二次創作小説(紙ほか)

Act2:疑惑 ( No.364 )
日時: 2016/08/29 07:21
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「——私が先輩達を?」

 翌日の放課後。武闘ビルにレンとノゾム、そしてホタルを呼び出すことになった。フジも勿論一緒だ。
 そして早速、ヒナタは昨日の出来事をホタルに伝える。
 それを一通り聞いた彼女はうんざりしたような表情で言った。

「……有り得ないです。言いがかりはやめてください」
「先輩も何言いだすんすか!! ホタルがそんなことをするわけないっすよ!」
「言いがかりってそんな。例えじゃねえ。本当に、お前とよく似た奴だって言っただろ。姿形、声も全く同じだったらしいけど、微妙に魔力の流れが違ってた。それに角で刺されたってのも事実だ。だけど、お前本人じゃねえってことも確かなんだ」
「な、何だ……そういうことだったんすか」

 現に、と言ってヒナタはカッターシャツを脱ぐ。その下はランニングシャツで、肩が露出してるが——包帯とガーゼで巻かれていた。そこには、血がにじんでいる。
 それを全て取って、ヒナタは傷口を見せた。
 確かに両面貫通しており、形もある程度太くて先がとがったもので突き刺されたような形状だ。今はもう、ニャンクスの薬のおかげもあってか治りかけていたとはいえ、まだくっきりと跡が残っている。
 更に、抉られたような傷の形も、螺旋状に渦を巻いているハーシェルの角で刺されたことをはっきりと示していた。

『むぅ……ヌシの言う事に嘘は無い。真実じゃろう。こんな傷は、ワシの角に突かれでもしなければ出来んだろうな』
「その言い方だと——」
『無論だ。ワシらが何故ヌシらを襲うのだ。理由が無いじゃろう』
「だよな。ちょっとでも疑うような言い方になったなら謝る。一応確認のために、な」
「……酷いです。私達の姿でそんなことをするなんて……」
「ああ。ぜってー許さねえ!」

 悲しそうな表情を浮かべるホタルに、露骨に怒りを見せるノゾム。
 当然と言えた。
 さて、此処まで黙っていたフジがようやく口を開く。

「ヒナタ。如月。そいつらは何か言っていたか?」
「”先輩方、私達の邪魔をしないでください”ってところですね……気になるのは」
「邪魔って何の邪魔だろ。つか、呼び方まで同じって」
『それが分かれば、敵の目的も分かるのだがのう。残念じゃて』
「しかもマナの色、形も似ているのか……しかし、あくまでも似ているだけ程度らしいが。やれやれ。世界に行く前に、もう一仕事ってところだな。日本を離れる前に、今回の件は絶対に解決せねばならん」
「……ヒナタ先輩、如月先輩!」

 必死な表情を浮かべて、名乗りを上げたのはホタルだ。
 何をしようとしているのは、もう2人には分かっていた。




「——今回の事件、私が必ず真相を突き留めます!」



 全員も、彼女の言う事には概ね賛成だ。
 誰がどうしてこのようなことをしたのかは不明であるが——

「……勿論、オレも協力するよ、ホタル! オレだって、同級生に擦りつけるような真似をしたやつをぶっ飛ばさねえと気が済まねえ!」
「ノゾムさん……!」

 どうやら、やる気らしい。
 危険も当然伴うが、そんなことは今までもあったことだ。
 ——まあ、流石に本人の前で偽物が出てきて不意を突かれることはねーだろうし。

『肉弾戦のプロであるクレセントが居るならば、安心だな』
『ですねえ。でも、どうしましょうか。ハーシェルの装甲はかなり堅牢なんでしょう?』

 以前、話を聞いていたアヴィオールは言った。
 クレセントの鉄槌を以てしても、ハーシェルの鎧を砕く事は敵わなかった、と。
 振るえば空気が裂け、一瞬で相手を抉り消す彼女の鉄槌攻撃が、通用しなかったのだ。現に、障壁を張れば白陽の呪符攻撃も全く通用しなかったので、どんな攻撃に対しても高い耐性を見せている事は間違いない。

『本物に贋作が負けてたまるものか。ヌシなら出来る。それに、ワシも一緒じゃよ』
『そうだね。あたし達に任せてよ!』
「あたし達はどうする? ヒナタ」
「僕達だけが何もしないと言う訳にはいくまい」
「俺達も別方面から探りを入れてえな。クリーチャーが関係する事件が起こったとき、絶対に関連するように何か異変が起こっているはずなんだ。特に今回、向こうから忠告を入れてくれてるおかげで、それが分かりそうなんだよ」
「……此処最近の異変、か……それについては、俺様の方から調べてやろう」
「お願いします。フジ先輩」
「後は、引率で黒鳥が行け。ヒナタと如月は一回奴を見ている。そしてこいつら相手では少々光文明のハーシェル相手には厳しいだろう。リアルファイトに於いても、デュエルに於いても、な。少し、時間を置いた方が良いかもしれん」
「了解しました」

 画して。
 直接犯人を追う役目をホタルとノゾム、レン。
 別方面から犯人が何をしようとしているのかを突き止めるのがフジとヒナタ、コトハの3人となったのである。

「つーわけでヒナタ、如月。お前ら2人は残って、ちと手伝ってくれ——野放しには、出来んのでな」



 ***




「新学期早々、こんなことになるなんてな……びっくりだ」
「……そうですね」
「ともかく、この辺りから探していくか。昨日、コトハ達が奴と出くわしたポイントが此処らしいが」

 この地点自体は、人がそこまで通るわけではない。道が細く、いわばバス停までに繋がる小道だ。そこから、ノゾム達は犯人が再び此処を訪れていないか探していた。
 しかし、この先を抜けると多くの通行人や通勤者が入り交う大通りに辿り着く。
 
「アヴィオール!」
「クレセント!」
「ハーシェル!」

 3人のクリーチャーが姿を現した。
 そして、辺りに怪しい気配が無いか、探し出す。
 眼を閉じ、感覚のままに反応を探すが——

『……ダメですねえ。どうやっても何も出てきません』
『昨日此処に居たと言う形跡は確かにあるぞ。その後、何処に向かったのかは知らんが……』
『……ん? 何コレ』

 突然、クレセントが耳を澄ませた。
 そして——耳を塞ぐ。

『ああ、もうっうるさい!』
「どうしたんだ、クレセント」
『ついつい、ヒアリングの感度を上げすぎちゃった……なんか、ピーポーピーポーって音がするよ……これ、救急車ってやつのサイレンだよね?』
「救急車? まあ、最近熱中症患者も増えているらしいが……」
「水分補給はしっかりしねえと……あ、水筒のお茶切れてた」
「……熱中症、患者ですか……」

 確かにこの夏は猛暑で、多くの熱中症患者が救急車で病院に搬送された、というニュースは聞いた。
 今は9月。まだ暑さも残る時期。
 しかし——それでも尚、増え続けているらしい熱中症患者の数。

「8月頃が最高38度くらいの日もあったからな……今は最高33度……十分に暑いが」
「最近、こういうので倒れる人更に増えてるみたいですよ。オレ達も気を付けないと」
「……そう、ですね……」
「取り敢えず、大通りの方を探してみるか——」
 
 犯人は必ず此処に帰ってくる。
 海戸で悪事を働いているならば猶更だ。
 確証のない探索を、彼らは続けるのだった——



 ***



『ご案内申し上げます——』

 そんなアナウンスを聞きながら、少女は久々に真っ当に日本語を聞けたことを実感する。
 伸びをし、そして人込みの中を駆けて行った。

「もうすぐ、海戸か……頑張らないと!」
『……随分と浮かれているのね。マスター』
「当然でしょ。ひっさびさの海戸だよ? D・ステラが始まる前に、絶対に来ておきたいって思ってたんだあ」
『幾ら私達がいるからと言って、単身で日本に来るなんてクレイジーだわ。余程会いたかったのね、その暁って人に』
「私が明るくなったのは、その人が居たからなんだよ。小学校の最後まで一緒に居られなかったけど……日本(japan)よ! 私は帰って来た! ふふふ……」
『随分とまあ。ああ……今からアメリカが恋しいわ。後、その不気味な笑い方やめなさい』
「ごめんごめん。なかなか昔の癖で抜けなくって」

 彼女は、海に浮かぶ人工島を見据える。
 そして——言った。




「——燃えてきたわ! 滾ってきたわ! 待っててくださいね! 暁ヒナタ先輩!」