二次創作小説(紙ほか)

Act8:揺らぐ言の葉 ( No.336 )
日時: 2016/08/21 10:04
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

『ヒナタ……最近のコトハの件についてだが』
「? ……ああ。まあ、俺もおかしいとは思っていたよ。思えば7月のオラクリオン討伐の時……まさか、向こうからサービスをくれるとは……ゴフッ」
『おい鼻血』

 きゅきゅっ、と勉強机に置いてある箱ティッシュの1枚をヒナタは鼻に詰めた。
 今思い出しても凄まじい破壊力であったと思う。アレが本当に、中学二年生の身体だろうか、などど不埒な事を彼は考えていたのだった。

『そんなみっともないことを聞いたのではない、お前の持っている、えーっとなんだっけ、そうだ漫画のように鼻の下を伸ばすな』
「いや、これはさっき本当にぶつけて」
『ともかくだ。最近の彼女の様子は、そうだな——恋をしているように見えるぞ』
「ぶふっ、あいつが? あの堅物委員長が? ねーよ、あははは」

 ——はははは、じゃねぇよ有り得るんだよなぁぁぁぁぁぁぁーっ!!
 これにはヒナタも顔で笑って内心で頭を抱えていた。
 彼とて所謂ラブコメで言う難聴系及び鈍感系ではないのだ。
 流石に、此処最近の彼女の様子がおかしいことには気付いていた。
 その原因が恋であることにも気づいていた。
 度々見せる頬の紅潮。
 誤魔化すような態度。

「……相手は」
『む』
「……相手は誰だと思う」
『そこまでは私の見た限りでは分からんぞ』
「そうか」

 だが、しかし。
 イマイチ相手が誰なのかまでは確証が無かった。
 そして、まさか自分ではないだろう、と当の本人は思い込んでいるのだから。

『それよりも、私が心配なのはお前の方だ』
「……俺ぇ?」
『聞いておきたい事がある』
「何だよ」

 白陽は間髪入れずに言った。

『檜山ナナカの事だ』
「っ……!」
『聞いておこう。貴様は、もういないあの少女のことをまだ追っているのか? それが本当のようには私には思えない。貴様は前に、引きずりながら前に進むと言った。もういない幻影に縋る事は、引きずりながら後ずさっているだけだ』
「俺は——」
『問おう。貴様の答えを。貴様は、どうなんだ』

 此処最近になって、彼女の姿がまた鮮明になった。
 それは、他でもない。コトハを意識していたからに他ならない。
 彼女と空気が似ていたコトハのことを——

「……んだよ。それの何がお前と関係あるんだよ」
『最近のお前の顔色が悪いからだ。お前が如月コトハを見る度に——どこか、青ざめているようにも見える。表ではさも普通に振る舞ってはいるが、こうも繰り返されてはクリーチャーとして貴様の心配の1つや2つ、したくなる』

 思わず、俯いた。
 そこまで分かっていたのか、とヒナタは何とも言えない気持ちに陥る。
 
「……多分、無意識ではずっと分かってたんだ。今まではあいつが。鎧龍では——コトハが俺を引っ張ってくれたから。でも、俺には分からない。散々前に進むって言っておきながら、俺は——ナナに似ているコトハを意識しているのか、それともコトハを見て、もういないナナを意識しているのか——ぐちゃぐちゃになって、もう分かんねえんだよ——!!」
『幻影は、所詮お前の心が見せているモノに過ぎないのだ』
「!」
『仲間を喪失した時、親しい者を喪失した時——何か近いモノに投影しようとすることはよくある。だが、お前はもう乗り越えているのだ。最も親しい者を失った悲しみをな』

 ヒナタのサングラスを白陽は手に取る。
 
『この、さんぐらすと言ったか。これは、檜山ナナカが身に着けていたものと同じなのだな?』
「ちょっと色は違うけど、同じ種類のサングラスだ」
『そうか——ならば、お前が一番似合ってる』
「……どういうことだ」
『死者は、何かしらの形で生きている者に何かを託す。今までの話を聞く限りでは——あいつはお前に、お前の思っている以上の沢山の者を託し、そしてお前もそれを認めたように思える。もう、悲しみが繰り返している事は無いはずだ。何故なら——お前自身もそれを良しとしていないのだから』
「っ!」
『今一度考えろ。お前自身の答えを。正解は無い。だが、お前が一番納得できる答えを出せ。お前自身が熟考した末に出す、その答えは決して、お前が都合よく考えた幻想ではないのだ』

 そう言い残すと——白陽はカードの姿に戻ってしまった。
 ヒナタは、ぼーっと考える。
 今までのことを、回想しながら。
 自分自身の答えを出すために——




 ***




「零央学園との試合が近くなった。改めて対戦相手を確認しておこう」

 いよいよ、決戦が間近に迫った日。
 ミーティングにチーム全員を呼び出したフジは、スライドパネルに2人の顔写真を映した。
 1人は、見覚えのある少女。そしてもう1人は——眼鏡を掛けた色素の薄い髪を持つ少年であった。

「——零央学園2年・有栖川ツグミと3年の真胴ハツタだ。奴らの使うのは、改造ならぬ戒造されたオラクリオン。今までのそれとは比べ物にならないということは、もう如月は分かっているはずだ」
「……はい」
「だけど、その分こっちもパワーでぶつかり合う必要があるってことですね。任せてください!」

 がぁん、と拳を掌に打ち付けるヒナタ。
 既にもう、やる気で満ち足りているようだ。
 コトハの方も静かにうなずく。
 今回は観戦側に回るレン達も、胸のざわつきを抑えることが出来なかった。

「オラクリオン零式……一体、どのような戦い方を実戦で披露してくれるのか。美学が騒ぐ」
「美学って何でしたっけ……黒鳥先輩」
「でも、ヒナタ先輩と如月先輩が苦戦するのは間違いないってことだろうなぁ……相当、ヤバそうな匂いがする」
「何であれ、2人の気迫が日に日に高まっている」
「そうだな。テメェら吹っ切れたように最近、キレがいいからな。まあ良い。これも俺様のおかげだな」

 そう言い放ったフジは次の瞬間、2つの殺気を感じた。
 1つは、コトハのデッキケースから、もう1つはヒナタのデッキケースからだ。

「……こほん。まぁいい。最後の試合は海戸マリンスタジアムで行われる。泣いても笑っても、これが日本戦の最後だ」

 思えば、これが世界に行くための最後の関門なのだ。
 
「というのも、今から始まる試合次第でその辺のリスクが変わってくるんだ」
「そうっすよ、早く見たいのに」
「まあ待て。今中継を映すから」

 そういうと、フジはモニターに試合を映し出す。
 聖羽衣は此処まで鎧龍に負けている。対して零央は蓬莱に対して勝利をおさめていた。
 此処で負ければ、もう後は無いが——見れば、開始早々零央の開発したと思われるカードにより切札の早期召喚を許してしまっていた。
 その後も巻き返したりと奮闘を続けていたが——

『試合終了!! 勝者、零央学園!!』

 ——零央学園の二勝を許してしまうことになったのである。
 これにより。
 実質、次の試合。鎧龍対零央戦でどちらが世界に行くのかが決まることになる。

「負けられないわね……」
「いーや、元から負ける気なんてねぇよ、コトハ」
「そうだったわね」

 色々あったが、これが決戦だ。
 2人は頷く。
 絶対に、次の試合で勝利するという決意を再確認するように。

「それでは、特訓あるのみだな!! 気ィ引き締めていくぞ!!」
『はいっ!!』



 ***



 ——画して。カウントダウンは始まった。そして——今、世界に行く者達を決める最後の戦いが幕を開けようとしている。
 只一つの勝者になるため——それぞれの思いを抱え、決戦の日が迫る——