二次創作小説(紙ほか)
- Act8:冥獣の思惑 ( No.392 )
- 日時: 2016/10/11 19:53
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「……情けない、ですわね」
がくり、と倒れたドラドルインは既に息も絶え絶えだった。
最早、先ほどまでの巨大な魔力は失ってしまったようだった。
「結局、私は1人だった——でも、貴方は1人じゃなかった。それだけの違い、でしたのね」
消滅しかかっているからか、口元に自嘲の笑みを浮かべて、彼女は言う。
しかし——ホタルはすぐに駆け寄り、言う。
「そんなことは、無いです」
「……!」
「貴方は私、私が貴方なら——貴方も、1人じゃなかった。今ここに、私が居ます」
「……お人好しね。あそこまで痛めつけられたのに——何故、そんなことを言えるの」
「決まっているじゃないですか」
ドラドルインの手を握って、彼女は言った。
「……貴方も元々は、私の一部。たとえ、それが私の忌むべき面だったとしても、放ってはおけなかったんですよ」
はぁ、と鋼鉄の光器は息を吐いた。
「私は自分が嫌いでした。でも、それだけじゃダメだったんです。私が拒絶すれば、貴方も拒絶する。でも、私から近づけば貴方も近付いてくれるはず。そう思ったんです。良い自分も、悪い自分も、全部ひっくるめて私なら——やっぱり、向き合っていくしかないから」
『ワシもそうだ。逃げられんモンから、いつまで逃げても仕方ない。何せ”自分”からはどうやっても逃げられんじゃろう。そんなことに、何百年生きていても気づかんかったとは、ワシもまだまだじゃ』
「……そう、か」
「こんな形じゃなければ、出来れば戦いたくはなかった。でもドラドルイン、貴方が望むなら——」
そう、彼女が言いかけたその時だった。
ドラドルインは、その手でホタルを突き飛ばす。
とても強い力だった。
そのまま彼女は壁に叩きつけられる。一瞬、意識が飛びそうになった。激しい痛みが襲い掛かるが、幸い頭は強く打ったわけではなさそうだ。
慌ててハーシェルが駆け寄った。
『ホタル!?』
と、呼びかける間もなくだった。
ドラドルインに、漆黒の弾がぶつけられ、大きな悲鳴と爆発音が響いた。
痛みに顔を歪めていたホタルも、思わず目を開ける。
そこには——ノアと、ケルスの姿があり、既にドラドルインの影も形もなかった。
「いやぁ、お疲れー淡島ホタル」
『やれやれ、本当に手間取ったわね』
ホタルは、驚きで目を見開く。
ノアの手には——漆黒のオーブが握られていた。
「ほら、ケルス。お待ちかねの」
『フフッ、これが楽しみだったのよ』
「ノア——!!」
「ホタル、大丈夫か——!?」
声がした。
目をやると、そこにはヒナタとノゾムの姿があった。
「おっと先輩。こっちは今、終わったところですよ。残敵を黒鳥レンと如月コトハ、武闘フジに任せて、追いかけてきたんですねえ」
「ノア、テメェ、何考えてんだ!? 何で、此処に!!」
「何って——不良品の精一杯の活用ってやつですよ」
いけしゃあしゃあと言うと、ノアは続けた。
また、彼女は”不良品”と言った。恐らく、ドラドルインのことで間違いないが、無邪気な笑みには漆黒の禍々しい意思を感じた。
「私のケルスは——というか、ひょっとしたら英雄自体がどうかは知りませんけど、弱ったステラアームドにオーブ化することで、自身のステラアームドの強化の”餌”に出来るんですよ」
「え、餌、だと……!?」
『それだけではないな……!!』
唸るように、ハーシェルが言った。
彼の語気には明らかな怒りを感じる。
『ヌシ、ホタルをさっき狙ったじゃろう——!! ドラドルインがホタルを突き飛ばさなければ、ホタルもアレに当たっていた!!』
「あー、それですか。特に気にしてなかったですね。別に、どうなろうが”どうでもよかった”ですし」
『なっ——!!』
全員の視線が、怒りを帯びたものに変わる。
余りにも薄情なノアの言動に、失笑を隠せない。
「言って今まで助けたのはこの為ですし。ぶっちゃけ、闇のステラアームドが活動している以上は、手段を選んでる暇なんか無かったんですよねー。ま、そのあとはどうなろうが関係なかったですけど」
「ッ……景浦ノア、テメェっ!!」
地面を蹴って、拳を振り上げたのはノゾムだ。
さっきまで友好的に振る舞っていたのが一転、自分たちを利用したばかりかホタルを切り捨てたことに怒りが怒髪冠を衝いたのだ。
そのまま彼女に殴りかかるが——ケルスが障壁を貼ったことで、阻まれてしまう。
「お前、よくも、よくもオレ達を、ホタルを——!!」
「十六夜ノゾム、熱くなりすぎるのは貴方の悪い癖だよー? 水使いの癖に、お笑いってもんだよね。あ、そうそうさっきの話の続きだけど、武器ってのは道具なんだよね結局。ステラアームドもそう」
薄ら笑みを浮かべながら彼女は語った。
彼女が不良品というステラアームドは、主を乗っ取り、感情を持つ者達であるが——
「感情を持った道具は要らない。それは間違いなく不良品。ま、でもただゴミのように捨てないのは、私の優しいところだよねー。こうして、ケルスの優秀なステラアームドの一部となるんだから」
そういうと、彼女はさっきのオーブをケルスに放った。
それを彼女が噛み砕くと——デッキケースの中のカードが黒く光る。
「おほっ、大当たりぃー。これは帰ってからが楽しみだなぁー。あ、それと君。好い加減うざいよ」
言うと、ノアの障壁から紫電が迸った。
そのまま感電したノゾムは、地面に転がる。慌ててヒナタ達が駆け寄るも、ショックで気絶しているようだった。
「ノア、なんでこんなことを——お前、そんな奴じゃなかっただろ!?」
「はぁー、うざいんですけど、先輩。それ、結局あんたの妄想ってモンですよね。過去の私を今の私に当て嵌めるとか、やっぱムカつきますよ、あんたって人間は」
「お、お前——!!」
「ま、先輩方もこうやってスクラップの処理の仕方を学べたことですし、win×winってことで良いでしょ」
「……不良品、なんかじゃない……!!」
声を上げたのは、ホタルだった。
呻くように小さな声で、彼女は精一杯声を絞り出す。
「確かに、敵対してしまったかもしれない、私と成り替わろうしていたかもしれない——だけど、感情を持って、ドラドルインは生きてた!! それを、不良品呼ばわりするなんて——否定するなんて、私が許さない!!」
「はぁー、助けてやったのにその態度。最初っから、貴方見ててうざかったんだよね。変にうじうじしてるし、やたらとお人好しが過ぎるし——昔の私を見てるみたいで、反吐が出るよ」
「よくもまあ言えたもんだな、どうでもいいなんて言っておいてよ!!」
「それとこれは別でしょー」
語気を強めていったノアは——ケルスのカードを掲げる。
「でも、こっちにも目的ってもんがあるんだよねぇ! 貴方達にも無関係じゃないんじゃないかな——《死神博士》の事については——!」
「死神博士!?」
ヒナタは驚いたような声を上げる。
それはかつて、アヴィオールを傀儡にして動かしていたという男のことだ。それを何故、彼女が知っているのか。
「ケルスはね。元々、そいつを倒す為に、元居た世界からここに送られてきたわけ。奴を倒すには普通のステラアームドじゃ、不可能。だから、より強いステラアームドが必要なわけよ」
『私達の邪魔はしないわよね。まあ、こっちはこっちで勝手にやらせてもらうけど、調子に乗ってるなら容赦はしないわ』
「てわけでせんぱーい。また、会いましょう。今度は世界で——それと、淡島ホタル。貴方もね」
言った彼女は——そのまま、忽然と姿を消してしまったのだった。
何かの呪文を使ったのだろうが——最早、ヒナタは追いかける気力もなかった。
「ノア、なんで——!!」
ノゾムを抱えながら、譫言のように呟くヒナタ。変わり果ててしまった自分の後輩を前に、失意を隠せない。
そして、疲弊しきってはいたものの、ホタルも目の前で起きた出来事に衝撃を隠せなかった。
ドラドルインは——彼女は、最後の最後で、ケルスの攻撃からホタルを守った。
「……ドラドルイン——最後は、私を庇ってくれたんですよね」
『……ホタル。そうだ。あいつは最後の最後で、自分の役割を全うしたのだ』
「——分かり合えたかもしれないのに——どうして——!!」
ぽろり、と鉄の床に落ちた涙は——とても、熱かった。
「……許せない。人も、クリーチャーも、ゴミ呼ばわりするあの人だけは——先輩の思いを踏み躙ったあの人は絶対——許さない……!!」
息を荒げながら言ったホタルは——そのまま、意識が暗転した。
体の力が抜け——それ以上は何も覚えていない。