二次創作小説(紙ほか)
- Act1:揺らめく影 ( No.354 )
- 日時: 2016/08/27 09:19
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
『寂しがりや、か。それは良いのだが——』
白陽は言う。
そして、その方向へ指を指した。
『……アヴィオール。勘違いしているようなら言うが、”誰もお前の主人の話はしていない”ぞ?』
『……え』
『確かにお前の主人もアレだったが——少し、話の内容と時間が食い違っているところから察して——まあ、何だって良い。後ろのアレを見ろ』
『……全く以て不快なのですにゃ』
『どれ……あ』
ようやくここでアヴィオールは気付いた。
白陽達は自分の主人の事を悪霊呼ばわりしていたのではない。
真の悪霊は、更にその背後に潜んでいた——
***
「すまん。つい、取り乱した。余りにも衝撃的だったので冷静さを欠いた。ストーカー紛いの行為を働いたことも謝る」
「いや、それは良いんだよ」
「う、うん。黙ってたあたし達も悪いしね」
優しい世界。
「まあ、元々貴様らは全く進展しないからこちらとしてもやきもきしていたのだ。いずれは分かっていたことだ……いずれは」
「無駄に重いんだけど無駄に」
喫茶店の一角で、レンはコーヒーを啜りながら言った。
とはいえ、流石の彼も本当にくっついたという事実を前にしては、やはり驚きを隠せなかったらしい。
あんな奇行に打って出ることは、あまりない。
「……さて、本来ならばな。貴様等2人にあることを伝えようと思っていたのだ」
「あること?」
「何よそれ」
「貴様等——今、誰かに付き纏われているぞ」
思わず、2人は顔を見合わせる。
「お前じゃなくて?」
「僕ではない。実は、僕の後ろに更にコソコソとしている輩が居た」
小声で言ったレンは店内を見回す。
そして、窓を見た。だが、此処からではよく外の様子が見えないらしく、安堵の息をつく。
「あたし達を付け狙っている輩? 多すぎて誰なのかさっぱりだわ」
確かに、今考えられる限りでもアンカ、コロナと2人居る。
他の邪悪龍の事も考えれば、もっと居るのだ。誰が犯人なのか、さっぱりわからない。
どうやら、2人を助けようと思った矢先にこれだったので、彼の心の深淵が更に深くなったと言う。
「ヒナタ。コトハ。最近、身の回りで変わった事は無かったか?」
「何にもねーよ」
「あたしもよ。絡みのウザいバカ兄貴が最近、合宿から帰ってから余り姿を見せなくなったくらいだわ。ま、個人的には面倒事が減って万々歳なんだけども」
「絡みのウザい兄貴……ああ、如月シュウヤ先輩か」
「じゃあ、何も問題ねえな」
「そうよね、考えすぎよね」
あははははは、と笑い飛ばした後、ヒナタとコトハは目を伏せた。
——何だろう。すっげー嫌な予感がする……。
——何か、もう既に嫌な予感がするんだけど……。
「どうやら心当たりがあるようだな。では、一旦ここを出るか——クロを炙り出しに」
***
——クククク……この迷彩を舐めるなよ……!! ブロック塀に張り付いているだけで、人がいるのか分からん。顔も同じ色に化粧してあるし、絶対にバレん!!
「ママー、あの人何やってるの?」
「シッ、見ちゃいけませんよ!」
——絶対にバレん! こうして電信柱の後ろに隠れ、コソコソと後を追ってきた甲斐があった!!
成程、確かにバレてはいない。少なくとも、後ろからこそこそと近づく分には。
しかし、動いた時点で通りかかった人にはバレているということに何故気付かないのか。
——しかぁぁぁし!! 妹に彼氏が出来ているとは!! しかも相手はあの暁ヒナタ!! やはり2人は結ばれる運命だったのだ!! つまり、私には2人の愛の云々を監視する義務が——む、店を出て来た? 何か黒鳥レンもいるし、こっちに来る? まあ良い、こちらが見つかるわけが
「白陽、幻炎」
「どわっちゃあああ、あづ、熱ゥ!?」
急に焼けつくような痛みと熱に背中から襲われたそれは倒れ込む。
見るもあっけないバレ方であった。
目の前には、ヒナタとレン、コトハの3人が並んでいる。
完全に、彼の行為は白昼の元に晒されることになったのである。
「如月シュウヤ先輩……これがどういう事か、説明を願おうか」
「まーた、あんただったのか……マジで何なんだ本当」
「おい、兄貴。そこに直りなさい。ええ、妹のこの怒りの拳一発で楽になれるわよ」
「ま、待とう、君達!! 落ち着き給え!! だからと言って火を付けるのは……あれ? あれ? 熱くないし、何処も焼けてない?」
迷彩服を脱ぎ捨てるも、それは全く焼けた形跡が見当たらない。
理由は簡単、白陽の幻炎によるものだったからである。
さて、この如月シュウヤという男について説明せねばなるまい。
彼は言うまでもなく、コトハの兄だが重度のシスコンを拗らせており、その所為で妹には嫌われている。しかも、全く心が折れないダイヤモンドのメンタルを持つ恐怖のシスコン。彼女に近づく悪い虫は全て焼き落とすモンスターブラザーである。
そして以前も、鎧龍サマートーナメントでヒナタ達のチームと戦った際にヒナタに難癖を付けたもののコトハに惨敗するという醜態を見せているのだ。
その後、勝手にヒナタを妹の花婿として認める勝手っぷり。彼女の鉄拳制裁を食らって轟沈したのは言うまでもあるまい。
一応、デュエルの実力はそこそこあり、しかも生きたクリーチャーの存在も認知している数少ない人物ではあるのだが。
「何をしていたのか聞きましょうか」
「フフフ、我が愛しの妹に彼氏が出来たらしいからな。それが誰なのか……何処の誰ともわからない馬の骨ならこの世から細胞も残さず抹殺してやるところだったがまさか暁ヒナタだったとは。そこで2人の様子をストーキング、もといリサーチしていたのだ」
「よし、警察に通報しようぜこの人」
「待って!! やめよう!! 世界は憎しみの連鎖では救われないぞ!! クリーチャーまで持ち出しやがって、卑怯者め!!」
「憎しみの連鎖を生み出しているのが自分だと気付いていない典型的なバカだ!! 好い加減にしてこのクソ兄貴!!」
とまあこのように、白陽やニャンクスも見えているのである。
「ふっ、ニャンクス。従者ならお前、俺にフォローの1つでも」
『僕が仕えるのはコトハ様だけですにゃ。どうか永遠なる眠りを』
「クッ、おのれ……いつも家でもそうだ、俺の邪魔ばかりをしてからに!!」
『日本は兄妹でも結婚出来るとか適当なこと抜かすお前をコトハ様に近づけるわけにはいかないのですにゃ』
『ヒナタ、こいつ今度は本当に燃やしていいか』
「もう、それくらいやらねえと駄目かもなあ」
とまあ、相変わらずのダメ兄っぷりだった。
兄の言う通りになったということは癪に障るが、取り敢えずこの男、一発締めねばならないらしい。
「では、こうしよう!! 愛しのコトハか暁ヒナタが俺とデュエマをし、勝ったらやめてやらんことも無い」
「勝手にルール決めだしたし、もうなんなのよ!!」
「はははは!! 確かに、今の俺にはアウトレイジはもう居ない!! しかし、我がデッキはこの1年間でパワーアップしている!!」
そしてこの男、話を聞かない。勝手にデュエルで決着を着けようとしている。
好い加減、ヒナタもコトハも彼に辟易してきたその時であった。
「良いだろう。その勝負——この黒鳥レンが代わりに受けて立つ」
思わず、耳を疑った。
この勝負に代理として名乗りを上げたのは——まさかのレンだったのである。