二次創作小説(紙ほか)

Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜 ( No.387 )
日時: 2016/09/24 00:17
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「着いたぞ」

 海戸地区の離れ。車で10分程の場所に海戸水産工場はあった。
 以前はアンカが根城にしていたが——今回、その反応はない。
 その代わり——今回は、光と闇の巨大な反応が辺りを支配しており、放置することは最早出来なくなっていた。
 立ち入り禁止のテープを掻い潜ると、臭い匂いが鼻をつく。これは腐臭だ。かつて、水産工場だった頃の名残なのか、それとも——

「此処が廃棄されたのはとっくの昔、今の海戸ニュータウンが完成する前のことだ。にも拘らず——なぜだ?」
「うえ、気持ち悪い……」

 入口からノゾムは工場の内部を覗き込んだ。荒れ切っている上に、明かりも無く、暗い。そしてやっぱり臭いモンは臭い。

「……先輩、これ中に入れるんすかねェ……?」
「いや、入れるはずだぞ——」

 ぽん、とフジはノゾムの背中を押した——

「どわいい!?」

 驚いたようなノゾムの声は——途中で吸い込まれるようにして消える。

「こ、これって」
「大規模な決闘空間がすでに中で展開されている。奴が力を付けている証拠だ」
「ともかく、俺達もノゾムに続くっきゃねぇみてーだな」
「そうですね!」 
「続くっていうか、無理矢理押し出されたように見えたんだけどあの子……」
「コトハ、僕達も行くぞ」
「はいはい……」



 ***



 なるほど、確かに中は決闘空間が広がっていた。
 しかし——それ以上に、異質だった。
 あちこちに黒い血がこびり付いているが——何よりも、ポッドのような機械があちこちに置いてある。
 また、中央には巨大な装置があるものの、既に稼働を停止しているようだった。

「これって、研究施設か何かか?」
『いいえ。この工場全体に張り巡らされた決闘空間そのものが、アルゴリズムが精製した装置です。大量の血液を、仮死状態にしていた人たちから殺さないようにして吸い取っていたんですよ。そして、合成させ、魔力を混ぜたものが——アルゴ・アヴィオールという傀儡を動かすエネルギーとなった』
「アヴィオール……」
『いわば、この工場は——血液の永久機関とでも言っておきましょうか。奴は、生物を魂状態にして保存する能力を持っていたので、それで多くの人間をかき集めたわけでしょう。多くのマナを集める為、なるべく多くの人間が必要だったわけです——負の魂を抱えた人間をね。もっとも、此処がバレたあと、すぐ放棄する羽目になったようで、監禁した人々を全て魂にして保存していたようですが』

 ホタルはぞっとしなかった。
 あの戦い——もしもノゾム達が負けていれば、自分も、レンもアルゴリズムの作り出した血みどろの機関の1つに組み込まれかねなかったのだ。

『そしてドラドルインは、この機関によって生み出された産物と淡島ホタル、そしてハーシェルの心の闇を組み合わせて作られたステラアームド。本当にロクなものじゃないですねぇ』
「気持ちが悪いわね、なんていうか空気が……本当、此処でそんなことが行われてたって思うと……怒りが込み上げて来るわ」
「本当、許せねえな……」
「先輩も、っすか。オレも今、すっげー胸糞悪い気分っすよ」
「ったく、もっと早くこの場所に気付いていれば良かったんだけどねぇ……決闘空間で閉じられていた訳か」

 口々に言いながら、ずんずん、と工場を突き進んでいく。
 そんな中でホタルも、口にはしなかったが、何とも言えない感情を抱えていた。
 ……さて、近付くにつれて、どんどん、反応は大きくなっているらしいが、他のクリーチャーが潜んでいる気配は感じられない。
 一応、クレセント、ニャンクス、ハーシェル、白陽が周囲の警戒に当たっているが——地図によると、あの大扉の先に巨大な反応があるという。既に稼働が停止した生産ラインを通る中——全員は黙り切っていた。が、

「ホタル」
「は、はい! 何でしょう、レン先輩」

 しばらく続いていた静寂は、レンのホタルに対する問いかけで途切れることになる。

「貴様はドラドルインのことをどう思う?」
「ドラドルインのことを、ですか——?」
「そうだ。少し気になってな」

 ホタルは、俯いた。
 ノアは——彼女の事を不良品と言っていた。呪われたステラアームドと言っていた。
 自分も現に、散々に痛めつけられた。自分の姿で悪さをされた怒りもある。
 しかし、それ以上に——

(いつまで綺麗事で固めて嘘をつき続けるつもりなのかしら。そんな貴方から生まれた私は——貴方のことが大嫌いなのよ)
(仲間など最初からいなかった。全部、お 前 の 妄 想 だ っ た)
(さっき言った不良品のステラアームドと違って、暴走は起きないようになっているからね!)

 ——ホタルは押し黙った。
 やはり、単純に憎み切れる存在ではない。
 彼女もまた、自分の一部であり、自分から生まれた存在であるなら——

『ヌシだけではない。ワシも同じじゃて』
「ハーシェル」
『奴はヌシであり、そしてワシでもあるのだから——』
「そうですね。彼女もまた、私の一部分。私です。だから——放ってはおけないです」
「まあ、そこに気付いているのならば、何も言う事はない」
『そうですねえ。まあ、精々もがいて悩んで結論を出してくださいな』
「それに——とうとう、来たらしいぞ」

 ぴたり、と全員の足が止まった。

「おいおいレン……てめーらが無駄口叩いてるから、敵さんやってきちまったじゃねえか」
「そうかそうか貴様はそういうやつなんだな、馬鹿め。元から正面突っ切ってカチ込んでいるのだ、今まで音沙汰無しだったのがおかしかったのだよ」
「あーもう! 今そんなこと言ってる場合!?」
「先輩たちはブレねぇっすね本当……」
「見えたぞ……よーやっと来やがったみてーだな」

 見れば——虚空に、5つの影が浮かぶ。
 それぞれ、《光器ペトローバ》、《光器 パーフェクト・マドンナ》、《光器セイント・マリア》、《天国の女帝 テレジア》、《天雷龍姫 エリザベス》——全てメカ・デル・ソルだ。

「ホタル!」
「は、はい!」
「此処はオレ達に任せろ! 先に行ってな!」
「ノゾムさん、それすっごい死亡フラグです!?」

 ぐっ、と如何にも死にそうなセリフをドヤ顔で言い放つノゾムを心配するホタル。
 しかし——ドラドルインを止められるのは自分しかいないのだ。
 全員、やる気だ。ノゾム達は、言葉もなく襲い掛かってくる光器達に大立ち回りを演じる気なのだ。

『よし、いっくよノゾム!! 暴れるぞー!!』
「決闘空間を開くまでもねぇ!! ぶっ飛ばすぜ、クレセント!!」
『やるとするか。ヒナタ、準備は出来ているな』
「誰に向かって言ってんだよ。いつでも良いぜ!」
『コトハ様! 僕達もいきますにゃ!』
「ええ、パワーで劣るならあたし達は決闘空間で勝負するっきゃないわね!」
「俺様もそうなるな」
『さて、全機撃墜といきますかねぇ。こないだの汚名返上といきますか』
「汚名挽回にならないよう気を付けるんだな、アヴィオール」
『心配はご無用。それとハーシェル』

 アヴィオールは、最後にハーシェルに呼びかける。

『特訓の成果——はともかく、ご武運を願っていますよ』
『……ああ、感謝じゃよ——アヴィオール』
「ホタル!! 貴様の実力、存分に奴に見せてやれ!!」
「はい! 先輩!」

 もう迷いはない。
 この先の扉に——彼女は、居る。

「ハーシェル!!」
『御意!!』

 その声と共に、鋼の扉は打ち壊された——