二次創作小説(紙ほか)
- Act9:終幕、そして—— ( No.393 )
- 日時: 2016/09/25 23:04
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
どうやら、武闘財閥のフジのオフィスのソファに寝かされていたらしい。
目をこすって起き上がると、お通夜のような雰囲気の5人が辛気臭い空気を漂わせてミーティングしていたため、何があったのかは想像に難くなかった。
「……なあ、ノゾム。俺、後輩にあそこまで嫌われるなんて……何がいけなかったんだろうな。アレか? グラサンか? グラサンがやっぱダメだったのか?」
「毎度毎度ながらグラサンを原因と断定する理屈が理解出来ないんすけど」
「好い加減察してやれ。傷心状態のこいつに何を言っても無駄だ。直に戻る」
「正気に戻りなさいヒナタ、ノア達からそのグラサンを貰ったんじゃないのよ」
「……ああそうだけど……」
机に突っ伏し、心がぽっきり折れたらしいヒナタは言葉にならない呻き声を上げていたのだった。
「あ、あの」
ふらっ、とよろめきながらも起き上がってきたホタルに、全員注目した。
ヒナタも、起き上がり、
「ホタル、もう大丈夫みてーだな」
「ハーシェルが、打撲痕とか治してくれたから、後でお礼言っときなさいよ?」
「まあ、それにしたってホタル。今回は俺の後輩が迷惑を掛けたな。本当にすまなかった」
申し訳なさそうに謝るヒナタ。
しかし、やったのはノアであって、彼ではない。彼は何も悪くないのだ。
「ノゾムも、だ。改めて謝る」
「そ、そんな。ヒナタ先輩が謝ることはありませんよ!」
「悪いのは、あのノアっすよ! まあ、突撃したオレも自業自得って感じだけど……先輩の思いを踏み躙るような奴、絶対に根性を叩き直してやらねーと気が済まねえし!」
『そーだよ! 絶対に、許せないよね!』
「……俺は最初、久々にあいつに会えて嬉しかったんだ。だけど、あいつは外見だけじゃねえ。優しかった中身も——変わっちまってたことに、俺は最後まで見抜けなかった」
「先輩は、自分を責めないでください。私は今回の件で、ハーシェルの新たな力を得ることが出来ただけじゃない。色んなことを学べました。だから——決着をつけましょう! 絶対に、いつか!」
確かに、此処で沈んでいる場合ではなかった。
既に、決戦の舞台であるD・ステラの開催日は近付いている。
そこで、アメリカチームにいるノアと戦えば——何か分かるかもしれないのだ。
「今回の件、僕にとっても無関係ではないらしいな」
「レン……!」
「アヴィオールの仇敵・死神博士を、その少女は追っているらしいじゃないか。僕としては見過ごせない。その死神博士——彼女に倒される前に、僕達が倒す」
『……奴だけは、この手で。この世界に、まさかいるとは思いませんでしたが——これもまた、運命でしょう』
静かな怒りを見せながら、レンは言った。
自身を傀儡としたアルゴリズム——その根源たる死神博士を倒すことは、レンとアヴィオールにとって、邪悪龍に並ぶ優先順位となっているようだ。
「ま、そういうわけだ。それぞれに、やるべきことが出来ている——もうじき、D・ステラの対戦カードも決まる」
「世界への、そしてその先への戦いは、もう始まってる——何なら、猶更頑張るしかないっすね!!」
「……はいっ!」
こうして。
それぞれのやるべきことは決まった。
優勝を目指して勝ち抜いていけば、いずれアメリカチームと当たることもあるだろう。
その時に決着をつければいい。
——私達に出来ること——それを考えないと。ハーシェルと一緒に、強くならなきゃ……! 決着を、つけるために!
——色々因縁抱えてってけど、今度の世界の旅で絶対に清算してやる……邪悪龍も、そして死神博士も、もう放ってはおけねー!
——死神博士——奴がどういう男なのか、僕もアヴィオールもよくわからない。しかし、必ずこの手で、奴は討ち取る。
——ノア——あいつが何をしようとしてるのか、嫌な予感がする……勝たねえと、とにかく!
——そうか。もうすぐD・ステラが始まる——あたしも、ヒナタに負けないくらい、もっと強くならなきゃ!
——ガキ共の目が変わった……覚悟完了、もう気持ちの面で何も俺様から言うことはねーな。
それぞれが見据えるは、別々の星。
与えられ、掴み取った星座の力を手にし、彼らは——決戦への決意を固めた。
***
「……ねえ、ハーシェル」
『何じゃ?』
部屋に寝転ぶハーシェル。もう、いつもの子馬の姿に戻ってしまってはいたが、横たわる彼に体を擦り付ける。
「……私、今回の件で少し自分の事が好きになれた気がします。私は弱くて、調子に乗りがちで、一言多かったりドジだったり……でも、そんなところも全部ひっくるめて自分の事が好きになれたら——素敵かもしれないですね」
『向き合う事じゃな。誰にも嫌なところがある。だが、それだけではないのだ。もっと、物事の色んな面を見ねばならん』
「……ドラドルインも、最後は私のことを認めてくれたのかな」
『ホタルが、奴に心を開いたから、あやつもヌシに心を開いてくれたんじゃよ。他人に接する時も、”自分自身に接するときも”同じだと言う事。拒絶すれば相手も拒絶するが、好きになればその分相手も好きになってくれる。”自分”というのは、こんなにも素直なものなのだろうな。それにやっと、ワシも気付けた』
ひひん、と小さく鳴くと、ハーシェルはホタルに顔を擦り付けた。
「ハーシェル? 甘えたいんですか?」
『……馬鹿もん。そんなことを言うんじゃない』
「おじいちゃんですからね」
『ふん、失敬な事ばかり言いおって』
「嘘ですよ。ハーシェルの本当の姿、とっても若々しかったですよ。喋り方はアレだけど、ハーシェルはとってもかっこいいです」
『よく言うわい』
根がひねているので、褒められてもなかなか素直に受け取れないのだろう。
「ハーシェル。最初は、私もあのノアって人が許せませんでした」
『……そうか』
「だけど、あの人も何かを抱えているなら——それを分かち合えば、ドラドルインみたいに分かり合えるかもしれない。そのためにデュエマがあるんです。ノゾムさんが言ってました。魂と魂のぶつかり合いだから」
『本当にお人好しじゃ』
「ふふっ……」
『だが——ワシは、そんなヌシに惹かれたのかもしれんな。どうしようもなかったワシに、ヌシは居場所を与えてくれた。もう、自分の役割を放り出したりなんかせんよ』
「はい。私もです。ハーシェル、いつもありがとう」
そう言うと、ハーシェルは少し恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。
ああ。何故この少女は、こんなに純真無垢なのだろうか。
この少女の心は、自覚している以上に美しいのだ——
『——こっちこそじゃよ。いつもありがとう、ホタル』
カーテンを開いた窓から星を見つめる。
それは、これからの運命を示すように——とても明るく、光り輝いていた。