二次創作小説(紙ほか)
- Act10:伝える言の葉 ( No.350 )
- 日時: 2016/08/25 14:58
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
***
「……」
少し、眩しい。光が上から照り付けてくる。
自分はつまり、寝ていると言う事なのだろう——あの後、視界がブラックアウトして——
そんなごちゃごちゃとしたことを考えているうちに、彼女は起き上がった。
「!?」
「あ、起きた」
そして、彼女は思わず飛びのく。
目の前に、ヒナタが居たからだ。
まさか、ずっと傍にいてくれたと言うのだろうか。
「あ、あんたが何で……!? てかここ何処!?」
「スタジアムの医務室だよ。心配かけさせやがって。決闘空間での戦いの後、自分がどうなったのか覚えてねーのか?」
「え、えっと……確か、気を……失った?」
「ああ、そうだ。決闘空間が開いたとこから感知して、あの後すぐにフジ先輩やノゾム、ホタルが駆けつけてきたんだ」
「そ、そうだったんだ……」
「先輩曰く、魔力を大量消費したかららしい。もう少し休んでおけよ」
確かに、今も妙な倦怠感と疲労感にコトハは襲われていた。
それを知った途端に、どさっ、とベッドに落ちる。
そういえば、足の痛みが引いていた。触ってみたが、傷らしき傷も見当たらない。ニャンクスかハーシェルが治してくれたのだろうか。
当のニャンクスは、デッキケースから寝息が聞こえる辺り、もう寝てしまったのだろうが。
「……そういえば!」
「何だよ」
「何だよ、じゃない! あの子は、有栖川ツグミはどうなったの!?」
「ああ、あいつか。あの子の能力については、また詳しく聞くことになるかもしんねーけど、どうやら”サイコマインド”の持ち主だったらしいんだ」
「……何それ」
サイコマインド。
ヒナタ曰く、それはクリーチャーと生まれつき適応率がかなり高い超能力者のことで、特にクリーチャーを実体化させる、またはクリーチャーを引き付けるといった能力を持つらしい。
そして、当初海戸への訪問、自身の所に突如やってきた《アピセリン》の力を心配した零央の関係者によるものだったのだ。
今まで以上に鮮明に力がフィットしたそのカードを、彼女は気に入っていたものの、周囲の人間は得体の知れない力が彼女に悪影響を及ぼすのではないか、と心配したらしい。
そしてまた、検査の為に試合の延期を持ち出したと言う。
「そ、そうだったんだ……」
「この辺りの話は先輩の父さんしか知らなかったみてーだな。クリーチャー関係の話もあって、鎧龍も延期を受け入れたらしい。零央は、超能力だとかPSYについての研究も進めているらしいからな」
コトハにとっても、いきなり情報量が多すぎて分からないことだらけだった。
となれば、ツグミが暴走したのもアピセリンによるものだとすれば納得が行く。
「で」
「……で、って何よ」
「だからさっきの話の続きだよ。2人っきりで話したいこと、あったんじゃねえのか?」
「あ、いや、その」
彼女は言い淀む。
確かに今、この部屋は自分たちしか居ない。2人っきりだ。
他の面々は帰ったか、今回の件についての対応に追われているのか。
しかし、タイミングが邪魔されてしまっただけあって、勇気が出ない。
と、次の瞬間であった。
ガチャリ
「おーう、テメェら。そろそろ良いか?」
入って来たのはフジであった。
「武闘先輩……!」
「如月。ご苦労だったな。具合はどうだ?」
「もう大丈夫です」
「そうか……あの後、少しお前の持っていたニャンクスのカードを調べたが、やはりニャンクスとお前の波長が一致した結果、アップデート——つまり純粋強化された状態らしい。それで体が少しついていってなかったのかもしれねえ。だがもう心配無用! 多分、次からは慣れて倒れることもねえはず」
「はぁ……」
「そして、デッキに”超技呪文”も入っていた。これを使うことも出てくるかもしれねえな」
「超技、って白陽とかクレセントちゃんの?」
「そうみてえだな。やったじゃねえかコトハ」
こくり、とコトハは頷くばかりだった。
しかしさすがにその表情にも、もう疲れが見えていた。
「どうする? 家族は呼ぶか?」
「いや、大丈夫です。自力で帰れますから」
「だがせめて、ヒナタ。お前途中まで付いていってやれ」
「言われなくてもやりますよ。流石に心配ですから」
彼女の身の安全も考慮し、結果的にヒナタがコトハを途中まで送っていく、ということになった。
さっきのこともあり、彼女もそれで同意する。
「それじゃあ、詳しい事後処理についてはまた後々、な」
「はい」
「此処もいつまでも開けているわけにはいかねえ。やべえなら病院行くなりしておけ。足はハーシェルが必死こいて治してくれたから、またホタルと奴にお礼を言っとくんだな。レンやガキんちょ共はもう帰したから」
「分かりました」
それじゃあ気を付けて帰れよー、と言い残して彼は去っていく。
有栖川ツグミのことや、ニャンクスのこと。
情報量が多すぎて纏めきれないが、またすぐに聞けることだ。
取り敢えず今は——
「帰ろっか」
「そうだな。だいぶ遅くなっちまった」
***
夏とは言え、やはりこの時間になると陽も当たらないので涼しくなってくる。
夜灯や建物の電気が彩る、暗くなった街で何も言わずに2人は歩いていた。
というか、この男はどれだけ鈍感なのだろうか。恥ずかしげも臆面も出さずに、「2人っきりで話したいこと、あったんじゃねえのか?」などと言い出すのだから。絶対に気付いていない。気付いているとすれば絶対わざとだろう。
もう嫌だ、地面に埋まりたい。出来れば、さっきのことは蒸し返さずにもう1回無かったことにして仕切り直すつもりだったのに、コトハは完全に逃げ道が無くなってしまっていた。
バス停についたところで、足を止める。
ニャンクスに言われた事を思い出す。
もう、自分に嘘をついて苦しみたくはないのだから。
「ねえ。ヒナタ」
「何だ?」
俯き加減になって、恥ずかしそうになってコトハは言う。
「”あなた”に伝えたい事があるの」
これは千載一遇のチャンス。今此処で言うのを逃せば、もう次は無いのかもしれない。
ぐっ、と拳を握った。
胸の鼓動が高鳴り、速いテンポを刻んでいく。
言わなければ。言わなければ。
此処で彼に伝えなければならない。
深呼吸した。
今、正面に居る彼の瞳を見据える。
今言える、自分の言の葉に乗せて——
「暁ヒナタ——あたしは、あなたのことが、好きです」