二次創作小説(紙ほか)

Act7:青天霹靂 ( No.331 )
日時: 2016/08/19 03:22
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ***


「——馬鹿な——」



 その身体には傷一つ無かった。
 アンカが手加減したのだ。騒ぎになるのを、彼も恐れたのだろう。
 しかし。獅子怒は敗北した。
 圧倒的な星のカードを前にして——

「おい、獅子怒。無理だよ。テメェじゃ俺らには勝てない」
「今度は俺と——」
「話に、ならない」
「ッ……!!」

 キイチは口を噤んだ。
 自分よりも高い実力を持つ獅子怒が、圧倒的な差をつけられて負けたのだ。 
 勝てるわけが、なかった。

「今回はよぉー、俺の新しいカードを試しに来ただけだ。それじゃあな」
「こいつ……!!」

 彼はアンカを睨む。
 そう言う間に、彼は炎に包まれ——消失した。

「ぐっ」

 呻き声を上げると、獅子怒は地面に這いつくばる。
 やはり、負担は大きかったのだろう。

「キイチ君——この件はくれぐれも内密に頼む。奴は——いずれ、私が斃さなければ意味が無いのだ——」
「獅子怒さん——分かってます」
「私の手で、妹を——レミを救い出さねば……どんな手を使ってでも、だ——!!」

 彼は獅子。
 孤高に戦う、獅子。
 例え信頼する後輩に対しても、それは変わらなかった。
 目的は只一つ、大切なものを取り返すため——
 


 
 ***




「——アマツカゼ」
「はいはーい! 何何何、コロナ?」
「また、暁ヒナタが勝った——」

 溜息を彼女はつく。

「これでは、白陽を奪う時も少し苦労しそうだな」
「心配には及ばないってばぁー。《レッドゾーン》は既に幾つものクローンを作っている……それらの力を集結させれば革命なんてゴミカス以下!!」
「そうか。貴様以下か」
「え? ボクひょっとしてゴミカス扱い?」
「燃えるゴミは月水金」
「ちょちょ、ちょ、掴まないで! そのままゴミ捨て場に行くのやめよう! うん!」
「まあ良い」

 《レッドゾーン》のカードを手に取り、彼女は答えた。
 
「ところで、さっきから私達の後をつけている——貴様は誰だ」

 振り向く。
 そこには——少女の姿があった。

「んー、気付かれとらんと思うとったんやけど……カンが鋭いってのはこのことやなぁ」
「何だ、貴様は?」
「えぇやん、そんなこと。うちかて、無暗にあんたらと争いたいわけやないもん。ただ——ちょっち警告しとくわ」

 にこにこ、と笑顔を絶やさずに少女は言う。

「十六夜ノゾムと接触したのは——何が目的だ?」
「んー? 人の話は無視? あんたみたいな子って、何言うても聞かん坊ばっかで呆れて物も言えへんわぁ。でも、そのぶっとい肝に免じて教えてもええよ」

 ふぅ、と息をついた彼女は言った。




「——面白いからや」




 コロナは顔を顰める。
 面白いから。そう彼女は言った。
 単なる楽しみで、単なる娯楽で、英雄を持つ少年・十六夜ノゾムに接触したというのか。

「ほんまやでー。うちは、強い子が好きなんよ。でも、それ以上にデュエマのこと好きな子はもっと好きやねん。それがあんな顔しとったらほっとけんやろ?」
「……貴様は何者だ?」
「サービスはここまでやでー。こっからは”上”からの警告や」

 次の瞬間——言い知れない覇気がコロナを襲った。




「——これ以上、”X”に近づくな」




 コロナは再び顔を顰める。
 X——その意味は彼女自身が一番わかっていた。それこそが自分の目的であるのだから。
 
「あんたの目的は、もう大体わかっとんねん。星のカードを使い、何をしようとしとるん? あれはうちらも狙っとるんやさかい、あんまし勝手なことされても困るんよ。あんたは奴らと違って、話が通じそうやと思ったんやけど——」
「それはこちらの台詞。まさか、そんな警告で私が止まると思っているのか? 貴様の正体は大方分かった。だが同時に——あれを復活させた暁には、貴様らも一緒に滅ぼす所存だ」
「ちぇっ、まあええわ」
 
 呆れたように言うと、少女は踵を返す。





「ほな、次会った時はあんた消すわ。堪忍やで」




 ケラケラ、と薄い笑みを浮かべ——少女は消えた。
 文字通り、虚空へと——

「……奴らは……何をしようとしているんだ?」


 それを見つめ——コロナは溜息をつく。
 自らの理想の達成のためには、余りにも邪魔が多すぎる、と——

「まあ良い。消されるのは奴らだ。私には——この音速の侵略者が居る」
『勿論、ボクもね!』
「黙れ」

 そういうと、コロナもまた——閑散とした離れから姿を消した。
 ——そして、この場には誰もいなくなった。




 ***




「ノゾムさん、凄いです!」
「防御力は革命の中ではかなり強いだろうな。よくやったじゃないか」
「いやあ……オレはそれほどでもぉ」

 ホタルとレンに褒められ、照れているノゾムを後目に、ヒナタはデッキを弄っていた。
 帰りの飛行機の中であるが、次の試合に向けてもう準備をせねばならないのだ。

「お疲れ」
「んっ」

 通路に立っているのはコトハだった。
 自分の顔が覗き込まれているようで、どうにも気恥ずかしくなってくる。

「……どうした?」
「次は、いよいよあたし達の試合ね」
「そうだな。俺に至ってはチームで唯一の連戦やるからなぁ。胃が」
「そんなことでめげててどうすんのよ」

 ぐいっ、と彼女はヒナタの頬を掴むと言った。

「皆、ノゾム君の方に行っててあんたがかわいそーだからこうやって来てやってんのに」
「ひっでぇ言い分だ、いづづづづ」
「……ふん。とにかく、次はあたしも頑張るから」
「気張りすぎんなよ?」
「大丈夫よ——相手はあの有栖川ツグミだから、冷静にいかないと」

 思い返せば、コトハが負けたのも久々な気がする。
 彼女もまた、屈辱を味わっていたのだろう。

「とにかく、海戸に戻ったら特訓よ」
「分かってる……こっちもこっちでデッキ組み直さねえと。今回、完全に超次元はブラフだったけどどうしたもんかね……」
「……そうね」

 ——あたしの革命——
 ごくり、とコトハは息を呑んだ。
 果たして、それが彼の足を引っ張らない戦法に成り得るか。必ず、完成させなければならない。
 ——それに、あいつは——ヒナタの——そしてあたしの——ううううう!! 絶対にリベンジしてやるんだから!!
 コトハがリベンジに燃える中、ヒナタはふと窓の先の空を見た。
 海戸は、まだまだ先だ——