二次創作小説(紙ほか)
- Act0:開幕、D・ステラ ( No.396 )
- 日時: 2016/09/30 00:11
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
『ええー、こちらアメリカ”ドリームワールドスタジアム”より中継を行っております。現在、D・ステラの各国の代表でもあるデュエリスト養成学校長がクジ引きによって、対戦カードを決めている最中です』
ドリームワールド。インベイト社のテーマパークであり、アメリカでもトップクラスの規模を誇る。
また、それだけではない。こうして、世界でも最大のホログラム展開装置を備え付けたスタジアムを有している。
此処で現在、各デュエリスト養成学校の校長による、クジ引きによる対戦カードの決定が行われていた。
今回のD・ステラ本選に参加しているのは32ヵ国、32校。それらがトーナメントによって鎬を削りあう。
『おーっと、日本代表・鎧龍決闘学院校長、瓜生崎氏がくじを引きました——そして、これで全出場校のクジ引きが終わった模様です!』
そしてしばらくして。
全てのくじが開かれる。対戦カードがどんどん埋められていき——鎧龍の名前もそこに刻まれた。
トーナメントの隣には——
『D・ステラ、日本代表鎧龍決闘学院の最初の対戦相手は——』
***
「……ノゾム。明日はいよいよ出国だな」
「ああ。じいちゃん、オレがしばらく帰って来ねえからって寂しがるなよ?」
「ふん……」
ぶっきらぼうに言った龍三は、溜息をついた。
この数か月。鎧龍に入学してからの間に、随分と逞しくなったと彼は思い返す。
以前、クレセントを知る者として武闘財閥からの説明を受けた時は半信半疑だったが、最早疑いようもない。
彼は世界に行き、また戦いに行くのだ。未知なる邪悪な存在と——
「……ノゾムよ」
「何だ?」
「……必ず帰って来い」
その言葉は余りにも重々しかった。彼は、事故で息子夫婦——つまりノゾムの両親——を失っている。
「分かってるよ。クレセントも一緒だ。じいちゃんを1人にはしねーよ」
『まっかせて! あたしがノゾムを守るから!』
「……うむ」
彼は小さく頷いた。
なあじいちゃん、とノゾムは言った。
「何か、今此処でこんなことを言うのもあれだけどさ——今までこの10年間——本当、ありがとな。じいちゃん」
「……ふっ、小童が素知らぬうちに大きくなりおって。泣き喚いてばかりじゃったのが、今じゃコレだ。全く、敵わん」
しわの刻まれた手で、ノゾムの肩を持つと、龍三はすっ、とその目を見据える。
「……この先、お前にはとても厳しい事が待っているやもしれん。いや、恐らくそうだろう。月神様に関わる事という以上はな。そして、日本から出た先の世界の強豪に立ち向かいに行くのだ。一筋縄では行かんことも多いはず——それでも挫けてくれるなよ」
「分かってる。オレはもう、1人でやんちゃしてた頃のオレじゃない。ヒナタ先輩、レン先輩、如月先輩、武闘先輩、そしてホタルにクレセント——沢山の大切な人が、この短い間に出来ちまった。その人たちの為にも、絶対に諦めたりなんかしないさ」
『ねえ、龍三。それに十六夜家の人たち——今まであたしを守ってくれたこと、本当に感謝してる。貴方達が居たから、あたしはノゾムと出会えたんだから。頑張ってくるからね!』
「……どうやら、大丈夫のようだな」
この10年間。
両親が死んでから、ずっと一緒だった祖父。
そして、自分を守ってくれた恩人。
ノゾムにとっても、クレセントにとっても龍三は掛け替えのない人だ。
「絶対、優勝して——邪悪龍もぶっ倒してくる! 世界で、オレがやったことを残してくるぜ!」
***
「兄ちゃん、まだデッキ組んでたの……?」
「おーう、ユウキ。兄ちゃんはぜってー勝たないといけねえ戦いに行くからな」
ドラポンと以前、一緒に撮った写真をデッキケースの中に入れ、部屋に入ってきた弟にヒナタは返した。
「もう明日早いんだろ……さっさと寝た方が良いってば」
「わぁーってるよ。ま、取り敢えずユウキ。俺がいない間、母さんのこと頼むぞ?」
「父さんも滅多に家に帰って来れないのに、兄ちゃんまでしばらく居ないんだから……てか、そういう兄ちゃんの方こそ大丈夫なの?」
家族には、クリーチャーの事も、D・ステラ出場の裏に隠された意図も話しては居ない。
全部背負い、全部隠して——ヒナタは戦いに挑むのだ。
「それに、俺には頼りになる仲間と後輩がいるんだ」
「……あっそ。ま、兄ちゃん案外泣き虫だし、ぜってー1人じゃ無理だろーな、世界で対戦するなんて」
「おい待て、泣き虫とは何だ」
「……ま、母さんも、僕も応援してるし。絶対負けないでよ」
そういうと、彼は部屋から出て行った。
——応援している、か。
ならば、猶更頑張らないといけなくなった。
そうだ。自分たちを応援してくれる人たちのためにも——これからの期間の間、世界で全力で戦わなければならない。
『——ヒナタ。此処に来るまで、長いようで短かったな』
「ああ。邪悪龍の事も、コロナの事も、ノアの事も、そしてD・ステラの事も——全部、決着ってやつをつけねえとな!」
白陽の言葉に、ヒナタは頷いた。
彼らが何故この世界にやってきたのか。
そして、超獣界へ帰ったドラポン達とも決して無関係ではないはずの侵略者達。
全ての因果を、今こそ断ちに行くのだ。
「白陽。頼むぜ、今度も」
『ああ。私もお前と同じだ。どんな苦境に立たされても——我々はデュエリストとカード。2つが1つになれば、勝てない相手は存在しない』
***
「——この俺を呼び出して、何の用だ」
彼は訝しげに言った。
目の前にいるのは、黒服の男だ。名刺を差し出し、自分の身分を手短に説明すると、彼は話し出した。
「……君に来て欲しいのだよ。世界に、興味はないかね?」
「何を言っている? 俺は既に敗れた身——D・ステラは、俺のような人間には相応しくはない」
「はぁ。都大会優勝経験もある君の台詞がそれか——随分と落ちぶれたもんだね」
彼は押し黙る。
確かに、過去の自分の功績は今からは考えられない程輝かしいものであった。
しかし、それは破られることになる。
ある1人の少年の登場で——
「——本当に行く方法があると言うのか?」
「そうだ。君のような人材こそ必要だ。我々の持つこのカードさえあれば——暁ヒナタに勝つことだって出来る」
「……ヒナタに、か」
「悪い話ではないだろう? もし、協力してくれるのならば、今後の君の進学先も保証してやれる。君の夢に一歩近づくことになるんだ——」
黒服は言った。
彼の瞳を覗き込むようにしながら、その名前を呼ぶ。
「——焔クナイ君」