードだ!!」



 おおおおお、と歓声が上がった。
 見事切札をサルベージ、しかも聖羽衣の場を半壊させたヒナタに対して、だ。

「楽しもうぜッ、ノゾム!!」
「分かりました、ヒナタ先輩!! このデュエル、全力でオレも先輩に応えます!!」

 拳をノゾムへ突き出すヒナタ。
 そしてノゾムもまた——自分の拳を合わせる。ヒナタが道化を演じてくれたおかげで、気持ちに余裕が出来たのだ。
 ——?
 ノゾムは再び相手を見据える。
 さっき、ふと気付いた、ある違和感を敢えて口にせず——