二次創作小説(紙ほか)

Act3:ニューヨークの来訪者 ( No.367 )
日時: 2016/09/05 14:48
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「……」

 フジは押し黙った。
 そして、パソコンに映し出した資料を前にしてため息をつく。
 昨日、結局ノゾム達は偽ホタル(仮称)を見つけることは出来なかったのだ。
 今日も引き続き、ニュータウンの中にそれがいないか探しており、対するフジ、ヒナタ、コトハはクリーチャーが関与しているかもしれない事案を片っ端から調べていた——が、此処最近はそんな奇怪な事件もない。アヴィオールとニャンクスの件を解決して以来、表立ったものはほぼ無くなっていたのだ。
 そんな中で、フジが注目したのは新聞とニュースのこの一文だった。

「……熱中症患者、増加ねぇ……」
「それがどうかしたんですか?」

 いつも通り、怪訝な視線をコトハは彼に向ける。
 今はクリーチャーが起こしたかもしれない事件を洗っているのに、この男は何を言っているんだ、と。

「いや、此処最近暑い日が続くかんな。熱中症の患者が増えるのは何らおかしいことではないんだが……いや、おかしいだろ。残暑っつっても、まだ8月よかマシなんだぞ、見ろやこのグラフ」

 成程、環境省の集計したそれを細かく区分すると、それが分かった。
 8月で一番熱中症の患者が多かった週よりも、ここ一週間の熱中症患者の人数は多くなっているのだ。
 しかも、平均気温はそれと比べても低くなっている。
 また、学校や通勤が始まってレジャーや部活動などで外に出る頻度も少なくなっているはずだ。
 にも拘らず、通勤中、通学中に急にばったり倒れて、そのまま熱中症と診断される人が増えているというのだ。彼らも何も無対策というわけではあるまい。水分補給を心掛ける、薄着で行動する、日向を避ける、といったものが主な対策ではある。それを怠った人間が倒れていると言えばそこまでであるが——あまりにも多すぎるのだ。

「……これって、どういうことなんですか?」
「余りにもよく似すぎた症状は、別の病気でも誤認されることがあるってことだ。例えば、炎天下の中でぶっ倒れて痙攣していたりぐったりしていたら、誰だって熱中症を疑うだろ。痙攣は熱痙攣、ぐったりしてるのは熱疲労だ。そして、検査してほかの原因が見当たらなければそれは熱中症ってことになる」
「……熱中症と間違えられるような病気って何かありましたっけ」
「さあな。糖尿病と水銀中毒の誤認トリックだったか何だったか。そういうのは知ってるが、熱中症は知らん。知らんが——」

 流石に考えすぎではないか、とコトハは思った。
 たまたまこの週が一番熱中症患者が多かっただけではないか、と。
 しかし。

「——如月ィ。お前も経験あるだろ。人間ってのはみんな、多かれ少なかれ魔力(マナ)ってのを持ってんだよ。だが、元が多かろうが少なかろうが、クリーチャーも人間もそうだが、魔力を全て失えば——そいつは倒れる。体の防衛機構が働いて発熱、そして痙攣が起こることもある」
「!」

 経験も何も、この間それは自分の身に起こったばかりのことであった。急な成長を遂げたニャンクスに、使う側のコトハの身体が耐え切れなくなったのだ。

「言わば、一時的に動けなくなるってこった。そのあとは自然回復するんだが、普通の人間はそんなものとは縁遠い生活をしてるわけだしよ。魔力不足でぶっ倒れるなんざまず、ねえ——が、仮にそれが炎天下を動いていた一般人に起こればどうなるか? まず熱中症と診断されるだろうな。魔力なんざ現代医学で解明できるわけねーんだからよ」

 魔力と縁遠い生活を送っている一般人にはまず起こらない魔力不足による失神。
 しかし、それが一般人に起こったのだとすれば——

「おい如月。ヒナタを呼べ。本当にこれは放置出来ねえぞ」
「は、はい! ねえ、ヒナタ——」


 
 がらがらがら



 そういって振り返った矢先、何かが崩れるような音。
 そこには、山積みになっていたと思われる書類の入った段ボールの下敷きになったヒナタの姿があった——



「……あなた、何やってんのよ……」
「すまん、書類を直そうとしたら……うごご、助けてくれ」



 ***




「……見つかりませんね……」

 がくり、と項垂れるホタル。
 自分の姿と同じ敵が動いているらしいのだから、しょげても仕方はなかった。
 威勢よく飛び出したのはいいが、結果が出せなければ意味がない。

「仕方ねえよな……そんなホイホイこっちに姿を現すわけがねえもんよ」
「逆に嗅ぎ回っているこちらへ、強襲してくる可能性もあるが」

 レンもノゾムも、この事態には頭を抱えていた。

『……むっ!!』

 次の瞬間。
 ハーシェルが何かに気付いたかのように唸った。
 耳をぴくぴく、と動かし、そして吠える。
 何かが迫っていることを知らせるかのように。

『発見したぞ!! クリーチャーの反応じゃ!!』
『うん、あたしも発見したよ!! その方向から救急車のサイレンも……! なんでだろ』
『成程……これは見えてきましたね』

 3人が、クリーチャーの魔力を感知した方向へ向かうと——広場に出た。そこには、人だかりが出来ており、間もなく救急車のサイレンも聞こえてくる。

「何があったんですか?」
「どうやら倒れたらしいんだ! 今救急車呼んでるよ!」
「日陰に寝かせて! 衣服を緩めるんだ!」

 見れば、倒れているのは遊んでいた若者らしかった。
 今は木陰の近くに寝かせられている。見れば汗が噴き出るように出ており、手がぴくぴく、と痙攣していた。
 
「熱中症か……?」
「……でも、なんで——」
『クリーチャーの反応じゃ!』
「えっ」

 ハーシェルが言った途端に——周囲の空間は一変する。
 そこには、もう今まで寄ってたかっていた人間たちはいない。
 いるのは、クリーチャーを持っているホタル、ノゾム、そしてレンだけだ。
 そして目の前には——2つの神々しい光器の姿があった。思わず目を見張る。
 
「あっ……! 《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》に《破滅の女神 ジャンヌ・ダルク》——!?」
「なぜ、奴らがここに——!!」
「……そういえば、あれって確か——ホタルが前にアルゴリズムに操られてた時に使ってたカードじゃねえか!?」
「そうですけど……!」

 次の瞬間、2機の光器は口を開く。

『愚かなる人間どもめ……詮索しなければ良かったものを、のこのこと釣られてきおって……』
『我が主の悲願……貴方達に邪魔させるわけにはいきませんね』

 そして、神々しい光が放たれた。
 思わず目を瞑る。
 しばらくして——体が何かに縛り上げられていることに気付いた。
 輪だ。硬い光の輪に、体が縛られているのである。胴から、足まで。いくつもの輪がハメられていた。

「ちょっ、動けないんですけど!?」
「成程な……まんまと僕らはハメられたわけか……!」
「仕方ねえ、クレセント!」
『う、うん!』
「アヴィオール、貴様の出番だ!」
『御意にっ!』

 こちらが動けない以上、決闘空間を開くことは出来ない。あの2機が今回の事件に関わっているのは明らか。
 ここで倒すしかない。
 が——

『目障りな奴らめ——』

 飛び掛かっていったアヴィオールとクレセントの身体がそこで止まる。
 光が一気に放たれたのだ。
 見れば、再び体に螺旋状の高速具が取り付けられていた。
 
『《DNA・スパーク》——! 奴ら、呪文も使うんですか!』
『うぐぐ、この程度……うわああん、ダメだこれー!』
『アヴィオール、クレセント!? ぐぬ——』
「あ、ダメですよハーシェル!! 考えなしに突っ込んでは敵の思うツボです!」
『し、しかし……!』
『残るは貴様だけだ——』
『じわじわと嬲ってやるとしましょう——』

 次の瞬間、電撃がハーシェルの身体に撃ち落された。
 呻き声を上げるも、何とか立っていた彼だったが——拘束具が取り付けられてしまっていた。両足を縛られ、もう動くことが出来ない。

『バ、バカな——! あまりにも手数が多すぎる——並みのクリーチャーのそれではないぞ!』
「は、ハーシェル!?」
『では、人間共。今度の雷で黒焦げにしてやりましょう——』

 そう、光器が紫電を両手に集めたその時であった。




「ちょっと待ったぁーっ!」



 突如。
 光器の喉笛に、何かが食らいつく。
 そして、大きくバランスを崩した《勝利の女神 ジャンヌ・ダルク》は地面に倒された。
 同時に、それが現れた方から少女が飛び出すように現れる。

『何だ貴様は——』

 と、言いかけた破滅の女神だったが、すぐさま現れた何かが途方もなく巨大な咆哮を放ち、怯んでしまう。

「”ケルス”! グッジョブだよ!」
『はぁー。不意打ちしなきゃ、なかなかにヤバいマナのクリーチャーだったわね』

 唖然とした様子で、縛られた3組はその姿を見る。
 片方は、少女。それも、犬の耳のように房が1組、後ろの方へ垂れた帽子が印象的な小柄な少女だった。
 もう片方は犬型のクリーチャーのようだった。喋ること、そして脚には青い炎が纏われるようにして燃えていたことから容易に普通の犬ではないと分かったが、とてもスマートで綺麗な灰色の犬だ。犬種で言えばグレイハウンドと言ったところか。

「それじゃあそこの人たちもすぐに助けてあげるねっ! まずは——こいつをぶっ倒してから、だけどっ! 行くわよ、ケルス! 決闘空間開放!」

 少女が叫ぶと共に、黒い霧が現れる。
 それらは2つの光器を包み、そしてホタル達も包んだのだった——