二次創作小説(紙ほか)

Act5:貴方の為に ( No.386 )
日時: 2016/09/22 21:14
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 龍の印より現れたのは、純白の革命龍。
 その光により、更に2つのシールドが現れる。しかも、両方とも革命2でS・トリガーとなっているのだ。

「……《ドラゴンズ・サイン》——!? カウンター狙い……!? そんな呪文を、そのデッキに入れてたの——ふふ、あはははは!! やっぱ面白い、面白いよ貴方は!! ターンエンド!!」
「……さっきのビジョンは、一体——!?」
「フフッ、少しケルスの力で貴方の精神に干渉したんだよね。貴方に貴方の内面と向き合って貰った。だから、この空間を開いたんだよ」

 その結果、大成功だったようだね——と、ノアはホタルを一瞥する。
 今の彼女は見違えるようだ。少し前の、委縮していた臆病者の面影は何処にもない。

「そこから先は貴方次第だったけどね」
「……ノアさん。貴方は一体、何を考えているんですか?」

 ホタルは、彼女に自分が立ち直るきっかけを貰ったことこそ感謝していたが——この少女の発言も、行動も、何かきな臭いものを感じるのだ。

「別に? 私はケルスの目的を達成するため、そしてインベイトの目的を達成するためにここにいる」
「……そうですか」

 目を瞑ると、彼女は言った。

「——では、こちらからも仕掛けます。《束縛の守護者 ユッパール》召喚! その効果で、《ギャロウィン》をフリーズ!」
「あ、やったなー!」
「そちらにはもう、手札は無い。展開は出来ないはずです! ターンエンド!」
「——そうだね。だから、殴るしかないかーこっちには《ウルトラスター》を除去する手段が無いしね」

 言った彼女は、諦めたような表情で《XANTHUS》に手を掛けた。
 そのまま、三頭の獄卒は、ホタルのシールドを食い破っていく。
 しかし——ホタルのシールドは、《ウルトラスター》の効果で全て、シールド・トリガーを得ているのだ。

「S・トリガー発動——《信頼の玉 ララァ》——そして」
 
 人を想う覚悟に、革命の時は未来より訪れた。

「時を超える天王よ、私の天命の下へ! 更なる未来を掴むため、革命を起こしなさい!」

 それは時間も空間も、すべての節理を超えて奇跡を起こす。
 未来の天王にして、伝説の革命軍が再び、降り立つ——



「天高く舞い、歴史を変える奇跡となれ!!
《時の革命 ミラダンテ》!!」



 次の瞬間、ノアの場は全て凍り付いた。
 まるで、全ての時間が止まってしまったようだ。

「……へーえ、それが」
「いえ、これだけじゃありません。今まで私を支えてくれた全ての人、全てのカードが——私にとって大切な仲間、そして大切なモノです!!」
「ターンエンド」

 静かに宣言するノア。
 この時点で——彼女の時間は止まったも同然だった。
 《ミラダンテ》の能力により、《XANTHUS》も《ギャロウィン》もフリーズされてしまったのだ。
 更に——《ミラダンテ》の時計の針が12時丁度を差した。



「止まれ時間よ。変わりゆく世界を停止し、賛美の咆哮を上げなさい! 革命0、発動!」



 次の瞬間——全ては止まった。
 空間は一気に歪む。
 まるで、すべての時間が目の前の少女に支配されてしまったかのような錯覚を、ノアは受けた。

「これで、もうあなたはクリーチャーの召喚が出来ません。次のターンでの逆転は不可能」
「クリーチャーの召喚が——出来ない!? へーえ、面白いじゃない!!」
「これで最後です。私のターン——G・ゼロで自分の場にエンジェル・コマンド・ドラゴンがあれば、私はこの呪文をただで唱えることが出来ます! 呪文、《ミラクルストップ》!!」



ミラクルストップ R 光文明 (4)
呪文
G・ゼロ—バトルゾーンに自分のエンジェル・コマンド・ドラゴンはあれば、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
次の自分のターンのはじめまで、相手は呪文を唱えられない。




 これにより、ノアはクリーチャーの召喚も、呪文の詠唱もできなくなってしまったことになる。

「……なーるほど。何も出来ない、ってわけか」

 《ミラダンテ》と《ウルトラスター》で全てのシールドが割られていく中、ノアはホタルの顔を見据えた。

「——その心と力が、世界で、そして——その先へ通用するか——今から楽しみだよ」
「——《ユッパール》で——」

 彼女は拳を突き上げた。
 彼女の従える全てのクリーチャーが咆哮を上げた。



「ダイレクトアタック!!」



 ***




 空間は解けた。
 そこには——デュエルの前とは一転した表情のホタル、そして——相変わらず不遜な笑みを浮かべるノアの姿があった。
 慌ててヒナタ達が駆け寄る。
 妙な空間が開かれていたのだろう。

「お、おい、どうなってんだよ!? ノア!?」
「先輩、心配しないで下さいよう。ホタルには何の危害も加えてませんよ、っと。すこーし、茶目っ気でスリリングな空間で遊んだだけ、ですよね?」

 くるり、と身を翻すとノアは部屋のドアノブに手を掛けた。

「結局あんた、何だったの!? てかホタルちゃん、大丈夫!?」
「おい、ノア!! テメェ、ホタルに万一のことがあったらどうしてくれるつもりだったんだ!!」

 憤慨するのは、コトハとノゾムだ。
 それを窘めるように、ホタルが言った。

「わ、私は大丈夫ですよ!? 勝ちましたし——でも、ノアさん」
「んー?」

 ホタルは彼女の瞳を睨んだ。
 とても青く澄んだ目だ。気を抜けば引き込まれてしまうような——しかし、そこには何かが隠されている。

「……もう1度問います。貴方は、何を考えてるんですか? かつて、一番親しかったヒナタ先輩にも隠して——何を」
「流石に、今此処で言うわけにはいかないかなぁー」

 おどけた態度で彼女は言った。
 問い詰めるような表情の6人を前にして——尚も彼女は笑っていた。

「それよりも、そろそろそっちも急がなきゃ、手遅れになるんじゃないの?」
「……むっ」

 唸ったのはフジだ。
 すぐにタブレットを弄ると——そこには、武闘財閥の監視センターからのレーダー反応が映し出されていた。
 そして、急報が入る。

「光と闇の混ざった巨大な反応——だと!?」
「えっ!?」
「これは、穏やかではないな」

 駆け寄るレンとコトハ。
 確かに、この海戸の近くに巨大なそれが発生している。
 地点は——旧海戸水産工場だった。

「旧海戸水産工場——!? 何でここに——おい、ノア——」

 ヒナタが振り向くと——既にそこに、彼女はいなかった。

「……逃げられたか。あいつもそこに向かったと考えるべきか?」
「どっちにしたって——あ、そうだ! ハーシェルとアヴィオール——」



『只今戻ったぞ!!』
『遅れてすいませんねぇ』



 声がした。
 同時に、窓から2枚のカードが入ってくる。
 それは——ハーシェルとアヴィオールのものであった。

「おい貴様」
『申し訳ない、黒鳥レン』
「ハーシェル……」
『すまんかった、ホタル』

 沈んだ声でハーシェルは言った。
 見上げると——ホタルの目には、涙が浮かんでいる。

「ばかぁ!! どこに行ってたんですか!!」
『……ワシも、一度見つめ直しておったのじゃよ。弱い自分がな——だが、それはヌシに心配をかけた言い訳には、ならぬか』
「……私、貴方に見捨てられたかと思ったんですから!!」
『……すまぬ。ワシは——ヌシに相応しい騎士か、分からなくなったのだ』

 弱気な事を言うハーシェルに、ホタルは間髪入れずに叫んだ。

「——勘違いしないでください!! 私の騎士は、貴方しかいないんですからね!! こっちだって——いつも、無茶ばかり付き合わせてしまって——」
『……いや、それで良い』
「ハーシェル?」
『……ワシも、一度覚悟したからには——ヌシに最後までついていかねばな』
「良いんですか? こんな私でも——」

 こくり、とハーシェルが頷くと共に——フジが焦ったような表情で言った。

「おい、テメェら。急いだほうが良いぜ。こいつは——ちと、やばいかもしれん。これがドラドルインでも、そうじゃなくても、だ——!!」
「だけど、大丈夫なのか? ホタル。お前は——」
「これだけやられて、黙って逃げるなんてもう出来ません! うじうじしてる暇があったら、突撃あるのみです!」
「ねえ、何があったの、マジで」
『ま、色々あった借りは返さないとね!』

 あの空間の中で何があったのかはわからない。
 しかし、彼女の心境に光が差したのは確かだろう。

「でも、私だけでは無理だと思います。皆さんも、手伝ってくれますか?」

 くるり、と彼女は今まで支えてくれた仲間たちに向き直る。
 彼女が信じていた彼らならば——答えは1つだった。

「今更何水臭いこと言ってんのよ! あたし達も出来るだけサポートするわ」
『僕達も同じですにゃ!』
「まったく、世話を掛けさせる。まあ、本当に今更だがな。拒否権など、僕らには無い。貴様は僕の後輩だ。僕が責任もって面倒を見るのは当然、だろう?」
『ごたごたも解決しそうですし、丁度いいでしょう。やっぱり本音と本音で語り合うのが一番ですねえ』
「そうか。では主人の僕に何も言わなかった貴様は後で罰ゲームだ」
『え』
「決まったな!! じゃあ、早速行くとするか!!」
『やれやれ。さっさとやってしまおう。私達は、そのために此処にいるのだから』
『あのう? ボクの扱いは? ねえ?』

 全員の気持ちも一致している。
 
『ホタル。話は後だ。今はやるべきことがある』
「そうですね、ハーシェル。私はもう、迷いませんから!!」

 仲間に頼る後ろめたさは、もう彼女には無い。
 自分でいいのか、という迷いはもう彼には無い。
 柵のなくなった2人は今——自らが生み出したものとけじめをつけるべく、立ち向かおうとしていた。