二次創作小説(紙ほか)
- Act1:揺らめく影 ( No.353 )
- 日時: 2016/08/26 00:52
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
——D・ステラ予選は終わり、そして夏休みも終わった。
画して。ヒナタ達は新学期を迎えたのである。
その帰り道。壮行式だの何だのを終わらせて疲れ切った体と頭で、暁ヒナタはこんなことを考えていた。
「……付き合う、って何だ?」
そんな質問を此処数日、彼は自問自答していた。
画してコトハに告白され、そして彼女の事をもっとよく知るという名目で交際をOKしたヒナタであったが、結局あの後コトハから彼のところに来ることは余り無かった。
彼女も流石に照れていたのだろうか。
——コトハが可愛い……可愛すぎて辛い……今までこんなことあったかよ畜生。
そして彼も年頃の少年、悶々と此処最近そんなことばかり考えてしまっていた。D・ステラの事半分、残りは全部彼女の事ばかりだ。
最後のあのキスといい、その後に言った言葉といい、完全に彼をノックアウトさせるのには十分だったのだ。
「ヒナター? 今良いかな……」
「うええ!?」
ヒナタは振り向く。
見れば、そこにはコトハの姿があった。既に顔を赤らめ、後ろで手を組んでもじもじとしている。
そして、上目遣いでこちらを見上げるようにすると、押し出すように言った。
「何よ……そんなにびっくりしちゃって」
「あ、いや……そのだな……」
「まあ、いいや。やっとあなたと2人になれたよ」
「そ、そうだな……」
「何よ恥ずかしそうにしちゃって。あたしも、ちょっとあの後気まずかったっていうか……冷静に考えたらキスは大胆すぎたっていうか……で、でも、反省はしてるけど後悔はしてないから! うん!」
「前のお前が見たら不純異性交遊禁止だとか言ってキレそうなもんだけどなぁ」
「ふ、不純じゃないから! 純愛だから問題ないわよ!」
……こうもやたら前向きなのも困りものである。
正直、まともに彼女の顔を見ることが出来ない。
「まあ……嬉しかったよ。こんなに俺の事好いて貰ってたんだなぁって……」
「あ、いや……その」
それを聞いて、再び彼女の顔が耳まで赤く染まる。
そして、うつむき加減になって言う。
「と、とにかくさ。一緒に帰ろうよ。そしたら、ちょっとは交際してる男女っぽくなるんじゃない?」
「そもそも今までが今までだしなあ……何を基準として交際してる男女とするか……全く分からん」
「今までが少し距離が近すぎたのかなぁ……えへへ」
「……ま、出来るだけ俺もお前の近くにいてやるよ。学校ではどうするか、まだ決めてねぇけど。クラスもちげーし」
「そうだね……でも、あたしも嬉しい。ヒナタが逃げないで、あたしと向き合ってくれたこと。本当に感謝してる」
「……コトハ」
——ほんとこいつ、可愛いんだよな……。
物凄い加護欲に襲われる。愛らしい、の一言であった。
今までの凛とした堅物女のようなイメージが、一気に覆されていく。
「でも、何か忘れてる気がするんだよな……何かすっげぇ大事なことを——」
「え? 何よ」
「あ、そうだ。ノゾムやホタルにはこの事何と言おうか」
「別に公認で良いのよ?」
「あのなぁ……俺もお前に乗った形にはなったけど……まあ、うーん。しかし、これじゃない。本当に何かを忘れてる気が——」
——それは僕の事かぁぁぁぁぁーっ!?
怨念だらだら、瘴気ダダ漏れ、血走った眼でレンはヒナタとコトハを睨んでいた。
——そういうことだったのか、おのれヒナタめ!! コトハめ!! あいつら、いつの間に僕を差し置いて!! 予選が終わったあの日の後、やたらと気まずそうにしてたのはそのためか!? クソッ、声を掛けるに掛けられないではないか! もういい、マンホールの下に引き籠ってやる!!
『黒鳥レン。これは所謂ストーカーというヤツではないですか?』
「違う、違うぞアヴィオール……これは断じてストーカーではない」
「ママー、あの人何やってるの?」
「シッ、見ちゃいけませんよ!」
そんな親子の会話が聞こえてきたが、気にせずにレンは電信柱の後ろに隠れて2人の様子を窺うことにする。
今までの仲良し3人組が、カップル+その他1名になってしまったという衝撃の事実を前にして、レンは嘆きを隠せなかった。
ああ、これを理由にまた闇落ちしてしまいそうだ。
闇使いが闇落ちとは、世も末である。
『ま、まあ……黒鳥レン。落ち着いてください』
「仲間はずれ……僕だけボッチ……ボッチ……おのれ……」
『正気に戻れ!』
ガコン、という音と共に鞘を被ったアヴィオールのガンブレードが彼の脳天を捉える。
そのまま一瞬地面に伏せたレンであったが、頭を抑えて再び起き上がったのだった。
「ああ……僕は一体どうすれば良いのだ」
「おーい、レーン。もう良いから出て来いよ!!」
レンは、がくり、とずっこけた。
***
『やれやれ……手の掛かる奴らだ。何であれ大成功だなニャンクス』
『そうですにゃ。若干荒療治になりましたけど、”チキチキキューピッド作戦☆”無事完了ですにゃ!』
『その代わり、悪霊みたいな顔をした男が後ろから憑いて来ているが良いのかアレ』
『……白陽様。アレが所謂リア充には一生理解できない感情ですにゃ』
『成程、理解不能だ』
若干遠くからその光景を眺めていた白陽は頷く。
『人の主人を悪く言わないで欲しいモノですね、白陽。ニャンクス』
『何だ。居たのかお前も』
見れば、そこにはアヴィオールの姿があった。
『その主人はどうしたんだ?』
『お宅らのマスター2人と喫茶店に入っていきましたよ。この商店街、なかなか活気があって良いですねえ。私の世界の街も、もっと賑わっていれば良かったのですが。と、話がそれた。要は貴方たち、最初っから組んでて暁ヒナタと如月コトハの仲を取り持ったと言うことですかね?』
『ああ……いや、それは……流石に、コトハ様のことが心配になってですにゃ』
『仕方がないだろう。自分の相棒があんな調子では、こちらまで気分が狂う』
『マスター思いなんですねぇ。まあ、良いでしょう。ただ——そろそろ呼ばれそうな気がしますねぇ』
意味深気にアヴィオールは呟いた。
『ボクの主人、あれで案外寂しがりやなので』