二次創作小説(紙ほか)

Act2:疑惑 ( No.363 )
日時: 2016/08/28 13:08
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 声にならない絶叫が響き渡る。
 角が肩から抜かれると、同時にヒナタは地面で余りの痛みにのたうち回っていた。涙で顔が濡れ、気を失う程に強い激痛を無意識に抑えるためか、右腕を左手で掴んで悶えていた。

「ヒナタ!! ヒナタ!? 」
『じっとしていてくださいにゃ! ま、麻酔を! アスクレピオスの魔法陣!!』
 
 言うと同時に製薬能力を使い、麻酔薬を精製しようとするニャンクス。そして、生み出されたそれを傷口へ直接魔力の弾として撃ち込んだ。
 一方、

『おのれ貴様等……許さん!!』

 飛び出したのは白陽である。
 呪符を大量にばら撒き、それらがビットの如くハーシェルとホタルを追い越したかと思えば、背後から追尾していく——

「——ハーシェル」
『むんっ!!』

 ——しかし次の瞬間、障壁が現れる。
 そして、地面を蹴ると同時に呪符が後ろから迫ってくるにも拘らず、その方向へ後退した2人は、それらを展開した障壁で全て跳ね返すと余裕そうな笑みを浮かべた。

『こいつ……流石ハーシェルだ。何と言う硬さ……!! 誘爆系の技ではやはり効果が薄いか!!』
「い、いつつつつ……ぎゃあああああ、肩にぽっかり穴が開いてるぅぅぅーっ!?」

 ようやく痛みの引いたヒナタが、真っ青になって傷口を見て絶叫する。(かなり強い)局所麻酔と鎮静剤を使ったからか、冷静になったのは良いが、それと同時に自分の置かれている状況のヤバさを再確認した。

『僕はハーシェル様じゃないから、怪我を即座に治す事は出来ませんけど……』

 ブレザーとシャツを脱がせ、傷口を露出させる。
 ヒナタは再び驚くことになった。
 骨が露出しており、血は噴き出し、とてもグロテスクになっている。

『動かないでくださいにゃ』
「や、やべえ、これ麻酔掛けてるんだよな? それでもじんじん痛みが……」
『……”白蛇の祝福”!!』

 次の瞬間、傷口から肉芽が現れる。
 白蛇の祝福は、ニャンクス曰くその生物の自然治癒力を早めるという魔力薬で、ハーシェルのように即効で治せるわけではないが綺麗に後遺症もなく怪我を治せるという優れものらしかった。
 
『後はそのまま、安静に!』
「いや、だけど——このまま奴らに1発……!!」
「駄目だからね!?」
「わ、分かったから……」
「麻酔で麻痺してるからしばらく右腕は使えないかもですにゃ」
『ニャンクス! ダメだ、こいつら……! 強い……!』

 こちらへ引き下がってきた白陽が息を切らせながら言う。
 ホタルとハーシェルは、表情を変えずに言い放った。



「……先輩方。くれぐれも私の邪魔はしないでくださいね? それだけ警告しておきます」
『さもなくば——今度は左胸を我が角が貫くだろう……』



 そう告げると——深淵に包まれて彼らはその場から消失する。
 同時に、空間も解除され、後には疲労で息を切らせるヒナタと、コトハの姿があった——

「な、何でホタルが……!!」
「分からねぇ……! 痛つつつ……傷がやっぱ、疼くな……」

 もう、すっかり日も暮れていた。
 周りには誰も居ない。此処から推測されるのは、あの空間を開いたのはホタルで、自分たちは彼女に警告されたという形になったこと。
 
『ともかく、応急処置を、ですにゃ!』
「うお、救急箱とか持ってたのかお前」
「許さない……ヒナタにこんなことを……」
「お、落ち着けってコトハ」

 小さくなってきた傷口に、消毒液を付けたガーゼを押し当て、包帯を巻きつける。
 後はこれで、さっきの白蛇の祝福もあって、2日もすれば完治するらしかった。
 しかし、それでも収まらないのはコトハだ。
 露骨に怒りを表している。

「……でも、信じられない。ホタルちゃんがこんなことをするなんて……」
「……様子がおかしかった。それに、マナの動きもあいつらとは若干違っていた」
『ヒナタの言う通りだ。”似て非なる”と言ったところか』
「だけど、それじゃああれは一体何!? ホタルちゃんとハーシェルの人格までそっくりに似せてたし……」
「どっちにしたって、仲間は疑えねえよ。幾ら目の前に居たのが瓜二つでも、魔力の動きがちょっとでも違えばそいつは別人だ。奴らは何かのクリーチャーだと俺は思ってる」
「……」
「どっちにしたって、俺は良かったよ。お前に怪我も何も無くてさ。代わりにお前に怪我があったりしたら、それこそ俺は、お前の兄貴に合わせる顔がねぇよ。だから、これで良かったんだ。2人共無事だった以上、後は犯人をとっちめればいい」
「……」

 彼女は押し黙る。
 そして、ヒナタの方を見据えた。
 


「——悔しいよ……それでも」



 途中まで、完全に姿形が同じこと、喋り方が同じ事で気を許した。
 本性を現した辺りでようやくマナの流れが微妙に違うと気付いた程だった。

「……あたしだって、そんなの同じ気持ちだよ。今ヒナタが受けた痛みを、あたしが代わりに受けてやれれば——」
「だけど、もしもお前が怪我なんかしたら——それこそ俺は——」
「分かってるわよ。……だから、あたしも守れる人になりたい。守られるだけじゃなくて——あんたみたいな人間に」

 そう言うと、彼女は歩を速める。

「……ごめん。ちょっと疲れちゃった。変よね。頑張ったのはヒナタの方なのに。先に、帰るわ」

 ふらり、と彼女はバス停の方まで駆けていく。
 その後ろ姿を見るのは、とても辛かった——




 ***




「……一体、誰がこんなことを」
『分からない……今のままでは、さっぱりだ』

 机に突っ伏しながら、ヒナタは言った。
 上手く家族に完治するまでに怪我を隠し通せるだろうか。
 ニャンクスの薬が効いたのは間違いないが。

「白陽……お前はどう思う」
『どう、とは何だ』
「もしもクレセントがお前を庇って傷ついた時は——どうするんだ。今日は、俺が一方的に狙われてやられたから少しちげーけど……」
『……分からない。死ぬ時は一緒だ、と決めた仲だ。それに、我々なら力を合わせれば大抵の敵は倒せる』
「……それもそーだったな」
『今までにそういう場面が無かっただけに、私でも分からんが』

 しかし、どういうことだ、と白陽は言った。

『やはり私には、あの2人のマナがかなりホタルとハーシェルに似ていたことに違和感を隠せない。クリーチャーが化けていた可能性を考えることは出来るが、そうなれば奴は一体——? 幾らなんでも、あそこまで魔力の流れをコピーは出来ないはずだ。微妙には違うから偽物だとは分かったが……』

 ともかく明日。
 ホタルやノゾム、そしてレンも集めて話す必要がありそうだ。
 後、余り呼びたくはないがフジも呼んで——