二次創作小説(紙ほか)
- Act7:青天霹靂 ( No.328 )
- 日時: 2016/08/17 20:45
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
***
「だけどよー、どうしたんだよ。お前、いきなりそんな吹っ切れたっつーか、何つーか」
「え?」
宿泊する部屋の中で、対戦をしながらであるが、ヒナタはノゾムに問うた。
急に目に輝きが戻り、同時にプレイングにもキレが戻った彼は見違えるようだった。
「おめーひょっとして、誰かと入れ替わってるんじゃねえか」
「ひふぁいひふぁい(痛い痛い)!! 頬引っ張らないでください!!」
「で、どうしたんだよ」
「……いや、ちょっと空港で出会った人に諭されちゃって」
へえ、とヒナタは応える。
空港で出会った少女に、突然話しかけられ、つい自分の悩みを吐露してしまったのが始まりだという。
——よっぽど、弱ってたんだなあ、こいつ。……ちょっと悪いことしちまったなあ、こないだは。俺はコイツに激飛ばすつもりが、こいつを追い詰めてた。
「ま、あれだな。お前の目に元気が戻って良かったぜ。此処最近のお前は、ずっと気張ってて正直怖かったぞ?」
「は、はい……なんつーか、昨日は本当にすいませんでした」
「良いんだよ。俺こそ悪かったな。サイテーだよな、後輩を追い詰める先輩なんてよ」
「そ、そんな、とんでもない!」
自嘲気味に笑うヒナタに、慌ててノゾムは返す。
「お、オレは、先輩に感謝してるんです!! 先輩がああやってオレを叱ってくれたから……オレは問題から目を逸らさずに済んだんだ」
「……そっか。ああそうだ、ノゾム」
「それに、オレの方こそ……生意気な口をまた利いてすいませんでした」
「いーんだよ。もう、そんな小さいことで怒っちゃいねーよ」
ぽん、と彼の一回り大きな手がノゾムの肩に置かれる。
とても、暖かい。そして、笑う彼の顔は太陽のようだ。
「周りからお前は期待されてる。お前にとって、それが重圧になってるのをもっと早く気付いてやれれば……もっと早く気付けたかもしれないな」
「先輩……オ、オレ、やっぱりまだドキドキするんすよ……あいつらと戦うと思うと」
「でも、それだけお前は強くなってるんだ。少なくとも、鎧龍に来たばっかで、クレセントに振り回されてたお前はもう居ないんだ」
『そーだよっ、ノゾムッ!』
ぎゅっ、とノゾムは誰かに後ろから抱きしめられる感覚を覚えた。クレセントだ。いきなり実体化するので仰け反ってしまうも、喜んだ彼女に捕まえられるという結果に。
にひひ、と笑顔で『ノゾムは強くなってるもん! 自信もっていーんだよ!』とクレセントは言う。
「……オレ、ほんとバカだなあ……認められたい、認められたい、って思ってたのに、いざ認めてくれる人が増えてきたら、自分の実力まで疑うようになっちまって……」
『無理もあるまい。自分の力が発揮され、勝てるかどうかはその時次第だ』
「白陽」
ヒナタの傍で腕を組んだ白陽が、頷く。
『極端な話、まだやってもいない勝負の結果を憂うのは馬鹿馬鹿しいということだな』
「ああ……大体同じこと言われた」
「まあ、何だ。もう今となっては良いじゃねえか。デッキも完成したみてーだし、これならいけるだろ。俺の天門にも勝ってるし」
「はいっ!!」
屈託のない笑顔で、ノゾムは答える。
「しかし楽しむ心、か——誰だか知らねえがそいつ良い事言うじゃねえか。俺も昔は、あいつと遊ぶのが楽しくてひたすらデュエマやってたな——」
「あいつ?」
「ああ。幼馴染だよ——そうだ、ノゾムっていつ頃からデュエマ始めたんだ?」
「え!? オ、オレは小3くらいの時始めたんですよ。じいちゃんが孫のいる友達から譲ってもらったって言って渡されたのが最初で。でも、知ってる通り、オレあんまり友達いなかったから、カードショップとかに行ってたんすよ」
「……そうか」
「だけど楽しかったですよ。やっぱり。何も知らないでカードで遊んでる時は。初心忘れるべからず——本当、大事なことを忘れてばかりだ」
よし、とヒナタは締めくくるように言う。
「なぁノゾム。俺も実は、怖いって思ったんだよ。何度か。俺は2回もキイチにやられてる」
「あの人は……本当に酷い人です。ヒナタ先輩をあんなふうに言うなんて」
「だけどな。あいつの事を憎まないでやってくれ。きっと、腑抜けてた俺に喝を入れてくれたんだ、あの時も」
「……」
「それもお前の枷になってると思ったんだ。俺は」
「……オレは」
ノゾムは考えた。
あの時。自分もヒナタも罵声を浴びせられ、
確かに、私怨を抱えたまま試合に挑むのは、さっき掲げた”楽しむ心”に反する。
それは、果たしてあの少女の、いや自分自身が本当に望む試合になるのか——
——いや、違う。純粋にぶつかり合えば良いだけだ! 余計な事は考える必要はない!
「——そうっすね。明日は切り替えていきます!」
「ああ、その意気だ!」
『やったぁー! 元気なノゾムが帰ってきた!』
『ヒナタ。お前も明日は落ち着いていけよ』
「わぁーってるって。だからノゾム。お前がもしもまたくじけそうになった時は俺に言え。俺は絶対、お前の味方だ」
「……はいっ!!」
***
——!!
少し、放心状態だったらしい。
ヒナタは相手を見据える——途端にシールドの破片が飛んだ。
「叩き割れ、《トラマル》!! W・ブレイクだ!!」
ヒナタの最後のシールドが割られる。
同時に、ノゾムのシールドが割られた——しかし。
最後のヒナタのシールドが収束した。
「ノゾム、お前が俺に一生懸命なのに、俺がお前に応えないわけがねぇだろうが!! 此処で逆転だ!! 呪文、《イフリート・ハンド》!! 効果で《ミルメコレオ》を破壊!!」
「んあ!? 何考えてやがる!! 狙うのはそっちじゃねえだろ!!」
見れば、鎧龍の残るシールドは4枚。
ノゾムのシールドが今、全て割られようとしていた。
「《カイザー「刃鬼」》、シールドをT・ブレイクだ!!」
「ッ……!! まだまだぁ!!」
残るノゾムのシールドは1枚。
さっき、《スーパーエメラル》で仕込んだシールドだ。
「ノゾム——頼んだぞ!!」
「はいっ!!」
「《鬼丸》、最後のシールドをブレイク!!」
大剣が振り下ろされる。それが最後のシールドを割った——同時に、キイチが勝ち誇ったように言う。
「残念だったな!! それがもうトリガーだろうがなんだろうが、水単のテメェじゃ俺らに逆転は出来ない!! 十六夜ノゾム!! 次の獅子怒さんのターンで、ジ・エンドだ!!」
「——そうだな」
次の瞬間。
「——お前達がそう思うならそうなんだろーよ!! だが、それはお前たちの限界、お前たちの今までの常識に過ぎない!! S・トリガー、《サイバー・I・チョイス》!!」
虚空を破り、電子世界の住人が現れた。
あらゆる防御スペルと召喚術に通じた彼は、ノゾムの手札からS・トリガーと付くカードを操ることが出来るのだ。
サイバー・I・チョイス R 水文明 (7)
クリーチャー:サイバー・コマンド 3000
S・トリガー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、「S・トリガー」を持つカードを1枚、自分の手札からコストを支払わずに使ってもよい。
「はっ、それで一体どうするつもりだ!!」
「まずは、《I・チョイス》の効果発動!! 俺が使うのは——《終末の時計 ザ・クロック》だ!!」
「はっ、今更足掻いても無駄だって言ってるだろうが!!」
強制的にキイチのターンが終了させられる。
確かに、このままではノゾムは次のターンに獅子怒に倒されるだろう。
しかし。ヒナタが必死に蟻獅子2体をどかしてくれたおかげで、活路が見えたのだ。
「オレのターン、ドロー——そして《エビデゴラス》の効果でもう1枚ドロー!」
——見せてやる。これがオレの、革命!!
「マナをチャージし——6枚のマナをタップし、《サイバー・I・チョイス》を進化!!」
——オレの革命は先輩達やホタルに比べても小さいかもしれない!! だけど、この思いは、楽しむ心と勝ちたいっていう思い——相反する2つは今もカチあってるけど、何かを”マジ”で通すことなら誰にだって負けないんだ!!
今までの経験。全てが無駄ではない。
今までの苦難。何一つ不要ではない。
ノゾムの積み上げて来たもの、全てが今——解き放たれようとしていた。
《サイバー・I・チョイス》の身体が稲光に包まれ、今こそ進化を遂げようとしていた。
「無限の知識を相乗し、今此処に革命を証明せよ!!」
その身体は龍素の力を集積し、電撃のように迸っていく。
理想と現実のギャップ。それさえも乗り越えて、龍戦士は目覚めた。
青天、霹靂を飛ばす勢いで龍程式の革命軍が今、顕現する。
「稲光のように速く、そして確かな希望となれ!!
《革命龍程式 プラズマ》!!」