二次創作小説(紙ほか)
- Act3:ニューヨークの来訪者 ( No.371 )
- 日時: 2016/09/06 23:21
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「……ヒナタを貸す?」
「だ、ダメだったでしょうか……? 久々だったから、折り入って話したいことがあって」
その場に緊張が走る。
特に、コトハの独占欲が強いことを知っていたニャンクスは冷や冷やしていた。
が——物事とは、案外思ってもない方向に進むものである。
「なーに、言ってんの。わざわざアメリカからやってきてくれたのに。久々に会ったんだから、こいつで良けりゃ思う存分話していって?」
「は、はい! ありがとうございます!」
「……そっか。あんたがヒナタの言ってた昔の仲間の1人か——」
——明るいけど、しっかりしてる目——本当、ヒナタは後輩に恵まれてるわね。
ぱちくり、と意外そうな表情をしたノアは言う。
「やっぱり知ってる……んですか? 。ヒナタ先輩の、そして私達の過去も」
「ああ。俺がコトハに話したんだ」
うーん、と彼女は少し思案した。
そして、何かを決心したかのようにヒナタの袖を引っ張った。
「それじゃあ、行きましょう、先輩!」
***
「……急に情報がいろいろ入ってきて、頭がパンクしてるんすけど……」
ノアがヒナタを連れて去っていった後、ノゾムは壁にもたれ掛って頭を抱えていた。
あはは、と苦笑いを浮かべながらもホタルも頷く。大方、ノゾムと同じ気持ちであった。が、それ以上に——
——あの、ノアって人——カードも強かったし、まして本人のプレイスキルも相当なものでした。あれが、闇の侵略者のカード——星のカードも持っていたみたいですし……。
ノアに興味を抱いていた。
後輩2人がうんうん言う中、レンは落ち着き払った様子で諭す。
「ま、まあ、それについては追々話さなきゃ、って思ってたんだけどね」
「でも良かったんですか? 仮にも付き合ってるのに……」
「何言ってんのよ。あたしもそこまで野暮じゃないわ」
けらけら、とコトハは笑う。
流石に突っ撥ねるのは気が引けたのだろう。わざわざ、あんな遠いところからやってきたのだから。
「——2人も、色々考えた末の結論なのだ。それよりも——まだ話しておかねばならないことがあるだろう?」
「あ、そうでした! クリーチャー、ジャンヌ・ダルクの件!」
「ああ。それについては、俺様もビルから決闘空間の反応を感知して気付いた。かなり強力なクリーチャーの干渉を受けていたみてーだな。マナの大きさがテメェらの英雄を上回っているってどういうことだコノヤロー」
「……ジャンヌ・ダルク? それが今回の事件の犯人なのかしら」
「奴らがマナを吸っていたのは、間違いない。現に、やられたと思われる人が倒れていた。だが、それが黒幕かどうかは」
「あれはおそらく尖兵だとオレは思います。何か、主だとか言ってましたし」
「じゃあ、違うのね」
「にしては、とても強かったがな」
確かに、思い返せばあのジャンヌ・ダルク2体の強さは異常と言えるほどであった。
クレセント、アヴィオールの接近を許さず、ハーシェルも拘束するほどの強力な光のマナ。
さらに呪文まで唱えてきたという手数の多さ。
彼女達単体では、此処までの力は発揮できないはずだ、とフジは言う。
「それと、あの景浦ノアについては警戒するこったな。仮にもアメリカチームの一員だ。普段なら協力を呷ることもやぶさかではないんだがな……」
「でも、ヒナタ先輩の知り合い、っていうかかつての仲間みたいですし、そんなことは」
「さあな。一応、だ。有栖川ツグミの一件を忘れたとは言わさん。奴の持っていたステラアームドのカード——」
フジには確かに”視認”できた。
深い闇のマナに、冥府を司る星の力。
やはり、英雄は各文明に1体ずつ、というわけではなかったのだ。
「——まだ、どんな力を持ってるか、さっぱりだ」
「……やっぱり彼女のカードも武装出来るんでしょうか」
『……ホタル』
「ヒナタ先輩と白陽が武装できない理由は分かってます。でも——私は——」
1人、寂しげに彼女は笑みを浮かべると、「ごめんなさい! 弱気になってたら、らしくないですよね!」と誤魔化して立ち上がる。
「私も特訓しなきゃ。D・ステラはもうすぐなんですから!」
「そうだな、ホタル。ヒナタだって色々模索しているのだ。貴様には目立った理由はない。精進すればすぐに武装も身に着けられるはずだ」
「そうよ、元気出しなさい、ホタルちゃん」
「ですよね!」
「……なあ、ホタル」
顎に手を当てて、考え込むようにしてノゾムは言った。
「……お前、一回一応、武装は出来てるよな?」
周りが静まる。
それ自体は事実だ。かなり不正規な方法ではあったが——
「は、はい……前にアヴィオール、というかアルゴリズムに操られたとき、ですね。その時は、私とハーシェルの精神から無理矢理ステラアームドを引き出したって——」
『ステラアームドを無理矢理引き出した、ですか』
『なになにー? どうしたの、アヴィオール』
『何か分かったのか』
『あの戦いの後、アルゴリズムは消滅しました——ですが淡島ホタル。貴方の持っていたステラアームドが消滅した、とは限らないですよね、それ』
「そ、そういえば——私のステラアームド——《鋼神姫 ドラドルイン》は何処に」
「あの時のホタルの使ってたカード、メカ・デル・ソルが多かったよな」
「はい——まさか」
「……ああ。ジャンヌ・ダルク2機は主の墓穴を掘っちまった事になるな」
浮上した可能性に、ホタルは顔を真っ青にする。
まさか。まさかとは思った。
しかし——此処までの状況から、もはやそれしか考えられない。
悪夢は——血の雨は、まだ降ろうとしているのだ。
「——止めなきゃ——私が……!」
***
「えへへ、変わってないですね、此処!」
「……そーだな」
ノアがヒナタを連れてきた場所は、小学校だった。
海戸第一小。かつて、ヒナタが通っていた小学校だ。
白い校舎に、もうすでに色が変わり始めている木々。今日は休日なので誰も居なく、閑散としてはいるが数年前とこの景色は何ら変わりない。
「……先輩。コトハさんのこと、本当に信頼してるんですね」
「ん、なんでそんなこと言うんだ」
「いいえ。何か、昔のナナカさんとヒナタ先輩を思い出しちゃいました。特に、鎧龍の試合を見てたら——居ても立っても居られなくなって。本当に元気になったなあ、って今の先輩に会いたくなっちゃったんです」
「コトハだけじゃねえよ。俺は、鎧龍に来てからいろんな仲間に出会った。人間じゃねえのも居たぞ。お前と同じだ」
「……そうですか」
「そういや、お前も星のカードを持ってんのか」
「は、はい! 出てきて、ケルス!」
彼女がカードをかざすと、ケルスと呼ばれたクリーチャーが姿を現す。
その姿を見て、ヒナタは目を見開いた。
「犬型——これは」
『貴方が暁ヒナタね』
その声は、女の高いものであった。
ケルスはヒナタを見据えると、さばさばとした態度でいう。
『うちのノアが昔、世話になったみたいね。よろしく頼むわ』
「お、おう……」
「ケルスは元々、インベンテンズが管理していたカードなんです。でも、私が近付いた途端に目覚めちゃって。それから色々あって、今はすっかり私の相棒です」
「なーるほどな。聞いたところによると、闇単使いになったみたいじゃねえか。オール・イエスを使ってた頃とはデッキも変わったもんだな」
「殴りながら手札を破壊するのは、私の十八番なんです。今もそれは変わってませんよ」
「いーや、変わった。ノアはすっげー明るくなった」
ぽん、と彼女の頭に手を乗せると、彼女ははにかんだように笑みを浮かべる。
「……ヒナタ先輩。話は変わりますけど」
「何だ?」
それも束の間。急に真剣な面持ちでノアは言った。
「……侵略については、どう思いますか」
「……」
「今、賛否両論で色々言われてる侵略ですけど——先輩達はそれを止める為に戦ってるんですよね」
「——俺はそこまであれを敵視してるわけじゃねえんだけどな——どうしても、やべえカードがあって、それを食い止めねえといけねえ、ってのはわかるんだ」
「……音速の侵略者、ですか」
「ああ。知ってるみたいだな」
「あれが全ての始まりですからね。あれに比べれば、ほかの侵略者は速さという面で見れば可愛いものです」
でも、とノアは続けた。
「——私達の侵略も負けてはいません。油断していれば、先輩達を轢き潰してやりますよ」
その言葉は、最早自分の知っているノアではなかった。
確かな経験と自信、それが彼女の言葉の裏付けになっている。
生意気ともとれるその言葉に、ヒナタは胸が躍った。こんなに手強いライバルに成長しているとは。
「悲しいかな、カードパワーには、カードパワーでしか対抗できないんです。音速さえも超える私達の侵略——それが貴方達を轢き潰します。それを予告しておきますよ」
「……ああ。楽しみにしてるぜ。デュエマがカードパワーだけじゃない、てことを思い知らせてやる」
かつて、共に歩んだ学校を背に——2人は決闘の誓いを交わす。
その表情は、とても輝いていた。
再戦を誓うライバル同士そのものだったのだ——