二次創作小説(紙ほか)

Act4:躙られた思い ( No.374 )
日時: 2016/09/12 16:34
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「……そこで別れたんだけどよぉ」

 あの後。
 特にオチも無く、ノアの方から「それじゃあそろそろ行きますね!」と言われて去っていったのが記憶に新しい。
 結局、昔の話がしたかっただけなのだろうか。

「まあ、そのためだけにわざわざ日本に渡ってきたのか? っていうと、俺様はそうじゃねえ気がするがな」
「……確かにそうね。何処か別の思惑を感じるわ」
「そう、ですね……」

 ——あのノアって人のデュエル——
 今思い返しても、あの侵略戦法と言い、自分たちを助けたことと言い——彼女には何か不思議なものを感じていた。
 いや、それだけではない。いずれ世界ではあのような選手を相手にすることになるということに戦慄していたのだ。
 この数日間の情報量は余りにも凄まじい。

「おいおい、仮にも俺の後輩だぞ?」
「確かにそうだけども……」
「油断は出来んぞ」
「あ、あの」

 話の中、切り上げるように彼女は、無理に笑ってみせると、椅子から立ち上がる。

「私、先に帰りますね……ちょっと、色々ごちゃごちゃしちゃって……」
「ま、待てよ。大丈夫か? 顔色悪いぞ」

 心配そうに問いかけるノゾムであるが、たっ、と彼女は駆け出す。

「い、いえ、大丈夫、ですから。それではお疲れさまですっ」

 そういって、すぐに部屋を飛び出してしまったのである。
 その背中を見送ると、ノゾムは心配そうに言った。

「……ホタル……大丈夫かなぁ」
「この間もそうだったが、あいつもあいつでギリギリまで不安だとかを押し殺すタイプだからな。同級生のお前はもちろんだが、僕達も彼女を支えねばなるまい」
「無理もないわ。自分の偽物が町を徘徊しているんだもの……」
「それだけではないとは思うがな」

 難しい顔をしたレンは、続けた。



「……焦りもやはり、感じているのだろう。色んな意味でな」



 ***



「……」

 何処か、昏い表情でホタルは帰路についていた。
 そして、家に帰るためにバス停のベンチに座る。
 だが、あの侵略がどうも頭から離れない。

「……」

 自分は思えば、足を引っ張ってばかりだ。
 しかし、そうやって焦ったときに限って——失敗する。アヴィオールのときも、そうだった。

「ハーシェル。サーチをお願いします」

 だからこそだ。
 今度の敵は、自分自身の手で潰さなければ気が済まなかった。
 ——私の姿で好き勝手する敵を——

『ホタル……冷静になれい』
「なれませんよ……こんなの。まして、先輩も傷つけられて、さらにアメリカからやってきた星のカードの使い手——あの人も恐らく、今回の件で私の偽物を追ってるはずです……確証はないですけど」
『まあ待て……自分勝手な真似はいかん。そうやって逸った結果が——』
「……分かってます。私が5人の中で一番弱いから。これがノゾムさんやヒナタ先輩、レン先輩、如月先輩なら不意を突かれない限りは負けなかったでしょう。でも、私には——私には、他の4人にあるような力はありません。だからむやみに動いて返り討ちにされるがオチと言いたいんでしょう?」
『そうではない。ヌシは確実に強くなっておる。だがな、それ以上に突っ走るなと言っておるのじゃ。心の隙を突いて——あの手のクリーチャーはヌシに干渉してくるぞ』
「……ハーシェル。そうですけど……私だって悔しいんです。今日だって、ジャンヌ・ダルク2機に遅れを取ったばかりか、見ず知らずの人に助けられてしまった自分が情けなくて」

 実力だけで言えば、ホタルは5人の日本代表の中で最弱。
 少なくとも彼女はそう思い込んでいる。
 出しゃばれば返り討ちにされ、結局仲間任せになってしまう——それが悔しくて仕方ないのだ。

「……今だって、私と同じ姿をした奴が出てきたなら、この手で——!」
『……気持ちは分かるがな——だが元はと言えば、悪いのはアルゴリズムじゃ。奴はワシらの共通の敵。それこそワシらのみならず、他の奴と連携して倒すべきじゃ。何度も言おう、ヌシ1人で倒さねばいけないというのは分からんでもないが……』
「……分かってます。少し熱くなりすぎました」

 ホタルは目を伏せた——その時だった。

『!!』

 ハーシェルは顔を上げる。
 そして、実体化してきょろきょろ、と辺りを見回し始めた。

「ど、どうしたんですか、ハーシェル!」
『反応じゃ!! まさか——この気配、ワシらと同じ——!!』

 上空を見上げる。
 そこには——ホタルと瓜二つの人影があった——!!



 ***



『で、好い加減に言いなさいな』
「なーに? ケルス」
『とぼけないで。まさか、あんなことのためだけに、こんな島国にやってきたわけじゃないでしょう? 旅費はそもそもどこから用意したのよ』

 苛立った様子でケルスは言った。
 ホテルの一室でベッドに寝ころびながら、ノアは答える。

「んー、正直この件についてはあんまり乗り気じゃなかったんだけどね——ぶっちゃけるとインベイト社からの要請だよ」
『やっぱり——』
「ま、だから本来の目的から言えばヒナタ先輩と会うのはついでみたいなもんだけどさ——私から言えばこっちの方が本命だね! うん! ま、だけど——びっくりだったのは、あの人に彼女が出来てた事かなぁー」
『……そんなことはどうでもいいから』
「あ、うん。それで本題だけど、やっぱり目的としてはね。日本の英雄の事かな」

 現在。
 日本、それも海戸には分かっているだけで6体の英雄が集結していることはすでにアメリカも察知していた。
 光文明のハーシェル。
 水文明のクレセント。
 闇文明のアヴィオール。
 火文明の白陽。
 自然文明のニャンクス。
 ゼロ文明のアピセリン。
 今回、ノアが送られてきた理由はこれらの所在を改めてチェックすることだったのだ。

「それに加えて現在、音速の侵略者の所持者に加えて邪悪龍も日本を訪れているから、放置は出来ないって感じなんだよね。ま、鎧龍チームの5人はそれぞれ英雄を1体ずつ、もう1人の無色の持ち主・有栖川ツグミは現在福岡市の病院で入院中ってのは事前に確認。しばらくは再起出来ないでしょ」
『……なーるほどね』
「ケルスも興味あるでしょ?」
『そうね。一角獣座、兎座、竜骨座、子狐座、山猫座、そして蠅座——これらの存在は私にも確認出来た。ま、彼らは私の邪魔はしないでしょ——ん』
 
 ぴくん、とケルスの耳が動いた。
 何かを感知した彼女は、起き上がると耳を立てる。警戒の姿勢だ。

「どうしたの、ケルス」
『出現した——強い光、そして微弱だけど闇のオーラ——!』
「Really? ケルス」

今の今までシャツにパンツという恰好で寝転がっていた彼女だったが、すぐさま帽子をかぶり、上着を羽織って身支度を整える。 
 
「……まさか敵さんから姿を現してくれるなんて——燃えてきたわ! 滾ってきたわ! Its,hunting time、よケルス!」
『OKよ。さっさとしないと逃げちゃうかもね!』