二次創作小説(紙ほか)

Act3:ニューヨークの来訪者 ( No.370 )
日時: 2016/09/05 23:47
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 決闘空間は閉じられ、ホタル達の拘束も解除されていた。
 犬耳帽子の少女は、一仕事を終えた後のように爽やかな笑みを浮かべた。

「3人がひきつけてくれてたおかげで、決闘空間に引きずり込めたわ。ありがと!」
『何であれ無事でよかったわ。気をつけなさい。あのレベルのクリーチャーになると、私達英雄でも歯が立たないことがあるわよ』

 ケルス、と呼ばれた犬のクリーチャーも言った。

『私達も所詮は一クリーチャーに過ぎないわけだし』
「いや、お礼を言うのはこちらの方だ。助かった」
『ですが意外でしたねえ。見ない顔ですが、まさかクリーチャーを従えている方とは』
「私は貴方達の顔、知ってますけどね——D・ステラ日本代表、鎧龍チームの皆さんでしょ? 黒鳥レンに、十六夜ノゾム、そして淡島ホタル、でしょ?」

 らんらん、と彼女の青い瞳が輝いた。
 
「むう。やはり知っていたか」
「何かオレ達、結構有名人になってんのかな?」
「まあ、日本代表ですしね」
「そりゃ、そーですよ」

 笑顔でくるり、と回る。どうやら、何か浮かれている様子で、黒髪が揺れた。
 そして、とんでもないことを口走ったのだった。



「私、アメリカ代表、インベンテンズデュエルスクールチームの1人だもん。対戦相手になるかもしれない相手の事は知っておかないと!」



 全員の表情は凍り付いた。
 そして——即座にレンがスマホを取り出す。
 素早く、何かを検索し、そして絶句した。

「まさかとは思ったが……貴様が」
「え、ええ!? 誰なんですか!?」
「全米予選を勝ち抜いたインベンテンズデュエルスクールチーム……その中でも彼女は飛び級を2度行い、現在実質中等部のエース——取り敢えずなんの用で来たのか教えて貰おうか」

 どうやら彼女は、この当たりに出現したジャンヌ・ダルク2機を追ってホタル達と鉢合わせする形になったらしかった。
 そして、肝心の目的をいう。アメリカ代表が、わざわざこの日本にやってきた理由を——




「ずばり、貴方達のチームメイトの暁ヒナタ先輩に会うため!」




 ***



「いや、誰だよ君」

 ヒナタの開口一口はそれであった。
 取り敢えず、ホタルとレン、ノゾムを助けてくれた、という話は聞いたのであるが。

「そういえば、アメリカの代表が先日決まったばかりだったな、ヒナタ。如月」
「まだそこまでチェックしてなかったぜ。あんな事件が起こったからよ」
「てかヒナタ、最近あなた女の子にこんな感じで会うこと多くない?」
「多くねーよ!?」

 むぅ、少し怪訝な視線を向けるコトハ。
 そういえば、コロナと言い、ツグミと言い、最近現れたクリーチャー使いのライバルは皆女子であったが——

「えええ!? ヒナタ先輩、私のこと覚えてないんですか!?」
「いやあ、でも俺の後輩……? 誰だ、誰だ……?」

 犬耳帽子に、黒髪。
 はつらつとした声に、青い瞳。
 色は白く、これらの特徴から彼女がラテン系のアメリカ人であることは容易に察せたが——こんな少女、自分の知り合いに居たっけか、と。

「いや、そもそも名前聞いてないし……」
「もうっ! 先輩の馬鹿! 本当に覚えてないんですね!」
「……やれやれ、すまんなうちのグラサン馬鹿が。物覚えが悪いのだ。許してやってくれ」
「グラサンだから仕方ねぇっすね」
「グラサンですからね」
「グラサンは関係ねぇだろ!! いい加減にしろ!!」
「ま、まあ落ち着いてヒナタ……」
「コトハが唯一の良心になりつつある今日この頃……後輩まで悪ノリするようになるなんて」

 自分をガン無視してコントを続ける鎧龍チームに、頬を膨らませた少女は言った。
 




「私ですよ、先輩! 本当に本当に覚えてないんですか!? 景浦(かげうら)ノアです!」




 ……。
 ヒナタは黙りこくった。
 その少女の名は確かに記憶の中に焼き付いていた。忘れもしない。あの夏を過ごした仲間の一人でその後も交友が続いて——しかし、記憶の中の彼女と照合させる。
 彼から話を聞いていたコトハも、怪訝な顔をした。
 こんな明るい少女だったっけか。
 当時はもっと根暗そうで、眼鏡も掛けてて——

「ノアァァァァァーッ!?」
「あ、やっと思い出した、先輩!」
「じゃねえよ!! 覚えてるよ!! 覚えてるけども!!」
「ちょ、聞いてたのと全然違うんだけどヒナタ!?」
「ああ、そうだよ!! 俺だって戸惑いすら覚えてるよ!!」

 性格も、そして容姿も余りにも溌剌としていて、正直陰気臭かった当時のノアとは似ても似つかない。
 いや、幾らか顔を見るとようやく当時の面影も見えてきたが……。

「何か、お前変わった!? いろいろと」
「えー、そこまでですか?」
「てか、お前瞳も青かったっけ!? どうだっけ!?」
「ああ……私ハーフなんですよ。親の仕事の関係で、日本には結局3年くらいしかいませんでした。本名は、景浦ノア・アンダーソン。外国人っぽいのが原因でいじめられてて……目を隠すために前髪も伸ばしてたし、伊達だけど眼鏡も掛けてたんです」

 驚きだったのは、彼女がアメリカ人であったことである。
 いや、正確に言えば日系とラテンアメリカのハーフか。親の仕事の関係で世界を転々としていたらしかった。
 そういえば、最後の辺りに急にいなくなった、と思い出す。このころにはもう、アメリカに帰っていたのだろうか。

「な、成程な……」
「まあ、当時が地味だったのは否定しませんけどね。自分でそうしてましたし。まあ、どっちにしたって——」

 ぎゅっ、と彼女はヒナタへ飛び付く。
 いきなりでバランスを崩しかけたヒナタであったが、子猫のようにノアは彼にじゃれつき始めた。

「会いたかったです、ヒナタ先輩! えへへ……!」
「おいっ、馬鹿! こんなところで抱き着くんじゃねえ!!」
「……」
「お、おい、コトハ。怒るなよ? 怒るなよ!?」
「いや、別に怒ってなんか無いわよ」
「あ、あれ? 彼女さんでしたか? 後ろの方」

 こくこく、とコトハは頷く。
 視線には熱が籠っていた。

「ご、ごめんなさい! 嬉しくてつい。確か、如月コトハさん——だったっけ? マナゾーンの魔術師って呼ばれてるすごいデュエリストだって」
「あ、あはは……いや、良いのよ。仕方ないわ。久々の再会なんですもの」
「でも、意外でした。ヒナタ先輩に彼女が出来てるなんて。しかもそんなすごい人と」
「お、おい彼女って——」
「暁先輩と如月先輩、そ、その、そういう関係でしたっけ!?」
「おい馬鹿!! 話が余計ややこしくなるから! 事実は否定しないけど、今はちょっと飲み込んでて!!」

 ノゾムとホタルを抑えて、修羅場になろうとするこの場を収めようとするヒナタ。そういえば、この2人にはまだ言っていないままであった。今騒がれたら余計に収集がつかなくなりかねない。
 無駄だとは思いつつも、助けを乞おうとヒナタはフジの方を向く。
 が、当の彼はなんかすっげー、腹の立つ笑みを浮かべていた。
 ——この、愉悦部は!!

「あの、如月さん。ちょっと頼みがあるんですけど」
「な、何?」

 戸惑いを隠せないまま、コトハは返す。
 振り向いたヒナタは、またノアが爆弾を落とすのでは、と内心ヒヤヒヤしていたが——




「——ちょっと今日一日、ヒナタ先輩を貸してくれませんか」




 ——投下されたのは、やはり50t爆弾であった。