二次創作小説(紙ほか)
- Act5:貴方の為に ( No.378 )
- 日時: 2016/09/19 11:47
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
……が、しかし。
事件が起こったのは次の日の放課後だ。
「……何? ハーシェルが居なくなった!?」
こくこく、と頷くのはホタルであった。
完全に顔が死んでいる。色々ショックな出来事が多すぎて、疲れ切っているところに追い打ちがかかったからだろうか。
何ともまあ唐突ではあったが、放課後武闘ビルに集まった際に、真っ先にそう申し出たのだった。
どうやら、昼頃までは一緒だったらしいが、ふとデッキを確認するとハーシェルがいつの間にか無くなっていたというのだ。
「……ごめんなさい、私の注意力不足で……」
「謝るなよ。ハーシェルの奴が、訳もなくお前からデッキごと居なくなるわけないじゃないか。何かあったんだ、お前の所為じゃねえ」
と励ますノゾムではあるが、ホタルの表情は曇ったままだ。
「そう、ね。ハーシェルは基本、ホタルちゃんに従順で忠実……」
「いきなりいなくなるなど、考えられん」
「考えられないけどよ——また何か事件に巻き込まれたとかか?」
「何だって良い。とにかく、いなくなったってのは一大事だが——」
「もしかしたら——昨日の奴を1人で探しに行ったとか?」
「昨日の奴、か」
ヒナタ達は顔を伏せる。
昨日、ホタルが偽物に襲われたという話はノゾムから聞いた。詳細はまだ、ホタル本人からの口からは聞けていなかったが——
「……ごめんなさい、皆さん。迷惑はかけちゃいけない、って思ったんですけど——やっぱり一大事には変わりないから……」
「迷惑とか言うんじゃねえよ。仲間が困ってるのに、見過ごす方が胸糞わりーよ」
「……でも、今回だってそうなんです。私、自分の偽物が悪さしているのが嫌で——あの時、1人になった後にハーシェルにサーチさせたんです——そうしたら、あの偽物が現れて——」
「おそらく逆探されたな、それは」
言ったのは、フジであった。
「敵は慎重だから、わざわざ敵が複数いるときには配下を仕向けたんだろうが——テメェが1人でハーシェルにサーチさせたから、好機と見て出てきたんだろうよ。しかも、反応にも出なかった辺り——奴さんはかなり強いステルス機能を持っているとみた」
「どっちにしたって、あの後オレが追いかけたのは正解だったってことか。間に合わなかったけど。その代わり——あのノアって人が助けてくれたんっすよ」
「ノアが?」
ヒナタは怪訝な顔を浮かべた。
まだ、彼女は日本に滞在するつもりだというのか。
「どうやらあいつも、ただお前に会いに日本に来たわけでもなさそーだな」
「また借りが出来てしまった、ってことね。どうやら、インベンテンズはインベイト社と深く繋がっているらしいし——向こうも何か目的があってきたんでしょ」
「……ノア」
「まあ、今度からはなるべく一人では行動しない方が良いのかもしれん」
「……すいませんでした。私がまた、一人で行動したばっかりに……」
「まあ、どっちにしたって——まずはハーシェルを探すのが先だろう」
そういって、レンは自分のデッキを手に取る。
「ともかく、だ。アヴィオール、ハーシェルを探せるか?」
……。
返事が無い。
レンはすぐさまデッキの中身を確認した。
居ない。
何処を探しても——アヴィオールのカードが無いのである。
「……おい、どうしたレン」
「……居ない」
「え」
「アヴィオールも、居なくなった——デッキの中に、居ない」
真っ青になった顔で、レンは答えた。
『にゃあああ!? 一大事なのですにゃ!! ハーシェル様だけではなく、アヴィオール様も居なくなってしまうとは!!』
『ちょっとどうすんのよ、コレ!! いっぺんに2人も居なくなるなんて!』
うーん、とクレセントとニャンクスは唸った。
確かに2人共主人には忠実なタイプではあるが……。
『確かに、アヴィオールもハーシェルもレンとホタルの言う事を良く聞いてたわよね……』
「むしろ主人に対して態度が悪いのお前らくらいなもんだろ、妖獣界組」
こうなれば仕方ない。
ハーシェルとアヴィオールも一緒に探そう、という話になりかけたが——
『……あー、その件についてなのだが——』
——ふと、切り出したのは白陽であった。
***
——武闘財閥管轄、海戸人口樹林にて。
カァーン、カァーン、と何かが割れるような音がする。
ひたすらに、ただひたすらに——自らの勢いのままに、白い影は体を岩壁へと叩きつけた。
次の瞬間、彼の身体の周りに障壁が現れ——岩壁が、砕けた。
『やはり、こんなところに居ましたか』
『……ヌシか』
——白い影——ハーシェルは彼の問いに返した。
黒いスーツ服に、モノクルを右目に嵌めた竜人・アヴィオールに対して。
『この都市にもこんなところがあったとは。いつも、此処で特訓でもしていたのですか?』
『……ヌシらに敗れた後、ホタルに内緒でな』
カッ、と彼が蹄を鳴らすと——砕けていた岩壁はすぐに元の通りに戻っていった。
『ワシは白陽のように幻術が使えるわけでも、クレセントのように馬鹿力があるわけでも、ニャンクスのように魔力を操れるわけでも——まして、ヌシのように飛びぬけて頭が良いわけでもない。少し頑丈で、そしてこの癒す力だけが取り柄じゃて。でも——それだけでは足りなかった』
悲しげに言うハーシェル。
アルゴリズムに敗れ、自ら邪悪なステラアームドを生み出してしまったことへの後悔。
あの偽ホタルこそ——自らの悪辣な一面そのものなのだから。
『成程、それで特訓を』
『前から見ておったのじゃろう? 趣味の悪い。だが今日ばっかりは——こうやって身体を苛めなければ気がすまんかった……さて、ホタルには心配をかけてしまったのう。もう気も済んだし、そろそろ帰るか。ヌシ、ワシを連れ帰りにきたのであろう?』
『それについては心配に及ばず。ボクはボク自身の目的でここにやってきたので』
ガンブレードを取り出すと、アヴィオールは言った。
『——特訓ならば、付き合いますよ? ハーシェル。自分、これでも昔は仲間にたっぷりしごかれまして。多少ですが、剣術と狙撃も鍛えているのです。よりいい指示を出すには、やはり現場を経験していないと』
彼は朗らかな笑みを崩さないものの、それは昨日、やはり彼らを助けたということを意味していた。
参謀を務めただけではない。彼もまた、前線を経験しているのだという。
『——偽物とはいえ、ワシを貫いた銃弾——やはり、あれはヌシだったか。頭でっかちではないとは分かってはいたが——ヌシ、やはり相当の食わせモンじゃな』
『間に合わなかったのでね。あれは上空から狙撃させていただきました。残りは、十六夜ノゾムに任せましたが。さて、どうです? やってみませんか? 肝心の実戦の参考には何もならないと思いますがね』
『……良かろう。久々に、相手が欲しかったところじゃよ——全力で戦える相手をな』
『では、そちらからどうぞ』
『——それでは遠慮なく、いくとするかのう』
彼は地面を蹴る。
そのまま——アヴィオールへ突貫した。
***
「……はぁ!? アヴィオールが、もう居場所の目星は付けてるから、あとは任せろ、心配するなって言っていたぁ!?」
『その時は何のことかさっぱりだったのだが……さっき、ビルの前に連れ出されて、それを私に言った後にすぐさま消えてしまってな。言おうと思っていたのだが、ハーシェルが居なくなった件で言いそびれてしまって……』
『となれば、敵に突撃していったという線は薄いね……あたし達でも割り出すのにあんなに苦労したのに』
『浚われたという線も薄くなるのですにゃ』
「とすれば、ハーシェルは自らの意思で飛び出し、アヴィオールもその場所を知っている、か——」
「う、うう……そんな」
涙目でホタルは言った。
「やっぱり、私が勝手なことをしたから愛想を尽かして——」
「何言ってんだよ、ホタル! アヴィオールも何か知っているみたいだし、そんな心配はいらねぇよ!」
「で、でも、だって——私、皆さんに迷惑をかけてばっかりで——自分のことしか考えてなくて——」
「やっはろー、Japan代表の皆さーん!」
全員は、振り向く。
見ればそこには——ノアの姿があった。
すぐさま憤慨したのはフジである。なぜ関係者ではない彼女が、此処にごく普通に入ってきているのか。ここは武闘ビルの彼の書斎だ。勝手に通してもらえるとは思えない。
ハイテンションで入ってきた彼女にガンを飛ばし、フジは問い詰める。場合によっては警備員の解雇も辞さないらしい。
「ってオイ。テメェ何で勝手にここに入ってきてんだ」
「いやぁ、私も一般人じゃありませんからね。インベイト社の関係者で、あとは身分証明書とか色々見せたら——通してもらえました!」
「うぜぇ……というか、やっぱ今回もヒナタに会いにきたのか」
「まあまあ、それよりも——今日は暁先輩じゃなくて——貴方に用があってきたんだよね!」
「えっ……!?」
ビシィッ、と指をさすノア。
その視線の先には——ホタルの姿があった。