二次創作小説(紙ほか)
- Act1:揺らめく影 ( No.362 )
- 日時: 2016/08/28 02:06
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
***
デュエルはレンが勝利した。
圧倒的なステラアームドの力を前にして。それはもう容赦の無い屠り方であった。
ステラアームドを持っていない一般生徒相手にこれをぶつけるとは、流石レンである。
「くっ、そんな馬鹿な……この俺がいとも簡単に……良いだろう、負けを認めよう……」
言った彼は立ち上がる。
そして、ふらふらとその場を去ろうとする。かなり憔悴しているというか、大袈裟な仕草で明らかにダメージを食らったような表情で彼はコトハの方に向き直って言う。
「グッバイ、愛しのマイシスター……お兄ちゃんは、クールに去るぜ」
「……」
——一体、今ので何のダメージを食らったのだろう……。
——レン。お前は気にしなくて良いぞ。
——……。
しかし。そんな中、声を掛けたのは——
「ねえ、待ちなさいよ」
——意外にも、コトハであった。
駆け寄ると、兄に彼女は言い聞かせるように語る。
「確かに兄貴には酷いこと言ったりとかしたけど……それはあんたがやりすぎるからよ。いつも。ちょっと自重してくれればいいのに。兄貴が心配性なのは今に始まったことじゃないんだから、あたしはそれでいいわ」
「俺は……お前が心配なんだ。女の子のお前が、危ない目に遭わないか、それを考えると来る日も来る日も不安で……」
「もうあたしは、あんたが思ってる程子供じゃないわ。確かに、まだ中学生だけど。もう大きくなったんだもの。ヒナタもレンもいるし、あたしはもう大丈夫よ」
「……コトハ」
「だから安心して、距離を置いて見守ってくれれば——それでいいの。……後、他の人に迷惑を掛けさえしなければ」
がくり、と膝をつくとうっ、うっ、とシュウヤは溜飲を飲んで涙を流す。
「ちょっと、泣かなくてもいいじゃない」
「コトハ……大きくなって……去年くらいまでは口も利いてくれなくて、本格的に嫌われてると思ってて……やっとこの間から真っ当に口を利いてくれるようになった途端にお前が色気づいてたから……不安になって」
嫌ってばかりだった兄だったが、度が過ぎるだけで心配性なだけだったのだ。
コトハもまた、それを理解していた。
……理解していたからこそ、他人に迷惑を掛けるような真似は止めて欲しかったのであるが。
「だからさ。こういうことさえやめてくれれば、良いのよ。恥ずかしいし……普通に、兄として接してくれるならそれで良いんだってば」
頷くシュウヤ。
それに対し、微笑んでコトハは返してみせる。
「……だって、あんたは世界に1人しかいないあたしの兄貴なんだから」
「そうだな……そうするよ。今度から、愛の狩人としてお前を」
「兄貴」
「すいませんでした」
画して。
このシスコン兄貴が起こした一連の事件は一旦収束に向かったのである——
——いや、何か良い感じの話で締めようとしているが、この兄の処遇はどうするのだ。
——良いんじゃねえの? 別にさ。あいつも、向き合おうとしてるんだよ。
***
画して。負けを認め、コトハとも和解したような形になったシュウヤは先に帰り、3人はぎりぎりまでデッキ調整をしていたのだった。
「今日は皆に迷惑掛けちゃったわね。特にレン」
「僕は別に問題は無い。新しいデッキの調整が出来たので丁度良かった」
『流石黒鳥レン。実に素晴らしいデュエルでしたよ』
「僕はまだ未熟だ。そう褒めるな」
「だけど圧倒的だよなあ……ドラグハート。こっからさらに、相手が侵略なら革命も生きてくるわけだろ?」
「シールドが減るから、まあそうなるな」
彼のヘルボロフデッキは、チャージャーを積めばマナもある程度伸びやすいらしく、実戦での応用力はかなり高いらしかった。
「俺達もレンに負けないように頑張らねえとな、白陽!」
『全くだな。お前には絶対に負けんぞ、アヴィオール』
『クックッ、白陽。ボク達も更に強くなるのでそのつもりでお願いしますよ?』
『僕達も頑張らないと、ですにゃ! コトハ様!』
「そうね。ヒナタ! あたし達がライバルってのは、変わらないんだから!」
「ああ、それだけは絶対に変わらねえよ!」
「僕の事も忘れては困る。D・ステラで鎧龍が世界一になった暁には、貴様等も斃し、僕が頂点に立つ。闇の美学の下に、な」
少し、関係は変わったかもしれない。
しかし、この3人がライバル同士というのは3人がデュエリストである限り不変の事実だ。
案外——レンの心配は杞憂で終わったのである。
——やれやれ。僕もまだ未熟だな。
***
さて、レンとも別れて再び2人きりになる。
少し暗くなった空の下を、ヒナタとコトハは歩いていた。
「兄貴も根は悪い奴じゃないのよ……ちょっと色々拗らせてるだけで」
「分かってるよ。かなりアレだけど」
「……昔は仲良かったわよ。でも、年頃の妹に少し過干渉過ぎるんだもの」
と、そこで2人は立ち止まる。
夕暮れの小道で、2人は辺りを見回した。
「なあ、コトハ。少しおかしくねえか?」
「……奇遇ね。あたしもそう思ってた」
『気を付けてくださいにゃ……!』
『何かが、”来る”……!』
次の瞬間、空が斑に変わる。
そして——道行く人々の姿が消えた。
周囲は異様な空気に包まれており、自分たち以外がこの空間に居ないという事実が不安を煽りたてる。
「これって……!! 前にもあったわよね!?」
「周囲の空間と俺達のいる此処が分離してるって奴だろ!? 一体、どこのどいつが……!?」
「あ、先輩方!」
たったっ、と誰かが駆けてくる。
近づいて来る声、そして姿形から見るに——それはホタルのようだった。
「ホタル!」
「あんたも巻き込まれたの!?」
「そ、そうなんですよ……困っちゃいますよね、これ。いったい、どんなクリーチャーがこんなものを……」
『全く、怪しからんわい』
はぁ、と溜息を困ったようにつくホタル。どうやら彼女もいきなり巻き込まれた形になったらしい。ハーシェルも近くにいる。彼女を守るようにして傍にいた。
ヒナタのシャツの袖を掴むと続ける。
「……後、先輩。ノゾムさんは見ませんでしたか? いれば良かったんですけど……」
『全く何処に行ったのやら、じゃのう』
「? いなかったぞ。俺達は見てない」
「そうね。今日はまだ見てないわ」
そうですかぁ……と残念そうに彼女は言った。
そして——
「——それじゃあ、少し動かないでくださいね。先輩」
——次の瞬間。
ヒナタの肩を貫いていたのは、他でもないハーシェルの一本角だった——